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VS スライム

僕は勇者。

猫(1歳)とパーティを組んで魔王を倒す旅に出た。


え、もう1回言ってだって?



猫(1歳)と、魔王を倒す、旅に出た。



猫と!村の人々の激励を背中に受けながら!魔王を倒す旅に!出たよぉ!!







自分で言うのも何だけど、僕はポジティブなほうだと思う。

村を出て3日。パーティが猫だけってのも案外悪くないんじゃないかと思い始めた。


だって多分、無駄な争いが起きないから。ね?


「にゃーん」


むしろ皆が羨む平和なパーティになるんじゃないかと思う。

パーティ解散の原因の約70%は不仲って雑誌に書いてあったもん。


旅に出るにあたって、村の人々から色々と貰った。

母さんからは剣と盾を。

村長からは、数日分の食料と水とテント、回復薬。

それらを全部収納できるアイテムポーチを貰った。

お陰で割と身軽に行動できるので、思ったよりは旅は快適。


だから今、問題視するべきは、モンスターに1回も会ってないことだと思うんだ。


何?田舎にはモンスターすら棲みつきませんよってか??

田舎ナメんなよ!空気は美味しいし野山を駆け回るしか遊ぶ方法が無いから無駄に体力付くし!

畑仕事?得意!!

薬草知識?主に実体験で覚えた!お陰で毒耐性でも付いてんじゃないかな!


ふぅ…


「にゃー?」


猫が肩までよじ登って来た。

こいつも一丁前にマントを貰っている。あと魔宝石が付いた首輪。

果たしてこいつは戦えるのだろうか…いや、僕より足は速そうだな。


「にゃにゃ!」


肩から飛び降りた。どうしたの?



『モンスター が 空から 降って来た!』



は??

何、今の声。

いや声はいっそどうでも良いけど『降って来た!』って何??


すると僕らの目の前……丁度、3メートルくらい離れた所かな。何かが降って来た。


うん、自分で言ってて意味わかんない。



『ブルースライム × 4 が 現れた!!』



『現れた!!』じゃねーよ。多いよ。×4って!

しかもモンスターって空中から降って来るのかよ!何でだよ!どういう仕組み!?


…スライムって何か、水まんじゅうみたい。

青いから全っ然、美味しそうじゃないけど。


いや、兎にも角にも初戦闘だ!ツッコミは後!

とりあえず剣を構えてみた……が、身体が動かない。あれ?



『猫 の ターン!』



あ、そういうこと?自分の順番が来ないと動けないの?

何それ!どういう仕組み!?


「にゃにゃーん!!」



『猫 の 攻撃! → スライムA』



猫は勇ましくスライムに飛びかかり、引き裂いた。

…ちょっと気になることあるんだけどさ。

スライムって…物理攻撃効くの?


「にゃ!」


猫は(多分ドヤ顔で)僕の足元に戻って来る。

スライムは……真っ二つになって……



『スライムA は 分裂した!』



「にゃっ!?」


真っ二つになって、それぞれで独立してしまった。

…敵、増えちゃったよ。5体になっちゃったよ!

しかも物理攻撃効かないって何!?手段それしか無いのに!



『スライムA の 攻撃! → 勇者』



俺スライムより遅いのぉぉ!?

いや、そんな場合じゃない……盾で防御だ!



――ぶにゅんっ



『勇者 の 気力 が 1 減った!』



…………。

盾での防御は何故か叶わなかった。

スライムは僕の顔面に体当たりをかました。

ダメージは0だ。ただ……イラッとする。

あ、だから気力が減ったのかな?



『スライムB の 攻撃! → 勇者』



――ぼよんっ



『スライムC の 攻撃! → 勇者』



――ぽよんっ



『スライムD の 攻撃! → 勇者』



――むにょんっ



『スライムE の 攻撃! → 勇者』



――ガッ!!



『スライムE は 勇者 に 捕まった!!』



いや…そりゃ捕まえちゃうよね?顔面に飛んで来たんだもんね??



『勇者 の ターン!』



さぁ僕のターンだ。

攻撃対象?勿論僕の手の中で暴れているスライムだよ。

とは言え物理攻撃が効かないのはわかっている。



『勇者 は マッチ を 取り出した!』



左手に持っていたスライムを地面に叩き付けると、べしゃりと潰れた。

その隙にマッチに火を付けて……



『勇者 は 火の魔法(物理) を 使った!!』



潰れたスライム目掛けてマッチを落とす。

するとスライムはぐねぐねと動き、やがて真っ黒焦げになった。



『スライムE を 倒した!!』



……見たかコラァァ!これが人間の英知じゃぁぁ!!

