みんなで怖いこと、したいじゃん。
ある日の放課後。
教室には、もう僕たち3人しか残っていなかった。僕と太田、そして秋元の3人が、ひとつの机を囲んで座っている。
夕暮れ時の陽光が不気味に教室を染めていた。
「なぁ太田、ほんとにやんの?」
「やるったらやる。今更びびってんのか、ヤスシ」
「いや、全然。ダルいだけ。はよ帰らせて」
ヤスシと呼ばれた男は秋元のことだが、こいつの名前は恭平だ。でもクラスの全員がヤスシと呼んでいる。かわいそうに。初対面で太田がヤスシとあだ名を付けたばっかりに。本当にかわいそうに。僕も彼をヤスシと呼んでいる。アーホントカワイソウ。
僕がぼうっとしていると、太田は不気味に笑いながら言った。
「やっぱりコックリさんは人生で一度はやりたいよな」
そう、僕たち3人はコックリさんをやるためにここにいるのだ。今日の5限目に突然太田が提案してきた。僕はいつも通り暇だったから賛同して、2人で適当に人選したヤスシを拉致して現在に至る。
太田は続けた。
「で、だ。ここに紙とペンを用意した。ササ、頼む」
「何を?」
「いやだから、準備よ。コックリさんの」
「え? お前知らないのかよ、僕も知らないんだけど」
数秒の沈黙があった。もう嫌な予感がする。帰ろうかな。太田は咳払いをしてもう一度続けた。
「ヤスシ。頼む」
「俺も知らんぞ」
再び数秒の沈黙。帰りたい。ヤスシが口を開く。
「スマホで調べろよ」
「残念だったな。俺のスマホは没収されている」
「俺今日家に忘れたんだよ。だからはよ帰らせてくれ。佐々木は?」
僕は静かに首を振った。今は通信制限で全然使えない。
専門外の人間しかいない無意味な議論を重ねて、赤い卍が中央に書いてあり、狐のかわいいイラストが添えられ、50音の書かれている紙が文鎮で抑えられた。何が違うかわからないが絶対に何か違う感じがする。全然怖くないし。イラストとかもう勢いで描いただけだし。
「で、なんか小銭だろ」
「流石に太田もってるだろ」
「舐めんなササ。俺今日定期しか持ってきてない」
逆に凄い。なんだコイツ。
太田は、僕とヤスシに小銭を持っているか聞かずに(聞かれても帰りたいしダルいから出さないけど)ICカードの定期券を紙の上に置いた。現代のコックリさん、ICカード対応なのだろうか。
「これ、いくら入ってんの?」
「定期だからゼロ」
「もう帰ろうぜ」
「何も上手くいかない。これがコックリさんの呪い。怖いなぁ怖いなぁ」
「ヤスシ、2人で帰ろうぜ」
「あぁ」
僕らの日常がこんなにもクソなのが、一番の呪いなのかもしれないと、太田と同じようなことを考えてしまって寒気がした。怖い怖い。