旅立ちの日
僕は『勇者』。
生まれた時から勇者だったんだから、僕は勇者。
それ以上でもそれ以下でもない。
普通に育てられて、ある日突然母さんに『今日は旅立ちの日よ!』と言われる。
そういうものなのだ。勇者なのだから。
村には、何時からあるのか知らないけど『ギルド』と呼ばれる建物があり、そこでパーティを作る。
そして『魔王』を倒す旅に出かけるのだ。
それは良いけど、良いっていうかもう『世界の理』だから僕がどうこう言うこともできないんだけど。
問題がある。
僕、剣術とか習ったことないんだよね。
大きな街だと『師範』という人がいるらしい。
剣術、体術、魔術を教える人まで様々。
普通、勇者は子供の頃から師範に剣や戦い方を学ぶ。
僕が生まれた村は小さい。師範なんていない。
いや僕もチャンバラくらいはやったことあるよ?子供の遊びの定番だよ?
かっこいい形の棒を見つけた時のときめきは忘れないよ?
でも、それだけ。
母さんから『これを持って行きなさい』と言われて渡されたのは、村では見たこともないような、上質な剣と盾。それから装備一式。
…もっと大きな街の勇者ならもっと良い装備で旅立てるのかな。
その辺は勇者である僕でもわからない。
剣はともかく盾とか持って歩いたこと無いよ。
正直渡されても困る。
でも僕は勇者だから、ある日突然旅立ちを宣言されて装備一式を渡される。
モンスターにすら会ったことないのに、一体どうすれば良いのか。
でもまぁ、仕方ないよ。世界の理だからね。
それもまぁ良いんだけど、次の問題だけは良くない。
村のギルドにパーティメンバーがいない。
僕に友達がいないわけじゃない。でも友達は『村人』や『商人』で、パーティに入れない。
そもそも村が小さいから、ギルドに所属してる人数も少ない。
更に、この村ではしばらく勇者が生まれなかったらしい。
だから勇者以外の人でパーティを組んで、数年前に魔王退治の旅に出たらしい。
(勇者を入れないパーティ編成は、世界的にも最近流行ってるらしい。何でかな。)
おかげでギルドはすっからかん。物の見事にすっからかん。
これは許さない。
いきなり旅立ち宣言も装備一式授与も許すけど、これは許さない。
そもそも何で勇者は13歳にならないと旅に出られないんだよ。誰だよそのシステム考えたの。
他の人はいつでも旅に出られるから、もう出ちゃってるじゃん。
ギルドに所属できるの10歳からだけど、10歳の子すらいないってどういうこと。許さない。
っていうか何で勇者の僕を置いて旅に出るの。意味わかんない。
ギルドも何で承諾すんの。馬鹿じゃん。
流石に母さん、それから村長に抗議した。
一晩村の大人達が話し合って、出した結論がこちら。
『勇者よ!猫を飼っているだろう。その猫を連れて行きなさい!』
満面の笑顔の村長と真顔の僕。
村長に抱えられた、僕ん家の子猫。
もう言い逃れはできないと悟った。
勇者(13歳)、猫(1歳)と魔王を倒す旅に出ます。
『旅立つ時、勇者は悟り切った顔をしていてな…儂はこいつは大物になると思ったんじゃよ!』/○○の冒険奇譚, 第1巻, p.12, 村長の言葉より抜粋