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弟子との日々

私に弟子が出来ました。



彼は魔族の青年ジル。

剣の道に生き、強さを求める、力の求道者です。


私の主様、冥王ハデス様を信奉する、ういやつなのですが…… 今困った事になってます。



「えー! 何で我の菓子が1つなのだ!」


師匠(せんせい)、 食事はバランスが大切です。 甘味を過剰に摂取しすぎるのはお身体に悪い」


「フン! 我は太ったりしないのだ! もっと出すのだ!」


「分かりました。 ですが、明日の分は期待されないように、お願いいたします」


「えーーーー! ジルは何でそんな意地悪をするのだ!」


「師匠のお身体を思えばこそです」



今思えば、私はやり過ぎました。


主様の信徒を得たあの日、喜び勇んで繰り出したのは街の酒場。

そこで私は周囲をドン引きさせる程の菓子を食べてしまったのです。

菓子と言ってもパンケーキやカタイ焼き菓子といった素朴な物ばかりです。

ですが、気分の高揚もあって食べ過ぎてしまいました。


もう出せる甘味がない。

うちはそもそも酒場だから期待されては困るのだが、この町の甘味を賄ってきた意地があったんだけどな。

もう出せる物全部お前が食っちまったよ、とは酒場の亭主の談である。


その日、持ち帰った闇の祭壇の戦利品は私の菓子代に消えました。

この世界において菓子とは中々に高価なものの様です。


その成り行きを見守っていたジルは「これから財布の紐は私が管理します」と一言。

私はそれを受け入れました。


正直な話、そんな些事はジルに任せてしまえばいいと考えていたのです。

それが……

今の菓子の切り詰めに繋がります。



ええ、私はやり過ぎのです。




……




日は変わり、弟子と街近くの草原で訓練を行う事になりました。

私は体動かす気が無かったので、眺めて居るだけです。


ジルはそれに少し寂しそうな様子を見せていましたが、一人訓練を開始します。


ジルの素振りは、中々に様になっています。

年期の入った素振りは無駄が削がれており、ぶれません。


私は興が乗り、ジルに向かって石を幾つか放り投げてみました。

それに対してジルは慌てるそぶりも見せず、流麗な動きで全ての石を撃ち落としてみせたのです。



「師匠、御戯れはおやめ下さい。 真剣を使用していますので、刃こぼれの恐れがあります」


「そうは言うが、全て柄頭で撃ち落としていたではないか! 中々やるな」


それを褒めの言葉と受け取ったのか、ジルはどこか誇らしく、そして照れるそぶりをみせた。

「これぐらい出来て当然です!」とはジルの言である。

しかし、私にあの様な芸当が出来るかというと…… 恐らく無理。

私は曲芸師ではないのだ。



ジルは汗を流し終えると、私の傍に腰かけた。

満足げなその表情は、今までの張り詰めていたものとは異なり、別人を思わせる。



「師匠」


「なんだ?」


「いい天気ですね」


「ああそうだな、 こんな日は昼寝に限る」




「師匠」


「だから、なんだ?」


「俺は魔人です。 レベル22の…… 伸びしろが、もう限られているのです」


「だから、」


「口を挿み申し訳ありませんが、お聞き下さい!」


茶化す事は出来なかった。

それは彼の目的。 旅の理由。



「それでも俺は強くなりたい!

 その為に、この地に足を踏み入れたのです!


 そして、

 師匠に出会いました!」


つきものが落ちた様に笑う青年。

それは少年を思わせる様な良い笑顔でした。


「つまらん」


零れ落ちたのは本音でした。

私はプイッと顔を背けます。


逃した得物は大きい。


ですが、何故だろう、悪くない気分がしていたのです。


本当に、つまらん。


心を占める感情とは裏腹に、私もいつの間にか笑っていました。




明日は、深淵(アビス)へと向かいます。

路銀は心もとない様ですが…… ジルの目的にそう何か得る為、それに大それた名を持つダンジョンに身の程を弁えさせなければなりません。


ええ、やる事は私にもあるのです。

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