MISSION『黒い薬草』
南西の森かぁ…
魔法使いさん、行った事ある?
「…ある」
ホント!?それなら多少楽かも!
「…」
うーん…どうにも魔法使いさんとのコミュニケーションが取れないぞ…
こいつぁ色んな意味で難儀しそうだァ…!
女の子は[魔法使い]だった。
レベルは何と何と、15。
もっかい言います。15。
ぼ…僕らの2倍以上…!
「ぶにゃ…」
「…レベル、7…?」
これを伝えた時、ちょっと怪訝な顔をされた。
ついでにギルドの受付のお姉さんにも怪訝な顔をされた。酷いよ!
「レベルがたったの7で、どうやってオニキスまで来たのかしら…」
いや、普通に!極々普通に!
「ま、とりあえず行ってらっしゃい。頑張ってね」
お姉さんに見送られながら、僕らは南西の森を目指して出発した。
空が黒い雲に覆われている。
それはつまり光が殆ど届かない事と同じ
という事はつまり、森に入るとめちゃめちゃ暗い!
松明?松明で良いかな?
この辺って火に敏感なモンスターとか出る?
「…」
魔法使いさんは首を横に振った。
僕らは、僕を先頭に魔法使いさん、猫の順で歩いている。
本当は猫を先頭にしたいけど、猫は松明持てないからな…
そう言えば、お姉さんから薬草の特徴は聞いて来たけど…
あの薬草、この森で見たことある?
「…」
魔法使いさんは再び首を横に振った。
うーん、似たような薬草は知ってるんだけど同じ物とは限らないし…
猫ー、後ろ大丈夫ー?
「にゃーう」
大丈夫っぽいね。
森の結構奥に生えてるって聞いたし、どんどん進もうか。
「…この子」
お、初めて魔法使いさんが自分から話振ってくれた。
「…召喚獣か、何か?」
え?しょうかんじゅう??
「…それとも、使い魔…?」
つかいま???
…いや、普通冒険のパーティに動物いないし…
居たとしても、可能性としてはその2択くらいなのか。
召喚獣でも使い魔でもないよ。僕んちで飼ってた猫。
「にゃーん」
「…」
魔法使いさんが恐ろしく複雑な顔をしている!!
そりゃ『ペット連れて何してんだコイツ』って思うかもしれないけど!
あ、凄いザクザク進んでるけど魔法使いさん大丈夫?
「?」
暗いトコ、僕は慣れてるから大丈夫なんだけど…
足元、松明あっても結構暗くない?
「…大丈夫」
なら良かった。
猫ー、後ろはー?
「にゃーお」
OK、問題無-し。
「…猫の言葉、わかるの?」
え?そんなまさか。
なんとなくだよ、なんとなく。
「…」
表情見なくても呆れられているのがわかるぞ!
だってなんとなくなんだもん!
…あ、えーと…召喚獣使う人って居るじゃん?
「…『召喚士』のこと?」
そうそう、それ。
その人達は獣の言葉とかわかるのかなぁ?
「…」
…魔法使いさんから返答が無くなってしまった。
いや、気長に待とう。
返答を考えてくれてるだけだよね。ゆっくり待とう。
「…使役するだけなら、会話はいらないんじゃないの」
…返って来た。
使役するだけ、かぁ。
召喚士にとっては武器の代わり…なのかな。
…?
「…??」
僕が足が止まったので、魔法使いさんの足音もすぐに止まった。
前は…見えない。松明があったって、暗い。
だから勘だけど…
猫!!
「にゃにゃー!」
猫はすぐに僕の肩を駆け上が…って来ると思ったんだけど、来なかった。
あれ?猫!?
「フシャァァ!」
…『後ろも』何か居るの!?
「え…」
背後から魔法使いさんの動揺したような声がした。
何か居る!前と後ろ!魔法使いさんも気を付けて!
「な、何も居ないと思うけど…」
もし、今この状況で僕が誰かからそう言われたら…僕だってそう思う。
何も見えないし聞こえない。
…いや、聞こえないのは嘘!
何かよくわかんないけど『何かの音』がする!
『死霊 × 6 が 現れた!!』
わかった。
気付いた時にはもう遅いタイプの奴だ。
僕らは…あっけなく、あっという間に、黒い『何か』に囲まれた。
「ゴースト…」
「にゃぁぁ!?」
とりあえず『スライム』っていう名前じゃなかったからスライムじゃないんだ!
もうそれだけで進捗!
魔法使いさん、こいつのことわかる!?
「…」
ああああまた黙った!また呆れてるな!?
俺このモンスター見たこと無いんだけどー!
「…調べれば?」
いつ!?何処で!?ギルド!?
「…『観察』」
情報が断片的過ぎて残念ながら全く伝わらない。
『観察』!?何だよ観察って!こいつのこと見れば良いの!?
『勇者 の SP が 3 減った!』
短気かよ!俺、短気かよ!