初戦闘から物理攻撃が効かない相手?知るかそんなもん!平伏せ、スライム風情が!



『猫 の ターン!』



高笑いしてる場合じゃなかった。猫のターンになっちゃった。

しかし…これでまた攻撃して分裂して…なんて続いてたら一生終わらないぞ…



――ガッ!!



『猫 は スライムA を 捕まえた!!』



猫は(多分)とても良い顔でこっちを振り向いた。

……なんて頭の良い子!!

無駄な心配してごめん!ちょっと俺、お前のことナメてた!ごめんな!!



『スライムA は 動けない!』


『スライムB の 攻撃! → 猫』


『スライムC の 攻撃! → 猫』


『スライムD の 攻撃! → 猫』


『猫 の 気力 が 3 減った!』



スライムに体当たりされると気力が減る。覚えた。

よし、ちょっとそのまま捕まえててくれ。



『勇者のターン!』



再びマッチに火をつける。

うん。次の町に着いたらマッチを大量購入しよう。



『勇者 は 火の魔法(物理) を 使った!!』








数分後。



『モンスター を 全て 倒した!』


『勇者 は 経験値 を 10 手に入れた! 猫 は 経験値 を 10 手に入れた!』



っしゃぁぁ!

初戦闘、無事に勝利!


「にゃーん!」


やったな相棒!もう俺お前に愛着湧いて仕方ないよ!



『5G 手に入れた!』



よく見るとスライムの残骸の下に硬貨が落ちている。

拾おうとして近付いたら硬貨は消えてしまった。

…え?取り損なうと消えるの?そんなシビアなシステムなの!?


…と思ったら、財布の残金が増えていた。

なるほど、モンスター倒すとお金落として、自動で財布に追加されるのね。

いちいち拾わなくて良いなら便利だね。


ところで…モンスターの残骸はどうなるんだろう。

真っ黒に焦げたスライムの残骸を猫が突っついている。

放置で良いのかな…放置しとけば別のモンスターが食べたりするかな…


「んにゃ?」


コラ。あんまり突っつくんじゃありません。

よく知らないけど、もし変な病原菌とか持ってたら…



――パクッ。



…………!?

え、ちょ、えぇ!?



『猫 は スライム の 残骸 を 食べた!』



『食べた!』じゃねーよ!うるせーよ!

何食べてんの!ペッしなさい!!


「う…にゃ…」



『猫 は 真っ青 に なって 倒れた!』



『倒れた!』じゃねーよ!

猫!?え、どうしよう!?

回復薬!回復薬効くかな!?…毒消しとかのほうが良い?

ってかこの状態何だ?食あたり!?胃薬が良いかな!?

毒消しも胃薬も持ってないけど!



『回復薬 × 5 で 回復 できます。 使用 しますか?』



回復できるんだ!良かった!

……5個って手持ち全部か!良かった、足りる!

僕はアイテムポーチの回復薬を全部猫にぶっかけた。

…良し、今日はもう休もう!どうせモンスター少ないし!

猫をタオルでぐるぐる巻きにして、大きな木の根元付近にテントを張った。


頼む、猫、死なないで…!

ここでお前に死なれたら寂しすぎて心折れる…!






翌日。


「にゃーん!」


良かった!回復してるぅぅ!

猫に飛び付いて頬ずりすると、若干ウザそうに猫パンチが返って来た。

いや、お前、マジで心配したんだからな?大丈夫!?


「にゃにゃん!」


大丈夫そう!良かった。

猫はあちこちを元気そうに駆け回っている。


とりあえず大きな問題は解決したけど…

問題は、昨日の戦闘でマッチをほぼ使い切ったことかな。

またスライム出て来たらどうしよう。逃げるしかないかな。

マッチ無いと焚き火もできないし、さっさと次の町に…


「ぶにゃうっ!!」



ボンッ、と、突如猫の口から火が噴き出した。

…え?…何、えぇっ?

…昨日、焼け焦げたスライム食べたせい?



『猫 は [ファイアブレス] を 覚えた!』



「…にゃ?」


猫もきょとんとしている。

猫が何か、魔法みたいなの覚えた。


…いやお前、魔導士ポジションかよ!!










勇者メモ


・アイテムポーチ:見た目はウエストポーチ。あらゆる大きさの物を詰め込める魔法アイテム。


・魔宝石:魔力が込められた宝石。使い方は様々。


・ブルースライム:青い水まんじゅうみたいな奴。分裂する。火に弱いらしい。




『あの子が旅立ってから1週間後くらいかしら…「猫が火を吹くようになった」って手紙が来たのよ。何の事かと思ったわ。』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.19, 母親の言葉より抜粋

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