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両想いの女親友二人がなぜか私を間に挟めようとするのですが、どうすればいいですか?  作者: りんご飴ツイン


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第十話 真なる望みは

 

『アイツ』の言う通り、警備の人たちは()()()()()()()()()()()()()()だからこそ、『草薙』所有のいかにもお高そうなホテルの最上階まで乗り込むことができたのよ。


 問題は。

『草薙』や『東雲グループ』だけでなく、有名企業のお偉方が集まった婚約発表会の場から、どうやって千景を説得して助け出すかなんだけど。


「なにを、しに来たんですか」


 最奥。

 せっかくの豪華なスーツを脂肪で内側からパツパツに押し広げた──おそらくは草薙大蛇とかいう姑息なクソ野郎──の隣に座っていた千景の声だった。


 俯き、表情を隠して、声『だけ』は冷たく、突き放すように。


「弁えてください。ここは! 貴女たちが来るような場所ではありません!!」


 その悲痛な叫びに。

 表情を隠したって隠しきれない苦痛の吐露に。


 ミィナと共にホテル『八岐大蛇』に向かうことを決めた時に付け足してきた『アイツ』の話を聞いていたのもあるけど、改めて私は千景の決意をぶち壊す覚悟を決めていた。


 多分、『アイツ』の話を聞いていなくたって同じように覚悟を決めていたはずよ。


「ははっ、貴女たちが来るような場所じゃない、かぁ」


「琴音ちゃん?」


「確かに、その通りだよ。こんな、もう、見るからに豪勢で、お堅くて、一人の女の子が助けを求めることもできずに震えているのを無視するような連中の溜まり場なんてこっちから願い下げだよ!! だからっ、千景も『いつもの日常』に早く帰ろう!!」


「っ、な、にを」


「こんなところ、千景には似合わないよ。千景は『普通』に笑っているのが一番なんだから」


 僅かに、だが確かに冷たい声音が揺らいだ、その時。


 千景の隣に座っていたクソ野郎が大仰な身振りと共に立ち上がったのよ。


「これはこれは。その制服は僕の将来の妻が通っていた高校のものだよねぇ。ということは、妻のご学友『だった』有象無象ってことかなぁ?」


「何が妻よ、クソ野郎。千景は! 貴様なんかの妻にはならない!!」


「ひひっ、怖い怖い。随分な言い草だけどぉ、千景ちゃんは『草薙』の次期社長であるこの僕、草薙大蛇と婚約することを望んだんだよねぇっ!!」


「ふざけるな! そんなの、千景は望んでいない!!」


「ひっひ、ひゃははっ!! 酷いなぁ。僕たちはこんなにも愛し合っているのに。ねぇ、千景ちゃぁん?」


 ぐいっと。

 油ぎった手で千景を抱き寄せる草薙大蛇。ニタニタと、勝ち誇るような笑みを浮かべて、よ。


「ほぉらほら、千景ちゃん、言ってやろうよぉ。わたくしはぁ、この人をぉ、愛しているんだってさぁ」


「や、めろ、クソ野郎っ。それ以上千景を弄ぶんじゃないわよっ!!」


 思わず駆け出した私が草薙大蛇との距離を数メートルにまで縮めた、その直後のことだった。



 ゴッッッドォン!!!! と。

 私と草薙大蛇が言い合っている間に距離を詰めていたんだろうね。真横から、そう、千景から引き離すように、思い切り床を蹴ったミィナの飛び蹴りが草薙大蛇の頬に突き刺さったのよ。



「ぶべばぶべっぶう!?」


 油が噴き出すような汚い声を上げて吹き飛ぶ草薙大蛇など、誰も見ていなかった。


 とん、と。

 軽やかに着地したミィナは何の迷いもなくこう言ったのよ。


「ちかげ、大丈夫……?」


「え、ええ。って、ミィナ今何を!? あの人は『草薙』の次期社長ですよ!?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……失敗しても、『あの人たち』が、全部ぶち壊すしね。……別に、そんな理由がなくても、やっつけたけど」


 それより、と。

 真っ直ぐに、真っ向から、千景と向き合うミィナ。


「ちかげ……。もう、帰ろう……」


「──、──」


 何かが、漏れたのかもしれない。

 だけど、首を横に振った千景が発したのは漏れたものとは絶対に違うと確信できるほどに、ガチガチに固められたものだったのよ。


「ミィナ、それに琴音ちゃんも。ありがとうございます。ですけど、二人は事情を知らないでしょうし、何よりわたくしは選んだんです。ですから、もう、わたくしのことは忘れてください」


「事情って、あっ。千景、あのね──ッ!!」


 私が事情を知っていること、そして『アイツ』の話を教えるために発した声に被せるように、ミィナの感情の奔流が婚約発表会の会場に響き渡ったのよ。



「忘れられるわけ、ない……。好きな人のことを、忘れることなんて、できないよ……!!」



 バッ、と。

 今まで俯き、表情を隠していた千景が勢いよく顔を上げた。


 正面。

 ミィナの顔をまじまじと見つめる。


「い、ま……なんと、言いました?」


「あ、ぁ……。いっ、言ってない……」


「え?」


「わたし、あの、何も、言ってない……!!」


 瞬間。

 ダダダァーッ!! とそれはもう凄まじい速度で駆け出したミィナが数メートル離れたところで成り行きを見守る形になっていた私のほうに突っ込んできて、って、ええ!? あっ、まっ、ミィナの頭がお腹に突き刺さって……!!


