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意思疎通の重要性

―――面接当日。




私の毛並みは過去最高の仕上がりを誇っていました。(ツヤツヤのテッカテカです。

ブラッシングは、主様が手ずから。 主様の機嫌も最高に良く、私を優しく撫でてくれました。


私が送られる異世界の選定は難航を極めた様です。

しかし、面接が決まった時の主様の喜ぶ姿を今でも覚えています。


故に、落ちると言う事は許されません。



これから挑む異世界は、どうやら私共の文化圏と近い世界観を持っている様です。

ただし、時代背景は中世。 加えて神話やファンタジーに出て来る多種多様な種族と魔物が存在する世界。

主要な地名、主要な国・人物など細かい部分は伏せられていますが、これは面接後に聞ける事だと思います。 要するに、私に首が三つ有ろうと、竜や巨人が現れようと、UMAとして捉えられる事は無い世界と言う事です。 これはとても有り難い条件と言えました。

もし志望動機を問われても「御社の…… もとい御世界の在り方が私に適した環境である為、気を遣う事無く、冥府で鍛えた力を振るえる為です!」等と、素直に答える事が出来るからです。


私はこの時、確かな手応えを感じていました。


感じていたのですが……




……




豪奢な椅子に腰を落ち着かせた偉丈夫がこちらを見下ろしています。

彼を一目見た瞬間、私はぎょっとする事になりました。


彼の容姿に見覚えがあったからです。 私はひれ伏さずには要られませでした。

記憶が確かならば、そのご尊顔は我が主様の弟君ゼウス様そのものだったのです。



ただ、事は順調に進んでいきます。

彼の名はゼムス。 ゼムス様は幾つかの適当な質問をすると豪快に笑い場を和ませました。


質問はあたり障りがない物ばかり、私の人となりを確認する程度の物でした。

凡その事情を主様(ハデス)から聞いているからと、ゼムス様はそれ以上を詮索しませんでした。


面談はスムーズに進み、私の受け入れ態勢も整っているとの事。

それは圧迫面接を恐れ身構えていた私にとって、思いもしない展開でした。

やはり面接においてコネとは、とても重要なものの様です。



後は、条件を通すだけ。


事情を把握されている様なので、後はチート特典と神に至れる環境の有無の確認。

これを満たせば、晴れてスタート地点に立てます。


だからでしょう、大詰めに差し掛かっても好意的なゼムス様の対応に、私は油断していたのです。





「ゼムス様、お伺いしたい事があります……」


「フム、構わんよ。 これから見知らぬ地に足を踏み入れるのだ。

 今の内に聞ける事は何でも聞いて置け、答えられるモノには全て答えてやろう」


「私は…… 神に至れるのでしょうか?

 いや、失礼。 これでは唯の弱音に聞こえますね…… 


 この世界に神に至る道はあるのですか?」


「フム、先も述べたが見知らぬ地に足を踏み入れるのだ、弱気にもなろう。

 だが、ずっとそのままでは神に至れんだろうがな。 気を引き締める事だ。


 質問に答えよう。

 だがその前に汝らの世界と我らの世界の違いを語るべきか――― 」


―――


私の質問にゼムス様は快く答えてくれました。


ゼムス様の世界ではレベルとランクという概念で存在の強さが決まる様です。


レベルは単純な強さを示します。 

数値で表され、高くなる程肉体に大きな影響を及ぼし強さが増す。

経験を積む事でレベルを上げる事が可能です。

これは主様が好きな文化圏のゲームによくある設定です。 ただし、怠けてばかりいるとレベルは下がる様ですが……


ランクはモノの存在強度を示します。

大まかに『人』<『王』<『皇』<『神』からなり、神に近づく程強くなります。

ランクは種によって別の表現で定義されます。

例えば魔族の場合、『魔人』<『魔王』<『大魔王』<『魔神』となります。

また、ランクにはエクストラランクが存在し、必ずしも上記のランクだけで定義される物ではないそうです。


と、何ともゲーム的な話ではありますが、世界の根幹を成す一つのシステムだそうです。


そして、私が注目すべきはランク『神』。 

これは存在強度を示す値の様なものの様だが、私が目指す神に至る道の条件でもあるらしい。


要するにこれからはランク『神』が目指す指標となる訳です。

ちなみに、ランクの変動方法について教えてはくれませんでした。


―――


「――― と、まあ、神に至る道はある。

 というか、我が世界は力あるモノを神に迎えている。


 こう言うと殺伐として聞こえるかもしれんが、汝の世界と違い種族の隔離が出来ておらんからな。

 色々な物がごちゃ混ぜだ。 多種多様な種が知恵を持ち生きている。

 そういった世界では、力こそが必要なのだ。


 故に神に至る者にとって、力を持つ事が必須条件である」


「力を得れば私も神に……


「それは汝次第だ」


ゼムス様は満足気に締めくくった。



「後、もう一つ!」


「む? まだあるのか?」


「はい! 我が主より聞き及んでいると思いますが、チート特典をですね…… 頂ければと……」


神妙な態度ですり寄る私に、ゼムス様は怪訝な面持ちで首を傾げます。


「ハデスの奴からも聞いたが…… 何だ? そのチートというのは?

