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明確な負け戦

魔法使いさん!あのモンスター何!?


「…」


聞いてる!?


「…聞いてない…こんなモンスター出て来るなんて聞いてない…!」


え…





『グオォォォォオ!!!』





耳を劈くような方向で全身が強張る。

周りの木が揺れたのは気のせいじゃない。


暗闇の中に見えるのは赤くて不気味な眼だけ。

その眼と、今の咆哮だけで理解出来た。


勝てるわけがない。


少なくとも、スライム以外のモンスターだからって浮かれてる場合じゃない!








黒猟犬(ダークハウンド) の 攻撃!』



呆然と目の前の何かを見ていたら、だんだん目が慣れて来た。

大きさは…猫の30倍くらい。


いやわかりづらいわ。逆に。

5メートル!5メートルくらい!頭からケツまでが!

おっきい犬だね!モッフモフ!

周りに同化してよく見えないけど!



『→ 勇者』



反射的に盾を構えることができたので、きっと僕も冒険に慣れて来たんだろう。

いや、攻撃喰らったら絶対に死ぬのがわかったから、防衛本能か。



『勇者 は [防御] に 成功した!』


『勇者 に 45 の ダメージ!』



…約半分で済んだのは間違いなく『ラッキー』だと思う。

黒い体毛に、白くて大きな爪。

大きな図体から想像も出来ないほど速い動き。

左手がびりびりする…!



『猫 の 攻撃!』



「…にゃにゃー!」


僕の後方から猫が飛び出して行った。

猫!?

…その体格差で爪攻撃!?



黒猟犬(ダークハウンド) に 4 の ダメージ!』



予想通り…しょっぱい!

あのデカい図体でHP15ですとか言われない限りは!

でも、まず間違いなくそれは無い!



『勇者 の ターン!』



僕のターン…

落ち着け、攻撃は通らない。

多分体毛が邪魔になって刃が通らない!


だから他に今、僕が出来る事。

今、僕がするべき事!





…身構える!



『勇者 は 身構えた!』



「…は?」


魔法使いさんの弱々しい声が聞こえた。


「何…してるの…?…馬鹿じゃないの!?攻撃しなさいよ!」


怯えきった声色に怒気が混ざる。


「あんたが攻撃して…ちょっとでもモンスターが怯んだら私は逃げられるのに!」


その可能性は…無いと思う。


まず、僕らの攻撃じゃ多分アレは怯まない。

それと、もしも奇跡的に怯んだとして…あの速さじゃ逃げ切れないと思う。


これが現段階の最前手。

身構えるしかない。

攻撃が来ても見極められるように。

相手の動きを全部見極めるために!



『魔法使い の ターン!』



「う…弱いなら強化してあげるから!攻撃しなさいよ!」


視界の端で黄色っぽい光が見えた。



『魔法使い は [能力強化(ステータスアップ)Lv.1] を 使った! → 味方全員』



その声の直後に僕の身体が光った。


「ぶにゃー!?」


あっ、猫の身体も光ってるっぽい。

目の前の犬っころから目を離せないから詳細はわからないけど。



『猫 の AGI が 一時的 に 上昇した!』



…魔法か!

凄い、ステータスの強化とかできるんだ…!



『勇者 の ??? が 一時的 に 上昇した!』



…僕、何て!?


「…は……何で…あんた達、STRが1番高いんじゃないの!?」



『魔法使い の SP が 5 減った!』



そんな事1回も言った記憶が無い。

何故そんな思い込みをしているのだろうか。


…魔法使いさん!今のって何の魔法!?


「…ステータスの中で…1番数値の高いステータスを強化する…」


あー、それで猫はAGIだったのか。速いもんね。


「…あんた…一体何のステータスが高いの…」


あれだー![???]って表示されて、わかんないやつ!

あれ何なんだろう!?いつか見れるようになんのかな!?


「…最悪…!最悪、最悪っ!」


何かを地面に叩き付けるような音が聞こえた。


「…勇者のクセに攻撃しないでもたもたしてるし…猫の攻撃力は低いし…!」


「にゃにゃー!?」



『猫 の SP が 1 減った!』



猫!?聞き捨てならなかったの!?

それとも内容はよくわかんないけど悪口言ってる雰囲気だけ感じ取っちゃったの!?


「そもそもこんな強いモンスター出るとか聞いてないし…」



黒猟犬(ダークハウンド)なんて、普通この辺に生息してないし…」


……


黒猟犬(ダークハウンド)の推奨撃破レベルとか、20だし…!」


………


「レベル7のあんた達じゃ、ロクに囮にもならないじゃない…!」



魔法使いさんが何か言ってたけど、途中から全然聞いてなかった。

こいつから発せられる音以外に反応するのが煩わしかったから。

そして次の攻撃が…『僕に来る』のがわかったから。



黒猟犬(ダークハウンド)の攻撃!』



「にゃ!?」

「嘘…でしょ…強化、したのに…まだそんなに速いの…!?」

「にゃー、にゃにゃー!」

「…うるさい!ただの猫のクセに!」

「ぶにゃっ!?」



『→ 勇者』





…視ろ。

攻撃前の動き、視線の動き、攻撃の瞬間の動き!

全部、全部視ろ!




『グワァァァ!!』




目の前に、さっきよりも凄い勢いで爪と牙が迫って来た。





僕には『モンスター知識』なんてものは無い。

殆どのモンスターを、多分僕は知らない。


…知らないなら、今、この場で知るしかないだろ!

攻撃の特徴も!強さも!弱点も!



全部見極めて…攻撃は最低限の動きで躱せ!




『勇者 は [見切り] を 覚えた!!』




そんで、相手の虚を突いたんなら……反撃しろ!




『勇者 は [反撃] を 覚えた!!』







『ギャァァァァ!!』




どんな生き物でも、多分『口の中』は弱点だと思う。

あとは顎の下とか…だけど、ちょっと今はそんな場所狙う余裕なかったわ…

ぱっくり開いたコイツの口に剣突っ込むくらいしか、できなかったよ。



『猫 の 攻撃!!』



猫が僕の身体を駆け上がった。

そして僕の頭を踏み台にして、相手に飛び付いた。



「フシャァァァッ!!」



僕の相棒は本当に頭が良い。

…どんな生き物でも、多分『眼球』も弱点なんじゃないかな。




『ギャァァァァ!!』




猫の爪が黒猟犬(ダークハウンド)の右目に深く突き刺さった。

そして黒猟犬(ダークハウンド)が後退するのと同時に、口に突っ込んだままだった僕の右腕も解放された。


…あれ、奇跡的に怪我してないや。

下手したら持ってかれるかなー…とか思ってたんだけど…



黒猟犬(ダークハウンド) は 逃げ出した!』



黒猟犬(ダークハウンド)は静かに、でも明らかに最初よりも雑な動きで、僕らの前から逃げ出した。



僕らは…『生きて』、『勝負を終わらせること』に成功した。





『オニキス付近で黒猟犬(ダークハウンド)が出るという話は聞いた事がありませんが…』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.369, 『オニキス』の住民の言葉より抜粋

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