「ちょっ、ミィナ!?」


「ことね、どうしよう……。つい、言っちゃった。言っちゃったよ……っ!」


「……ッ」


 どうしよう、か。

 それを私に聞くだなんてね。


 ──悩んできた。

 三人か、二人と一人。

 ()()()()()()()()()()()、ずっと悩んでいたのよ。


 一人になるのは怖くて、だけど千景が草薙大蛇に奪われて、『二人』になった時、私は思ったのよ。


 これは違う、と。

 三人一緒が一番だけど──二人の親友が一緒に、幸せに過ごしていないような結末は絶対に違うんだと。


 恐怖は、ある。

 多分、私が味方ぶって唆せば、『なかったこと』にだってできるだろう。それくらい、私に頼れば大丈夫なんだと信頼されている自覚はある。……こんな卑怯で最低な私のことを、そんなにも信頼してくれているのよ。


『三人』一緒の日常を取り戻すために、私の欲望のためだけに『なかったこと』にする?


 ふざけるな。

 そんなの、草薙大蛇と何が違うってのよ。


 桜の木の下で恋愛相談を受けたあの日から、真に私が望んでいたのは──


「ミィナ」


 ミィナの肩に両手を置き、お腹に顔を埋めるミィナを()()()()()()()()()、私は自分に刻みつけるように言葉を紡ぐ。


「逃げたって幸せは掴めない。幸せになりたいなら、千景と一緒の未来を掴みたいなら、今こそ勇気をもってぶつかっていくべきよ」


「ことね……」


「大丈夫。ミィナはすっごく可愛いんだから、ちゃんと想いを伝えればうまくいくに決まっているわよ。だから、頑張れ!」


「……うん。頑張るっ」


 振り返る。

 固まったままの千景へと、ミィナが叫ぶ。



「わたしはちかげのことが好きっ。だから、わたしと付き合ってください!!」



 真っ直ぐに。

 全力で。

 ミィナらしく思いの丈を告げて、そして、


「僕を放ってぇ、茶番を繰り広げているんじゃなぁぁぁい!!」


 勢いよく立ち上がった草薙大蛇が千景の髪を掴み、引き寄せながら、そう喚き散らしたのよ。


「痛つ!?」


「ちかげ……!?」


「あのクソ野郎っ。大人しくくたばっておけばいいものを!!」


 くそっ、油断していた!

 こんなことならミィナが蹴り倒した時に念入りにトドメを刺しておけば良かった!!


「僕を誰だと思っているぅ? 望むものはなんだって手に入るんだよ、だって僕は『草薙』の次期社長なんだからぁっ!! なぁ千景ちゃぁん。僕と結婚しなかったら、『東雲グループ』はどうなるかわかっているのかなぁあああ!?」


「っ!?」


「は、ひゃは、はーっはっはっはあ!! 何がどうなっても、どう転んでも、最終的に千景ちゃんは僕のものになぁる!! 大体、そこの女ぁっ。なぁにが付き合ってだ。女同士で気持ち悪いんだよぉ!! 男は女とくっつくのが生物として『正しい』姿なんだぁっ。頭ぁバグって狂うのは勝手だけどぉ、狂うなら人に迷惑かけないところで勝手に狂っていてくれよなぁあああ!!」


 あ、の、クソ野郎!!

 ぶっ殺す!!


「しかし、本当、好き勝手やってくれたよなぁ。この借りは何倍にもして返してやるぞ。この世界は夢と希望でどうにかなるほど単純じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。最後には力ある者が笑うようにできているんだからなぁっ!! 一時のテンションで僕に、『草薙』に逆らったこと、極貧の地獄に突き落とされて後悔することだなぁああああああああああああ!!!!」


 そして。

 そして。

 そして。



「はいはい、うるせえよ」



 ゴグシャアッッッ!!!! と。

 あの憎たらしいクソ野郎に殴りかかろうとした私を追い越して、いつの間にやってきたのかゴロツキが千景の髪を掴むクソ野郎を殴り飛ばしたのよ。


 見事に宙を三回転もして、脂肪をたらふく溜め込んだクソ野郎が壁に叩きつけられる。


「ぶべばぶべばぁーっ!?」


「うっへえ、なんかヌルヌルしてやがる。汚ねえったらねえなあ」


 豪勢に整えられた会場でもいつも通り学ランをマントのように羽織ったゴロツキはひらひらとクソ野郎を殴った手を振りながら、私のほうを見やる。


「本音も見えたことだし、琴音っ。東雲千景とミィナ=シルバーバースト連れて帰っていいぞ。後はこっちでうまくやっておくしさ」


「アンタがそう言うなら、まあうまくいくんだろうけど……実際、どうやって?」


「はっはっはっ!! そこの肉団子も言ってたじゃねえか。最後には力ある者が笑うようにできているってなあ」


「まさか、殴って解決するつもりじゃないわよね!?」


「俺はそれでも構わねえが、どうせ駄々こねるのは目に見えているしな。きちんと『向こうの土俵』でコテンパンにしてやるさ」

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