「…モンスターを『観察』すると、ある程度情報を得られる」
渋々、という感じの声で魔法使いさんが言った。
…それを聞いても全くピンと来ないけど…とりあえずやってみようか。
僕は…黒い靄みたいな目の前の奴らをよ~く観察した。
『勇者 は 死霊 に 関する 情報 を 得られなかった!!』
得られなかったけど!
情報なんて微塵も得られなかったんですけど!
「にゃー!」
SP減少を察知(多分)した猫が僕の肩まで駆け上がって来た。
「にゃー、にゃ!」
「…まさか『モンスター知識』が無い…?」
猫が高速で僕のほっぺをぷにぷにしている。
…モンスター知識?何それ?
「学校で習うけど…」
僕、学校とか行ってないから!
無いから!僕の村に学校は無いから!
「…」
「にゃにゃー!」
『勇者のSPが3減った!』
『死霊A の 攻撃! → 魔法使い』
僕のSPが減ってる間に敵のターンがぁぁ!
とりあえず…絶対盾とか貫通してきそうな見た目だけど…『守る』!
『勇者 は [守る] を 使った!』
「…」
…あれ?攻撃来ると思ったら来ないや。
『死霊A は 動かない!』
何で??
絶対お前壁通り抜けられる感じの奴じゃん。
盾なら余裕じゃない!?
「…」
『魔法使い は 逃げ出した!』
…え?
何て!?
『魔法使い は 逃げ出した!』
あ、聞き間違いじゃなかった!もっかい言ってくれてありがとう!
…逃げた!?何で!?
も、もしかして戦略的撤退?
だったら何か言って!
ってかスライムばっか相手してきたから逃げるって発想が無かったな!
『勇者 の SP が 1 減った!』
俺のSPぃぃぃ!
「ぶにゃ…」
『猫 の ターン!』
猫は僕の周りをうろうろしていた。
ゴーストに近付きたくないんだろう。
(あと多分僕のSP回復に努めようかどうか迷ってる。)
これ…魔法使いさん追いかけた方が良い?よね??
…囮なんだから時間稼ぎしろよとか言われないよね!?
猫!魔法使いさん追いかけるよ!『逃げる』!
『勇者 と 猫 は 逃げ出した!』
うぅっ、嫌なアナウンスだなぁ。
敵に背を向けるなんて…ちょっと情けない。
ってか追って来てたらどうしよう!?
…あれ?全然追って来ないや。
暗いからよく見えないけど、さっきの場所から動いてないみたい。
こっちを見てすら…あ、それは嘘です。今、目ぇ合った。
何か…『死霊』っていう割にあんまり怖くないや。
後でどんなモンスターなのか魔法使いさんに聞いてみよう。
魔法使いさぁぁん!!
「…」
走ること…1分くらい。
ようやく魔法使いさんを見つけたぞ…!
「…ちゃんと撒いた?」
魔法使いさんはしれっと聞いてきた。
…んんー!んんんー!!
撒いて来たけどぉ!
「そう」
魔法使いさん、逃げるなら先に言って!ください!
「??」
僕がそう言うと魔法使いさんはきょとんとした。
…いやいやいや!
僕あのモンスター知らないんだって!
もしかして逃げるのが定石!?
「…常識だけど」
…だからぁ…!
…止めよう。何を言っても無駄だ。絶対に、無駄だ。
…えーと…あいつから逃げるのって何で?
攻撃通らないから?
「…物理も魔法も効かないから」
「にゃ??」
あ、魔法も効かないんだ…そりゃ逃げるしかないね。
「にゃ、にゃにゃー!」
…何?マジで何も効かないのかって?
「…『光魔法』は効くけど…そんな高等魔法使える人、あんまりいないし」
光魔法。へぇ、そんなのがあるんだ…
「…」
呆れてる!呆れてる!!
だんだん慣れて来たぞこの眼差しに!
と、とりあえずゴーストから逃げ切ったし…薬草探そっか!
「…」
…その無言は同意なの、それとも拒否なの!?
薬草を探すこと…多分2時間くらい。
見つからない。というか、暗い。
「にゃー、ぶにゃー」
猫が飽きちゃってるし!
「…」
魔法使いさんもちょっと面倒臭そうにしてるし!
ギルドのお姉さーん!助けてー!
…!
背筋が突然、ゾワッとした。
…猫!魔法使いさん!逃げよう!
「は?」
「うにゃ?」
何か来てる!またゴーストだったらヤバいでしょ!
「…」
魔法使いさんの目が『こいつ信用ならない』って言ってる!
『黒猟犬 が 現れた!』
ほら何か来ちゃったじゃんかー!
暗くて良く見えないけどデカい奴来ちゃったじゃんかー!
「…『何か』じゃなくて、ちゃんと言えば良いのに」
だから俺は『何か』が『何なのか』がわかんないんだってばー!
あぁ、もう!戦闘開始だっ!
「にゃっはー!」
今度こそスライム以外のモンスターとの初戦闘だ!
『学校行ってないとか、ありえない…』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.348, 魔法使い見習いの言葉より抜粋