MISSION『はじめてのおつかい』
あ、町長の見た目くらい聞いとけば良かった。
雰囲気でわかるかな?
「にゃ…」
無理だよねー。
「あらまぁ、冒険者さん?しかも勇者さん!?」
町長の屋敷(らしき場所)で迎えてくれたのは女の人だった。
多分奥さんだろう。
「まぁまぁ、こんな辺境の町へようこそ…何処からいらしたの?」
僕はペンダントを見せた。
ペンダントには出身を表す魔宝石が付いてて、まぁ身分証みたいに使えるんだって。
村長から貰ったものだ。
「…まぁ!あの村から!?」
女の人は目を真ん丸にしてびっくりする。
そんなに珍しいかよ。
「あらやだ、ごめんなさいね…あの村から冒険者さんが来るのも珍しいのに勇者さんなんて…何年ぶりかしら?」
「にゃっ」
何かを察した猫が僕のほっぺに猫パンチした。
肉球がむにむにしてて気持ち良い。
OK、イライラしないよ。SP減るもんね。
で…町長さんいます?
「今ね、町の見回りに行ってるのよ。良かったら直接渡してくださる?」
おk。どんな格好してます?
「黒い帽子を被って行ったから、見つけやすいと思うわ」
はーい。どうも。
そんじゃ行ってみよう。
「にゃぁ!」
「町長?さっき南の川の辺りで見たなぁ」
「町長を探してる?…貴方、もしかして勇者!?珍しいわー!」
町長の情報をくれる人、僕らを珍しがる人。
色んな人がいるなぁ。
「町長なら町を出てすぐの森に行ったようだね」
道具屋の前にいたおじさんが教えてくれた。
僕らが来た方かな?そしたら西側?
「あぁ、いや。北側にも森があるんだよ」
ふーん。行ってみようか。
ありがとう、おじさん。
「最近町の近くにもモンスターが出るようになったから、気を付けてね!」
それ多分町長に言ったほうが良いね?
「にゃー!」
猫が僕の肩をばしばし叩いた。
急げって?そうだね、町長も危ないかもしれないし。
「うわぁぁぁ!!」
町を出て、森に少し入った所で悲鳴が聞こえた。
「ぶにゃっ!?」
猫が驚いて……痛い痛い!爪立てんな!
向こうから聞こえたよね?行こう!
「た、助けてくれぇぇ!」
悲鳴の方角に走ると、尻餅をついたおじさんとモンスターが目に入った。
おじさん!…もしかして町長!?
「!ぼ…冒険者!?た、頼む!モンスターを追い払ってくれ!」
町長、走れる!?
…いや、無理そうだね!腰抜けてるみたい!
「にゃーお!」
僕は剣を、猫は爪を構えてモンスターと向かい合った。
『ブルースライムボス が 現れた!!』
あ?
スライムしかいねぇのかぁぁぁ!
いつもの奴より10倍くらいデカいけどスライムじゃねぇか!はぁ!?
もっと凄いの出て来てちょうだいよ!
「き、気を付けるんだ!そいつは普通のスライムより力もある!」
町長からそんなアドバイスを貰う。
え、でも所詮スライムだよね?
俺達がアホほど倒したスライムだよね?
ボスとか名乗ってるけど、スライムだよね??
…………。
「シャァァァッ!」
猫と一緒に、凄い勢いでスライムボスを睨み付ける。
おう、ボスさんよぉ。ここいらのスライム狩りまくってんのは俺らだぞ?
スライムハンター名乗るぞコラァ!!
『ブルースライムボス は 怯んでいる!』
少しだけスライムボスが後退する。
『ブルースライムボス の 行動順 が 最後になった!』
『勇者 と 猫 は [威嚇] を 覚えた!』
あ、何か覚えた。後で確認しよ。
『猫 の ターン!』
「ぶにゃうっ!」
猫はスライムボス目掛けて火を噴いた。
『猫 は [ファイアブレス] を 使った!』
『ブルースライムボス に 23 の ダメージ!』
…!
いつものスライムなら1回当てれば終わりなのに!
伊達に「ボス」は名乗ってないね…!
「にゃ…」
『勇者 の ターン!』
よし…試しに切ってみようか!
スライムボスの横っ腹(?)目掛けて剣を振り抜く。
…が、ぼよん、と剣が跳ね返された。
『ブルースライムボス には 剣撃 が 効かない!』
効かねぇかよ!そうかよ!
