暗がりの奇襲と偽りの翼
やっほー、勇者だよ!
今日は次の町に行くために洞窟に入ってるぞ!
「ニャァァァ!!」
…今はモンスターの襲撃から猛ダッシュで逃げてるぞ!!
洞窟ってのは暗くていけない。
松明持ってないとマジで何も見えない。
バトルになったらその辺に刺しておくとか…とにかく松明を失うと何も見えない。
で、僕らは松明を失ったので逃げてるんだよ!
真っ暗闇をダッシュだよ!
それは遡る事…ウソ、そんなに遡らないわ。せいぜい1分くらい。
洞窟を歩きながらいつものようにスライムを屠っていたんだけど…
「にゃ?…にゃー」
頭の上に乗っかっていた猫が僕をばしばし叩いた。
何。どうしたの。
「にゃ、うにゃー」
猫は前方を指して何か訴えた。
どうでも良いけど、猫の言ってることわかんないと今後キツいな…
僕は目を凝らしたけど…如何せん、暗い。
猫は暗いトコでもよく見えるから何か見えたんだろうか。
「…にゃ」
猫は前方を見たまま僅かに爪を立てた。痛い。
…何か見えてんの?…それとも何か聞こえるとか?
すると…遠くから小さな音がしてきた。
何だろう、バサバサした…羽音?
羽音だな。虫とかよりは鳥っぽい…
「ぶにゃー!!」
猫が本格的に爪を立てるまで、僕は集中し過ぎていた。
だから、羽音がめちゃくちゃ近くまで来たのに全く気付かなかった。
『勇者 は ??? からの 奇襲 を 受けた!』
反射的に顔面を空いてる手でガードした。
顔の横、頭上、身体のすぐ近くを大量の羽音が通り過ぎる。
…あれだ、鳥じゃない。蝙蝠っぽい感じがする!
すると辺りが真っ暗になった。
あれ?僕今一瞬目ぇ閉じたけど…
ああああ松明消えとる!
今の奇襲で火ぃ消えた!?
「にゃーご!うにゃー!」
猫が再び僕を叩く。
怒ってるんだかイライラしてるんだかよくわかんないけど…
今は背後から聞こえて来る羽音をどうにかしよう!
僕は猫を抱えて、その場に伏せた。
頭上でバサバサと音が通り過ぎたのがわかる。
猫!…無事!?
「にゃ!」
よし、僕もダメージは無い。
えーと、取り敢えず松明点け直して…マッチ!マッチは何処だ!
…ポーチに手を突っ込んだ時点で僕は諦めるしかなかった。
何故って、前方から再び羽音が迫って来てたから。
…退避!!
「ぶにゃー!」
僕と猫は暗闇の中、全速力で走り出した。
「にゃー!」
やや前方から猫の声がする。
後ろからは依然、羽音が来てる!
ぶえっ!!
『勇者 は 顔面スライディングした!』
『勇者 に 2 の ダメージ!』
僕は多分、普通の人より暗闇に強い方だと思う。
故郷の村は夜になると真っ暗になるから。外灯とか無いもん。
でも流石にこの暗さは!何も見えない!
顔面が痛い!
「にゃーご!」
猫の急かすような声が聞こえる。
猫は僕よりはるかに暗闇に強い。猫だからね。
だから前方を走ってもらってナビゲートしてもらってたんだけど…!
無理ある!何も無いよりずっと良いけど、無理!
さっきから何回転んだかわかんない!
…そうだ、敵が奇襲出来たんなら僕だって出来るはずだよね?
猫!
「にゃ!?」
呼んだら猫は若干びっくりしたみたいだったけど、僕の右肩まで駆け上がってくれた。
僕は松明を構え直して――振り返る。
猫の位置が肩だから、多分この位の高さで構えとけば…
羽音は…10メートル以内くらい!
猫!
「ぶにゃうっ!」
『猫 は [ファイアブレス] を 使った!!』
顔面のすぐ近くで火が吹かれた。
熱い、とか言ってられない。
っていうか…マッチ探さずに、最初からこれで良かったじゃんね。
『??? は 怯んだ!』
『松明 に 火 が 点いた!』
猫に火ぃ吐いてもらって、敵への奇襲。
ついでに猫の攻撃射線上に松明構えて点火。
一石二鳥!
「にゃっふぅ」
あー絶対ドヤ顔してる。
いやこれは仕方ない。良い仕事したよ、猫。
『??? × 4 が 現れた!』
何だよ。ほにゃらららって何だよ!
暗いと敵の姿が見えなくてわかんないとか!?
しかも×4って結構いるじゃねーか!
「ぶにゃー!」
ええい、とにかく戦闘開始!
『猫 の 攻撃!』
『猫 は [ファイアブレス] を 使った!』
最近、猫が新規の敵に会うととりあえず火を吹くようになってしまった。
良いな、牽制手段に選択肢があるの…僕、切るしかないもんな…
『??? に 4 の ダメージ!』
で、この攻撃が結構今後の攻撃を考えるのに良い基準になる。
僕の場合モンスター知識が全っ然無いからあってるかどうかわかんないけど…
『4ダメージ』ってのは非常に微妙だと思う。
『??? の 攻撃! → 勇者』
うげ。盾、盾!
