緊急MISSION『雛鳥を救え!』
「何でもっかい登るんだ!?」
「何なんだあの勇者!」
1回行ったから大体登り方は掴めたぁ!
急ぐぞ、猫!
「にゃにゃーん!」
上の方でバサバサと音がした。
親鳥が雛鳥の異変に気付いたんだろう。
1匹足りないぞ!?的な。
急げ急げ!
『ギャァァァ!!』
「勇者様!それはただのカラスじゃないんです!」
下の方からママさんの声がした。
そうは言われても雛鳥返したいから行くしか!
「凄く凶暴なんです!」
それはさっきのでわかった!
「にゃー!にゃっ!」
あと5メートル、って所で猫が僕の肩から離れた。
そのまま一気に木を駆け上がる。
流石猫。早い。
そして流石僕。木登り上手!早い!
『ガァァァッ!』
「シャァァァッ!」
威嚇!?威嚇してんの!?煽りに行ったの!?
それは悪手!
ってか、巣は何処!?
…あれか。親鳥の足元!
…あそこまで行ったら…僕の体重だと木が折れるな。
猫!
「にゃー!」
威嚇をやめて、猫が僕の側に来る。
雛鳥頼んだ!
「ぶにゃ!」
猫は雛鳥を咥えて、巣まで駆けて行った。
…あれ?そういや親鳥が静かになってる。
さっきのって威嚇じゃなくて…何か話してたのかな?
いや、猫の言葉とカラスの言葉は通じるんだろうか…
「にゃっはー!」
猫は無事に雛鳥を返したみたいだ。
よし、流石は相棒!
「にゃふぅ」
心なしかドヤ顔をして、猫は僕の頭に乗っかった。
…いや、自分で降りれば!?
僕より早いでしょ、多分!
「ぶにゃー、みゃー」
面倒臭い、飽きた、的なことを言ってる気がする。
僕のこと何だと思ってるの…足だと思われてるのかな…
ま、降りようか。
さっきは落っこちたから慎重にね。
「にゃ!にゃ!」
急に猫が僕の頭をばしばしと叩いた。
何。後でね。
「ぶにゃう…」
忙しいんだから。
いやーそれにしても流石僕。降りるのも上手!
「勇者さま!そこから枝が無いの!」
女の子の声がした。
え?そうだっけ?じゃ最初どうやって登ったんだっけ…
ま、良いや。飛び降りよう。
ていっ!
「きゃぁぁ!?」
…いや、そんな悲鳴あげられちゃうと逆に困っちゃう!
無事に着地した僕の頭に、猫が着地した。
「にゃーお!」
あ、今こいつ絶対カッコいい事言った。
『ミッションコンプリート!』みたいな事言った!
「う…おおおお!凄ぇぞ坊主!!」
あれ、さっきの武器屋さんだ。
…って、武器屋さんが叫んだ途端に拍手が!
「にゃっ!?」
猫なんてびっくりして僕の懐に無理矢理入って来ちゃったじゃん!
何だよもう、びっくりした!
服伸びちゃう!
「勇者様!娘の風船を取っていただいて…更には雛鳥まで助けるだなんて!」
ママさんが感極まったように言う。
…感極まったってこういう時に使うんだね!
「つまらない物ですが、お礼です!受け取ってください!」
『勇者 は ヒールポーション × 5 を 手に入れた!』
…………。
「え!?ゆ、勇者様!?頭を上げてください!」
いや奥さん、これは土下座…!
金欠の僕に回復アイテムは土下座…!
ありがとうございます!
「そんな!お礼を言うのはこちらなのに!」
「にゃ!にゃー」
猫が僕の服から出て、思い出したように首輪を見せつけた。
…って、何これ。
何か、指輪みたいなの付いてる。
「にゃー!」
ついでにメモも付いてる…何々…
『オマケの[腕力の指輪]だ!今後も御贔屓に! 武器屋』
武器屋のおじちゃん!
圧倒的感謝!!
「にゃー」
泣くなよ。って言ったな!?わかったぞ!?
泣くだろ!
人の優しさが身に染みるよ!
「おい…」
そうだ、ついでにギルドでも行ってみようか。
ミッション受けられるかも。
「ぶにゃー」
「おい!」
ギルドで受けるミッションはお金出るんだっけ?
お小遣い稼ぎしてから旅の再開かなぁ。
「にゃーにゃ」
「おい!お前に言ってんだよ!」
痛い痛い。
黒い鎧の勇者君が何か怒ってる。
鎧の手で肩掴まれるとむっちゃ痛い。
何?
「お前…俺らに恥かかせやがって!」
え、何の話??
「木に登るなんて卑怯よ!」
「全く…君、冒険は初めてなの?常識がなってないよ!」
木に引っかかってんだから登れば良いじゃんよ…何が卑怯なの…
ってかミッションに常識とかあるのか…
何、年功序列的な?新参者はミッションクリアを譲れ的な??