お前らそんなに俺に剣使わせたくないか!?そうかよ!
『ブルースライムボス の 攻撃! → 町長』
…え!?町長!?
「うわぁぁ!」
町長も攻撃対象とか聞いてない!
クソッ…!身体が動かない!
町長の身代わりになって、防御とかできないの!?
『勇者 は [守る] を 発動した!』
『勇者 に 10 の ダメージ!』
身体が動いた。
盾に結構な重さの攻撃を受ける。
どうやら僕は、町長の代わりにダメージを受けることができたようだ。
「あ…ありがとう、勇者殿!」
…えぇー…何、今の…[守る]って何?…特技?
手がびりびりと痺れているし、何だか身体がだるい。
『猫 の ターン!』
どうにか体勢を整えていると、猫のターンになっていた。
「にゃ!にゃー!」
すると猫は僕に飛び付いて来た。
え?どうしたの?
猫はアイテムポーチをガサガサといじっている。
そして器用に取り出したのは…
『猫 は 松明 を 取り出した!』
「ぶにゃっ!」
『猫 は [ファイアブレス] を 使った!』
『松明 に 火 が 点いた!』
…………。
「にゃっ!」
…OK、把握した。
この猫やっぱり最高の相棒なんじゃないかな。
『ブルースライムボス は 火 を 見て 怯んでいる!』
『ブルースライムボス の 行動順 が 最後になった!』
『勇者 の ターン!』
「な…何を…?」
腰を抜かしてる町長は、猫の行動が意味不明だったらしい。
そりゃそうだ…僕の持ち物を知らないと、まずわからないだろう。
というわけで、
『勇者 は 酒 を 取り出した!』
ここに隣家の酒屋のおっちゃんから持たされたお酒(度数が高い)があるじゃろ?
それを口に含むじゃろ?
『勇者 は 松明 を 持った!』
それをこう…息を吸い込んで……
『勇者 は [ファイアブレス(物理)] を 使った!!』
こうじゃぁぁぁ!!
「うわぁぁ!?」
町長の悲鳴が聞こえたが無視だ。
『ピギャァァァァ!!』
スライムボスがいる方向から変な鳴き声が聞こえたのは…スライムボスの悲鳴?
『ブルースライムボス に 95 の ダメージ!』
『ブルースライムボス を 倒した!!』
…げっほ、ごほっ!!
く、口が…口の中がおかしい…!
「にゃー!にゃにゃーん!」
やったぜ!と言わんばかりに猫が僕に飛び付いた。
とにかく、どうやらスライムボスを倒せたようだ。
ほら見ろ!スライムハンターの実力!ざまぁー!…げほっ。
さっきまでスライムボスがいた場所には焦げ跡が広がっている。
……というか森に燃え移ってない?
うわぁヤバい。
「森が!大変だ!」
…大変だ!と言う割には何もしない…ってか多分何もできない町長は放っておこう。
僕は村まで聞こえるように、持ってきていたホイッスルを吹き鳴らした。
「いやはや、一時はどうなるかと…」
「もう!最近モンスターが増えてるから、森の奥には行かないでって言ったのに!」
ここは町長の家。
ホイッスルの音を聞き付けた人達によって、森の火は無事に鎮火された。
そんで軽く町長の手当てをしてから家に送り届けて、現在に至ります。
「さて、改めて…ありがとう勇者殿!助かったよ!」
町長は照れたように笑いながら言った。
何故照れているのか。スライムに遅れを取ったことに対してだろうか。
「本当に、勇者さんがいなかったらこの人がどうなっていたか…」
僕らはミッションのために町長を探してただけだからね。
そんなこと言われても困っちゃうよ。
とりあえず町長にギルドから預かった小包を渡す。
「おぉ、ありがとう。勇者殿はミッションの受注は初めてかな?」
うん、初めて。
「『ギルドから町長への届け物』は初級のミッションだからね。練習みたいなものなんだ」
まぁ…だろうね。
いきなり超難度のミッションとか言われても困っちゃうよ。
「さて、何はともあれ…勇者殿、ようこそ『クォーツ』へ!」
「にゃっ!」
何はともあれ…隣町『クォーツ』で初めてのミッションを終え、笑顔の町長に迎えられた。
『酒?没収させてもらったよ。未成年が飲酒だなんてとんでもない!決して私が欲しかったからではない!』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.59, 『クォーツ』の町長の言葉より抜粋