『勇者 に 3 の ダメージ!』
間に合わ…ってか、なんで後頭部に直撃!?
何時の間に後ろ行った!?
あぁもう、モロに喰らったからクラクラする!
『??? の 攻撃! → 猫』
「んにゃっ!?」
『猫 に 5 の ダメージ!』
猫が僕の足元まで転がって来た。
暗くて敵の位置がよくわかんらんぞ!
どうすっかな!折角スライム以外のモンスターに会えたと思ったら!
「にゃー!にゃ、にゃにゃー!」
何かよくわかんないけど猫の殺る気が凄い。
シャドウボクシングしてるよ。どうしたの。
『??? の 攻撃! → 猫』
『猫 は [回避] に 成功した!』
「にゃっ!」
あぁ…避けられなかったのが悔しかったのね。
僕も回り込まれてたの悔しい!
『??? の 攻撃! → 勇者』
『勇者 は [防御] に 成功した!』
よし、僕も防いだ!
僕のターンだ!
『勇者 の 攻撃!』
とりあえず1番近い奴に攻撃!
『勇者 の 攻撃 が 弾かれた!!』
…ん?
弾かれた…?
感触は…あった。
いや『弾かれた』から、感触はそりゃあるんだけど。
固い感触ではない。
…柔らかい?
…今の感触に物凄く覚えがあるぞ。
『??? の 攻撃! → 勇者』
ただ、『それ』にしてはおかしい。
羽根が生えてるやつなんて聞いた事ない。
ぐえっ!
『勇者 に 3 の ダメージ!』
くっそ…考え事する暇も無い!
痛っ!
『勇者 に 2 の ダメージ!』
『勇者 に 3 の ダメージ!』
僕ばっか狙いやがって!
『猫 は [回避] に 成功した!』
「うにゃー!ぶにゃ、にゃー!」
君は何でそんなに殺る気凄いの。
…スライム以外の相手でテンション上がってるな!?
…………。
『猫 の ターン!』
『猫 は [ポイズンブレス] を 使った!』
「シャァァッ!」
『??? に 11 の ダメージ!』
『??? は [毒] 状態 に なった!』
おぉ!
ポイズンブレス、何気に初成功じゃない!?
何体に効いたのかよくわかんないけど!
『??? は 動けない!』
動けないほど効いたの?
ってか僕のターンだけど…
数歩先の暗闇の中、ベシャ、と何かが落ちる音がした。
…………。
『勇者 は ??? に 近付いた!』
…………。
羽根が生えている。
一見、『一見』、蝙蝠っぽい。
大事な事だからもっかい言います。『一見』。
まず身体全体がちょっと透き通ってる。
そんで松明の光を反射して光っている。
触ると…ぷよぷよしてそうだね?
…………。
「にゃー?」
…先輩!
こいつらスライムです!!
「にゃ!?」
『勇者 は ??? の 正体 を 見破った!』
『インディゴスライム の [擬態] が 解けた!!』
蝙蝠?らしきモンスターがぐにゃぐにゃと動いた。
それはいつもの見慣れた丸い形に…
あっ、もう何の疑いも無くスライムです!
「うにゃ…」
…擬態すんのは虫だけで良いよ!スライムが擬態してどうすんだよ!何から身を守るの!?
『インディゴスライム × 4 は 怯んでいる!』
…猫、剣効かなかったからポイズンブレスで何とかしてくれる?
あとは水かけてみたりしても良いけど…
「…フシャァァァッ!」
『猫 の SP が 3 減った!』
どうしたの猫。
イライラしてるの??
『インディゴスライム は 毒 の ダメージ を 受けた!』
どれぐらい効くんだろ。
一律で4ダメくらいかな?
『猫 の ターン!』
『猫 は [ポイズンブレス] を 使った!』
「ぶにゃー!」
『インディゴスライム × 4 に 17 のダメージ!』
スライムは毒を吸収して複雑な色になった。
紺色と紫色のマーブルが何だか毒々しい。
『モンスター を 全て 倒した!』
お、やった。勝った。
『猫 の SP が 2 減った!』
え、何で!?どうしたの!?
「グルルル…」
どうやらスライム以外のモンスターって期待してたのに裏切られたからっぽい。
猫の目から殺意が消えてない!
「シャー!」
『猫 は インディゴスライム の 死骸 を 食べた!』
あーっと!何の躊躇いもなく食べたー!
野生の本能丸出しだー!
ポーション足りるかなー!?
次の日。
ポーションはギリギリ足りた(使い切ったけど)。
そんでもって…
「にゃにゃーん!!」
『猫 は [心眼] を 覚えた!!』
…猫がまた何か覚えちゃった。
どんどん猫が強くなっていくぞ…
勇者メモ
・心眼:真実を見通すことができる
・擬態とかを見破れるってことかな。
『心眼は武道の心得ですぞ!』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.291, 武闘家の言葉より抜粋