「ぶみゃー」
何かを察した猫が、僕が何か言う前に口を押さえた。
君、本当に頭良いよね。
「にゃふう」
ドヤ顔したな?わかったぞ!
あ、そうだ。ギルドって何処?
「は?…ぶはっ!お前ギルドの位置もわかってねーのかよ!」
「ぎゃはは!だっせぇ!!」
あっ、駄目だこいつら使えない。
ねぇ、ギルドの場所わかる?
「え?」
ピンクの風船を持った女の子がきょとんとした。
まぁいきなり話振ったからね。
「えーとね…あの、向こう」
女の子は広場の方角を指差した。
「広場でね、あの、赤い屋根が見えるから…それがギルドよ」
そっか。ありがとうね。
「にゃ!」
「…勇者さま、猫ちゃんと一緒に冒険してるの?」
そうそう。
こいつ凄いんだよ。魔法使えるからね。
「にゃふう」
「うわあ…猫ちゃん凄い!」
君も大きくなったら冒険行きたい?
「…ううん…私、町人だから。旅には行けないの…」
そっか。
僕の友達も村人でさぁ…一緒に旅とか行けたら良かったんだけど。
僕とこいつでもどうにか旅できてるけど、回復役がいないからなぁ…誰かいないかな…
「猫ちゃん、回復魔法は使えないの?」
「にゃ??」
無理じゃないかな…
できちゃったらこの子万能過ぎて怖い!
「にゃにゃー!」
できる気がするって?
…お前、もう1匹で旅してろよ!
「ぶにゃー!?」
「…ふふ、勇者さまと猫ちゃん、楽しそう!」
女の子の目は腫れてるけど、表情はすっかり笑顔になっている。
風船取った甲斐があったね。
外野がうるさいけどね!
「…あのね、旅には行けないけど…」
ん?
女の子の真っ直ぐな目が眩しいぞ!
「大きくなったら、勇者さまのお嫁さんになってあげる!」
…んんー!
眩しいぞ!
純粋な子供の純粋な好意!
…大きくなったらね!
「うん!」
笑顔が眩しいぞ!
じゃ、行こうか。またね!
「気を付けてねー!」
黒い鎧の冒険者(その他色々)は無視しよう。
まだ何か言ってるけど、聞くと頭悪くなりそう!
「にゃー、にゃおー」
…もし猫が風っぽい魔法使えたとしたら…
……いや、だとしても登った方が早いだろうな。
彼ら、木登り苦手なのかな?
ま、良いや。
ギルドでミッション受けて…目標は大きく、3000G!
「にゃ!」
そんで回復アイテムは貰ったから、あとは食料とか日用品買うぞ!
「にゃにゃー!」
食料と日用品、回復アイテムをもう少し買ったらまた財布が寂しくなってしまった。
結局お祭りが終わるまで町に居て、色々ミッション受けてみました。
いやー…宿取れて良かったねぇ…
「にゃーお」
次に着きそうな町は…ちょっと遠いね。
2週間くらいかかるかな。
「にゃーん」
町の賑やかな感じも好きだけど、静かな方が気楽で良いかも。
ようやくSP満タンって感じ。
さーて、張り切ってスライムを…
良い音がした。
同時に後頭部に痛みが走っ…痛みどころじゃない!めっちゃ痛い!!
思わずその場に膝をつく。
え、何!?誰!?
「にゃ!?」
固かった!固くて、小さい!
石!?石かな!?
「ぶにゃー!」
猫が近くに転がっていた何かを拾った。
何?…コイン?
「にゃ!」
猫は僕の膝の上までそれを持って来た。
それは…普通のコインよりちょっと大きい、金色のコイン。
綺麗だけど、年季が入った感じ。
…いつの通貨?見たことないんだけど…
すると、頭上からバサバサと羽音が聞こえた。
見上げるタイミングが猫と綺麗に被る。
…!こないだのカラスだな!?
「にゃにゃーん!」
君の巣からは何も盗ってないよ!
「うにゃー!」
…あれ?
カラスはしばらく僕らを見下ろした後、行ってしまった。
ヒラヒラと黒い羽が1枚落ちて来る。
…何だったんだろ…
このコイン、あのカラスが落としてきたんだよね?
「にゃふう」
確かにカラスはキラキラした物が好きって言うけど…
好きなら何でわざわざ僕の所に………あ。
もしかして…『雛鳥を巣に返した』から、お礼?
「にゃ?」
カラスって頭良いねぇ…
くれるって言うなら、ありがたく貰っておこう。
…痛かったけど!
「にゃにゃー!」
金色のコインを空に向かって弾くと、とても良い音がした。
『勇者 は [??? の コイン] を 手にいれた!』
『彼の身のこなし、素晴らしいよ!是非我がサーカス団に勧誘したかった…!』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.205, サーカス団の団長の言葉より抜粋