オニキスの街
着いた!
「にゃ!」
着いたよ!
「にゃにゃー!」
『オニキス』に着いたよー!
…死ぬほど天気悪いね!?
「ぶにゃう…」
僕と猫は揃って、黒っぽい曇り空を見上げた。
いや…曇り空って灰色とかじゃん。
黒って。雨も降ってないのに黒って。ヤバいって。
何だろ、産業廃棄物でも出てんの??健康に悪そうだね??
「にゃーにゃ」
とりあえず宿…かな?
天気がわかりづらいから時間がわかりづらい…
体内時計が狂ってなきゃ、多分夕飯時なんだけど。
「にゃー!」
君はとりあえず僕の肩をガリガリしないでくれ。痛い!
お腹空いたの!?わかったから!
『猫 の SP が 2 減った!』
わかったから!!
「へぇ…勇者が2人ぼっちで旅?」
宿屋のお姉さんが笑いながら言う。
お姉さん若いんだよ。20代中盤くらい。
どことなく怪しい感じの…いや、『妖艶』って言うのかな…?
うーん…街も怪しければ住人も怪しい…!
「随分可愛い御供ねぇ?」
「にゃーご」
お姉さんに顎の下をくすぐられて猫は満足そうに鳴いた。
…何て言うか、お姉さん全体的にちょっとエロい!
黒いワンピースとかノースリーブとか適当な感じのポニーテールとか!
ちなみに料理はめっちゃ美味しいです…!
シチューめっちゃ美味しいです…!
「ギルドに誰も居なかったって…あぁ、そんなに奥地から来たの。じゃ、無理も無いわね」
うぅ…回復役がいないからキツイんです…!
「アラ、剣技は自分だけで十分ってこと?凄い自信ね」
そういうワケじゃないけどぉ…!
戦闘経験がスライムとだけだからよくわかんないんだよぉ…!
「にゃー」
「面白いわね、勇者サマ」
お姉さんがクスクス笑った。
笑い事じゃないよ!
切実だから!切実なんだからぁ!
「じゃあそんな勇者サマに良いこと教えちゃう」
お姉さんがずい、と僕に顔を近付けて、僕のおでこをつっついた。
…お姉さん!僕にはお姉さんの魅力が早過ぎる!
あと5年!あと5年待って!そしたら多分ドストライクな気がする!
「この街のギルドってね…パーティがよく解散するのよ」
はい??
「にゃ??」
「何でかしらね…この怠い天気で参っちゃうのかしら。パーティの解散理由の多くは方針の違いが原因なのよ?」
バンドみたいだな!
不仲じゃないんだ!
「逆に言えば…『パーティを解散して、新しい仲間を探す人』が多いってこと」
ん?
…おぉ!?
「にゃー!」
「勇者サマお望みの人材がいるかはわからないけど…行ってみる価値はあるんじゃない?」
ある!
超良い事聞いた!
ありがとう、お姉さん!皿洗いやるよ!
「アハハ、良いわよ。アタシは冒険者に休んでもらうのが仕事なんだから!」
くぅ…そう言われると…
いやでも貴重な情報のお礼に…!
「今日はゆーっくり休んで、明日に備えなさい?」
お姉さんがデコピンをしてきた。
…あと5年後にもっかいお願いします!
「アハハ、ホント、面白いわ勇者サマ」
お姉さんの魅力を全部理解するには勉強不足です!!
「うにゃ…」
猫がほっぺにパンチしてきたけど気にしません!
「ギルドは西側にあるから…ここ出て、左にずっと行ったトコね」
ありがとうお姉さん!
そんじゃ情報集めも兼ねて、ギルド行こうか。
「にゃにゃー」
「猫ちゃん可愛いから置いていってくれない?」
駄目です!
大事なパーティなんだから!
「フフ…そう?じゃあ行ってらっしゃい」
お姉さんは相変わらず妖艶に笑いながら見送ってくれた。
良し…何か頑張れる気がする!
猫、新しい仲間見つけようね!
「にゃー!」
どんな人がいるかな?
僕と同じくらいの齢の人居るかな!?
同じくらいの人が良いよね!
「にゃっはー!」
ギルドにて。早速…
『状態異常について
モンスターの攻撃、または特定条件によって状態異常になる場合があります。』
情報収集(勉強?)です。当たり前です!
猫はその辺でごろごろしてます!最初から飽きてる!
んで、状態異常…ふーん…
前に僕が[怒り]状態、猫が[猛毒]状態になったよね…
『状態異常一覧
・敵の攻撃による状態異常
毒:毎ターン小ダメージを受ける。時間経過で回復。
猛毒:毎ターン大ダメージを受ける。時間経過で回復。
麻痺:数ターン行動不能になる。時間経過で回復。
眠り:数ターン行動不能になる。被ダメージで回復。
呪縛:数ターン魔法の使用が不可能になる。
禁止:数ターン特技の使用が不可能になる。』
[猛毒]は[毒]の強化版ってとこかな。
[麻痺]は…毒の派生版っぽいんだけど。
[眠り]の被ダメージ云々ってのは、要するに引っ叩けば起きるってことだね。
『・その他の要因による状態異常
怒り:SPが短時間に半分以上減少すると発動。
-STRが一時的に上がり、命中率が下がる。
-[攻撃]以外の行動宣言が不可能になる。
-毎ターンSPが減少する。』
…[怒り]状態ってそういう条件だったの。
確かに洞窟でスライムにしか会わないからイライラしてたけど…
短時間にSP半分って、どんだけ気が短いの僕…
『恐怖:SPが1ターンに半分以上減少すると発動。
-行動宣言が不可能になる。
-[洗脳]が必ず成功する。
-時間経過で回復しない。』
え、何それ。
1ターンで半分以上減るってどういう状況!?
