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勇者と猫と女の子

こんにちは!


「…!」


魔法使いっぽいローブを着た女の子はびっくりしたように僕を見た。

遠目だとよくわかんなかったけど、多分僕より年下っぽい。

…あとこれも多分だけど、すっごい大人しそうな子だな…

難攻不落な予感がするぞ…





「…」


ごめんね急に声かけて。向かい側座って良い?


「…」


女の子が小さく頷いたので、テーブルを挟んで向かいの席に座った。

あ、女の子の後ろに杖が立てかけてある。

良いなぁ杖。格好良い。


「…」


…挨拶も無し!これはやっぱり手強いぞ…!

しかも若干俯いてるから表情がわかりづらい。

…これは最初(ハナ)っから僕とコミュニケーション取る気が無いパターンか…?


「ぶにゃー!」

「!?」


僕の懐から出て来た猫に、女の子はびくりと肩を震わせた。

目をパチパチさせて猫を見てる。


コラ!急に出て来るんじゃありません!

…猫、大丈夫?


「…大丈夫…」


良かった。

あ、ついでに女の子の表情がちょっと明るくなったぞ。

ホント良い仕事するよねうちの猫は。


えーと、僕達昨日オニキスに来たんだ。君は何時から?


「…一昨日」


そうなんだ。此処、すっごい天気悪いよね。


「…オニキスは、1年中この天気…」

「にゃ!?」


1年中…そういう土地柄?なのかな?

地方によっては1年中雨だったり雪だったりするもんね。


「…」


前にも此処に来たことあるの?


「…2回目」


そうなんだ。宿屋のお姉さんがオニキスは中継地点って言ってたし、よく通るのかな。


「…」


……。

…女の子からのアクションがゼロだ。

『いきなり話しかけて来て何だコイツ』くらいに思われてるのかな…

これは『世間話して仲良くなろう作戦』は通じなさそうだぞ…

よし、直球勝負!


…実は、さっき受付のお姉さんから君がパーティを探してるって聞いて話しかけたんだ。


「?」


僕達今まで2人…いや1人と1匹で旅してたんだけど…

良かったら僕達と旅しませんか!?


「にゃにゃー!!」

「…」


女の子(そういえばこの子は何なんだろう。魔法使い?僧侶?)はきょとんとした。


…あー、えっと、いきなり言われても困るよね…

あの、何だったらお姉さんに頼んで一緒にミッション行ってみたりとか…


「…」


反応がめちゃめちゃ悪い。

というか、反応が無い。

これは何だ?問答無用のNO?それとも悩んでるだけ!?


1回!お試し的な感じで!…とか?

…どうかな?


「…」

「あら、良い案じゃない?」


絶望的に凍りついた空気の中。

受付のお姉さんがテーブルにマフィンを持って来てくれた。

救世主!女神!


「はーい、15Gね」


払います!


「ドリンクのおかわりはサービスしちゃう」


天使!

お姉さんはそのまま女の子の横に座る。

良いぞ!そのまま助け舟出してください!


「…」

「ほら、勇者さんの奢りだから仏頂面してないで食べたら?」


女の子はテーブルの真ん中に置かれたマフィン(×5)をじーっと見ていた。

が、やがておずおずと手を伸ばして、1つ取った。


「だんまりじゃ折角の機会にも逃げられちゃうわよ?」


お姉さんが窘めるように女の子に言う。


「…」


あ、大丈夫です。

故郷にも結構無口な子とか居たし。


「あら。懐の広い男は将来有望ね!」


だと良いけど…


「にゃにゃー」


あ、コラ。勝手に動かないの。


「にゃーお」


猫は僕の言う事を聞かず、女の子の膝の上に乗った。


ごめんね、大丈夫?


「…」


マフィンをかじりながら女の子は頷いた。

何時の間にか2個目を食べている。


「それで、お試しで行くのに丁度良いミッションがあるんだけど…」


お姉さんはひらり、と1枚の紙を僕達に見せた。

僕もマフィン食べよう。緊張してお腹空いたよ。


「あ…」


?女の子が何か言いかけたけど…何だろう。

女の子の方を見たら目を逸らされたので聞けなかった。


そんで…何々?『薬草の採取』?


「街の南西にある森へ行って、薬草を採って来てほしいの」


へー!結構良いんじゃない!?


「にゃー?」

「その森でしか採れない物でね、かなり珍しいの」


薬草なら僕ちょっとわかる…あ、この辺の薬草はわかんないかもしんないけど…


「た、だ、し、モンスターが多いから気を付けてね?」


お姉さんがウインクをキメながら言った。可愛い。

それにしても。モンスターとな。


…お姉さん。

モンスターって、スライム?


「え?そりゃスライムも出るけど…他にも色々出るわよ?」


よっしゃぁぁあ!


「にゃにゃーん!」

「何なのかしら…」


お姉さん と 女の子 が 怪しそうに 僕 を 見ている!


そりゃいきなり立ち上がってガッツポーズしたら怪しまれるだろうよ!


何でもありません!


「それで、どうする?このミッション受けてみる?」


是非行ってみたいです!


「うにゃー!」


勿論、君が良ければ!


「…」


女の子は相変わらず反応が無い。

露骨に嫌そうな顔をするわけでも、興味を示した顔をするわけでも無い。

故郷で1番の無口の奴でももう少し反応あったぞ!


「行ってみないとわからないこともあるわよ?」

「…」

「少なくとも、勇者さんは悪い人じゃ無さそうだしね!」

「…」


女の子はしばらく考えて…10秒くらい考えて…


やがて、頷いてくれた。


「にゃーお!」


ありがとう!


「勇者さん、そんなに勢いよく頭下げなくても…」


だって一緒に行ってくれるんだもん!

よろしくね!


「ぶにゃー!」


僕は女の子に手を差し出した。



…手はしばらく観察されたけど、握り返してはもらえなかった。




『そういえばあの女の子、見たことあるような…』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.325, 『オニキス』のギルド受付嬢の言葉より抜粋

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