 特典というからには褒美なのか? しかし、何故褒美をやらねばならんのだ? 意味が分からん」


「あの、、 ですね…… チート特典とはお約束と言いますか…… チートとはつまり……」


私は正直に答えます。

ここまでの流れで、ゼムス様にもある程度の理解があると浅慮な考えをしてしまっていた為です。


正直に答えたのですが……


ゼムス様は耳を傾ける内に、その表情が黒く濁っていった様に思います。

親身に接してくれていた筈が、今では明確な怒りを感じ取れる程の圧が私に向けられています……


どうしてこうなったのか。

主様は、話を通してたんじゃなかったのか???


正直な話、私はパニックに陥ていました。


「ハデスの奴は何を考えているのか……

 ズルをして神に至ってどうするというのだ……


 我は…… 嬉しかったのだぞ…… 頼ってくれて」


独り言の様なか細い声が漏れ聞こえてきます。

私はいたたまれない気持ちになり、その場に首を垂れた。



どうやら、面接はここで終了の様です。




……




どれくらいの時間がたったでしょう。

私はその場から動けません。 ゼムス様も動きません。


しかし、均衡は呆気なく破られました。

怒りに震えるゼムス様が動き出したのです。



「汝にチャンスをやろう。

 アレは確かに私に頭を下げたからな。 望み通り神に至るチャンスをくれてやる」


ゼムス様の私を見る目は先程までとは違い、まるでゴミを見る様な有様に変わり果てていました。

主様の事も先程までは名前を呼んでいたのに今では『アレ』と呼び捨ている始末。

それはゼムス様の怒り深さを表していました。


徐にゼムス様が私に近づきます。


私はその長い時間を肝を潰しそうになりながらも耐えていました。

目と鼻の先まで辿り着くと、ゼムス様は両の手で私の2つの首を擦ります。


主様のブラシングが役に立ったかは分かりませんが、一通り撫でた後、ゼムス様は重い口を開きました。


「汝らの言う、チートならここに在ろう」


私に添えられた手は冷たく、恐ろしく硬質なものに感じ取れました。


「人々からしたら汝は十分にチートな存在と言えよう。

 『保存』・『再生』・『霊化』実にふざけた力だ。 おまけに別の解釈まで付いている。

 三位一体で『時間』となすか……『過去』・『現在』・『未来』。


 これをチートと言わずして何と言う?」


言葉を終える前にそれは起こりました。

私が気付いた時には、


「キャン!」


余りの激痛に私は声を漏らします。

何をされたのかと言えば、私は2つの首を毟られていたのです。


血が大量に吹き出し、私は放心状態でした。

『再生』が発動し傷を癒しますが、失った物は返ってきません。


ゼムス様はこちらを向いたまま、手に持つ首を私に見せつけてきました。


「『過去』・『未来』。 汝には過ぎた力よ。 身の程を知れ!」


激しい激情が私に叩きつけられます。

苛烈な神の怒りはそれだけに留まりません。



「汝は『人』に堕ちよ」


怒りに満ちた瞳が私を射抜きます。

憐れむ様なその言葉が、最後に渡された手向けとなりました。


それと同時に、私は何とか保っていた意識を手放したのです。





……




《ゼムス視点》


何故こうなってしまったのか。


ついカッとなってやってしまた訳だが……


手には犬の頭が二つ。 それ本来の持ち主はというと、人の姿に変貌し裸体のまま気絶している。

この場面だけ切り抜くと何とも凄惨な事だ。


しかし、仕方ないだろう。 ムッとしてしまったのだから……



裸体の人間を部下に運ばせた。 望み通りの場所に送ってやる。




しかし、解せぬ。

アレ(ハデス)も確か神の筈だが…… 我の記憶違いであっただろうか?


神を馬鹿にした所業を思うに、少し納得のいかない処でではあるがアレは間違いなく神の筈だ。

なのに何故あの様な戯言を吐けたのか…… それが分からない。


アレはプライドも捨て、地に頭を擦り付ける様に願い出たのだぞ?

それがズルの片棒とは…… 呆れ果ててものが言えん。




が、これは不味いよな……


手に納められた肉塊を一瞥し、思い悩む。


最悪の場合、戦争だ…… 本当にどうしてこうなった。


アレに我は何と言えばいいのだろうか……


「はぁ~」


気は乗らないが、この首をはアレに引き渡すしかなさそうだ。

知らんふりも出来んしな……


向こうにも非が有る。 だから、大事には成らないだろう…… 多分。





そして、もう一度生首を目にした時、その異変に気付いた。


こ、これは…… 馬鹿な……



気付いた時にはもう手遅れ、人間変えられた本体は異世界へと旅立ってしまっていたのである。

2018年9月18日修正 ランクの説明部分。

2018年10月3日修正 誤記修正。

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