あ、いや、[恐怖]か。
ってか解説が含み多すぎてよくわからない。
あとしれっと出て来たけど[洗脳]って何。
『パニック:SPが1ターンに1/3減少すると発動。
-[攻撃]以外の行動宣言が不可能になる。
-攻撃対象の選択が不可能になる。
-時間経過で回復するが行動が不可能になる。』
どういうこっちゃ。
…っていうか、各々条件が曖昧だぞ。
もしかして併発したりすんのかな…?
『虚脱:SPを全消費すると発動。
-全ての行動宣言が不可能になる。』
うーん…SPゴリゴリ減る僕は大分危険なんじゃないか…?
幸い特技はあんまり覚えてないから、特技使って減る可能性はあんまり無い。
っていうか特技って何なんだろうね。必殺技みたいなのも覚えるのかな。
「にゃーう」
何。飽きたの?
「ぶにゃ…」
ちょっと待って。もうちょいあるから。
『知恵熱:MPを全消費すると発動。
-毎ターンHPが減少する。
-[攻撃]行動宣言が不可能になる。
-MP回復により回復。』
知恵熱て!
いや、知恵熱て!!
何?魔法使いって魔法使い過ぎると知恵熱出すの!?
…気を付けてね!猫!
「にゃ?」
僕は本を閉じて棚に押し込んだ。
もうちょっと見たい気もするけど、本格的に猫が飽きて来ている。
その辺の本で爪とぎ始めるとやばいからね。
行こう。新しい仲間の勧誘だ!
「にゃぅ!」
猫は満足気に鳴くと、僕の肩まで駆け上がった。
ギルドは酒場…みたいな場所だった。
奥にカウンターがあって、更に奥に書庫がある感じ。
僕と猫が書庫を出ると、カウンターのお姉さんが「もう良いの?」と声をかけてきた。
「お勉強はできたかしら?新米勇者さん!」
このお姉さんは宿屋のお姉さんと違って、爽やかな感じ。
うん。あんまり書庫に籠り切りだと猫が爪とぎしちゃうから。
「あら、それは困るわね」
…さっきの喧嘩、終わった?
「終わったわよ」
…実はギルドに入ってすぐ、喧嘩に遭遇した。
酒場の一角で僕よりは年長のパーティがギャンギャン喧嘩してた。
さわらぬ神に祟り無し。僕はそそくさと書庫に引っ込んだんだけど…
お姉さんが言う通り、ギルドは静けさを取り戻していた。
今は人が疎らに、各々過ごしている。
「散々喧嘩した後、みーんな出て行っちゃったわ。解散したのかしらね?」
いや、お姉さんそんなにあっけらかんと言わないでよ…
…オニキス出たパーティって何処行くの?
「え?そうねぇ…クリスタルに行く人も居るけど…」
そういやクリスタルは冒険者いっぱい居たなぁ。
ギルドも大きいし、ミッションもいっぱいあった。
「サードニクス、ジャスパー、カーネリアンとかに行ってるんじゃない?」
え、そんなにいっぱい選択肢あるの?
「そうね、オニキスは中継地点って感じ?だから色んなパーティがここに来て、ついでに解散するの」
解散しなくても良いんじゃないか…区切りが良いから解散すんのか…?
この街…呪われてない?
「アハハ、そうかもね!」
いや、笑い事じゃないって…
「そう言えば…勇者さんくらいの齢の子がさっき入って来たけど?」
え?マジで!?
「ほら、あそこ。1人で座ってる子」
お姉さんが指差す方向に…ローブ姿の子がぽつんと座っていた。
特に何をするでもなく、ぼーっとして飲み物を飲んでいる。
何時から!?喧嘩に混じってた!?
「喧嘩の中には居なかったわねぇ。その後に入って来て…パーティを探してるんです、って言ってたわ」
来た!
「にゃ!」
来たよ!需要と供給が一致したよ!!
「にゃおーん!」
「張り切り過ぎ、張り切り過ぎ。引かれるわよ?」
酷いこと言うねお姉さん!
「話しかけてみる?私も行きましょうか?」
ううん、僕が話しかけてみるよ!
お姉さんに頼ってちゃこれから先やって行けないし!
「それもそうね。頑張って!」
良し、行こう猫!
「にゃー!」
新しい仲間作るぞー!
勇者メモ
・[洗脳]にかかると敵に操られるらしい。って、受付のお姉さんが言ってた。
『5年後、ね。楽しみねぇ?』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.308, 『オニキス』の宿屋の言葉より抜粋