what did she SEE?
誰もいない教室って、案外いいかもしれない。
廊下の方から聞こえる笑い声、遠ざかる足音。
正直、放課後って、補習くらいでしか残ったことないから、嫌なものだとずっと思ってたけど。
いいものかも、しれない。
グルッと見渡した。
3年5組。高校最後の、教室。
後ろの、クラス委員長の席にひとつ、鞄が置いてある。
それだけ。
初めて知った。
意外に教室は、広い。
窓の外を見れば、緑の葉が揺れている。
桜の木。
ついこないだまで満開だったのに。
鍵をはずして窓を開ける。
緑と風が、教室を吹き抜けた。
夏が、近い。
校庭は教室とは反対側で、ここから見えるのは住宅街の屋根、屋根、屋根。
下を覗けば、陽当たりの悪い花壇と、何が置かれてるのかわからない倉庫。
そして。
ぎこちない距離で向かい合ってる、男子と女子。
窓枠に寄りかかるようにして、頬杖をついた。
女子は知らない、感じ。
たぶん、下級生。
男子は、たぶん、ってゆーか、100パー、岡島。
上からでもわかる、威圧的なオーラ。
本人はそんなつもり、ないらしい。
まばらに茶色く染まってる髪はツンツンと自由な方向に向いている。
あたしには悪人面にしか見えないけど、友達曰く凛々しい男前は、モテる。
そんな彼に果敢に挑んでるのは生まれたての、子鹿ちゃん。
子鹿ちゃん。って、ホント、そんな感じ。
緊張してなのか何なのか、身を縮めて震え上がってるようにも見える姿。
いやいやいや?
彼を呼び出したのは、彼女でしょ?
ほら、もっと自信持って立ち向かわないと!
なんて。
4階の教室から応援してみたり。
会話はここまで届かない。
彼女の頭がゆらりと動くと、そのまま彼に背を向けて離れて行った。
ああ、ダメ、だったのか。
彼女は小さい感じの子だった。
きっと可愛い顔をしてたんじゃない?
歩く彼女の口元を押さえる仕草が見えた。
ふと、”あの子”を思い出す。
窓枠に腕を組んで、顎をのせる。
あたしはもう大丈夫。って、思ってたけど。
彼女の痛みがわかってしまうのは、切ない。
伝わる鈍い痛みに、思わず顔が歪んだ。
チクショウ。
振った男は、どんな表情をしてんだ!
「・・・あ。」
上がった眉毛、何か言いたそうな口元。
何より、捉えられたら最後、外せない鋭い瞳。
心臓、止まるかと、思った。
この、岡島樹を前にしていられた子鹿ちゃんを、褒めたいと思います。
ヘラリ。
笑って、力なく、手を振ってみる。
岡島の声のない「バカ」、が、風に乗って、届いた。




