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虚空の【セカイ】と魔女 外伝  作者: 白河律
魔法少女マジカルサヨ☆りん
9/20

魔法少女始めます?


 夜の闇に紛れ、悪は奔走する。

 人よ、夜を闇を恐れよ。


 ――そこは本来、人の踏み込むところではないのだ。


 昼の光ならば、世界を照らし闇を押し込める。

 だが夜はその闇に覆われる。

 そこに、押し隠された〝モノ〟がその翼を広げる。

 抑圧された〝モノ〟が現れる。

 だから今宵も悪は、悪を為す。



 「きゃ――!」

 夜の暗い路地裏に、若い女性の悲鳴が響き渡る。

 仕事帰りの女性の前に現れたのは、人と同じ大きさもあるカニだった。

 妙に手足の長いカニ、それはタカアシカニにも似ていた。

 「かに――!」

 カニが女性を威嚇するように、その巨大なハサミを振り上げる。

 女性は恐怖に怯えて、その場に力無くへたり込んでしまう。

 それも仕方ないのかもしれない。

 巨大なカニが何の前触れも無く現れたのだから。

 それは魔的な非日常。

 ――怪異。

 普通の人間はまず、抗えない。

 そんな女性をカニは両のハサミで捕まえる。掴まれた女性は身動きが取れない。

 「かに!かに!」

 カニは身動きを封じると、口の辺りから何本もの触手を出す。

 「な、何?何をするの……?」

 細く透明でウネウネと唸る触手を見て震えた。

 悪寒が女性の背筋を奔る。

 「かに――!」

 触手が女性の身体に絡みつく。

 「いや、いや――!」

 触手が女性の身体を撫で回す。じっくりと。ねっとりと。執拗に。

 しかも触手はべた付いた粘液に塗れていて、それが身体を濡らす。

 シャツが肌に張り付き下着を透けさせる。透けたふくらみのある部分を特に丁寧に丹念に触手は這いずる。シャツの中にも入り込んでいく。

 「もう、もう止めて……」

 生理的な嫌悪感を感じて声を出す。

 しかし、触手は止まらない。

 足を、ストッキングに包まれた太ももを撫で回していたそれが徐々に、腰を伝い上ってくる。

 「あ、ああ……」

 女性は身体を震わせる。

 しかしそれは嫌悪ばかりでは、いつの間にか無くなっていた。

 触手のそれは女性に感じた事の無い快楽を与え始めていた。

 「うっ、つ…はああ……やあ……やあ…」

 抗いつつも、甘さの混じる吐息を零してしまう。

 身体が熱く火照る。

 人間では決してできない行為。

 それの虜になりつつあった。

 頭が朦朧して上手く物事が考えられない。

 その隙に触手は大事な所に触れようとする。


 まさに――その時であった。


 「――止めなさい」


 声が空から降ってきた。

 女性が朦朧とした意識で最後に見たのは、ゴシックな黒のドレスに身を包んだ少女の姿だった。

 音も無く、何処からとも無く少女は地面に降りる。それに合わせて衣装が僅かに揺れる。

 艶やかなフリルとリボン。それでいてそのスカートの丈は短く、白く細い太ももを覗かせている。胸元は開き、豊かな双丘が見てとれた。

 それでも少女の装いが下卑たものに見えないのは、その雰囲気の為であろう。

 腰まで伸びた黒髪と物憂げな瞳、綺麗な顔立ち、細い手足。

 それらが少女に浮世離れした雰囲気を与えていた。

 「かに!」

 最初カニは、自身の楽しみを邪魔されて怒りに満ちた声を上げた。しかし少女を見ると歓喜に震えた。

 「かに――!」

 そんな上玉の少女を触手で弄びたい。

 女性を離すと、無数の触手を伸ばす。

 見るからに線の細い少女には、それを退ける事など出来ない筈。


 この時のカニみその中身を覗き見てみよう。

 少女を捕らえる。先程の女性のように身体を舐め回し、差し入れてその瑞々しい柔肌を、大きな胸を、細い腰を、太ももを粘液塗れにする。

「はっ、ああ、やだ…やめて、おねがい……」

 少女が恥ずかしげな、抑えた熱い吐息を零す頃になったら大事な所を突く。

「そこは…だめ…だめなの……んん…ふぁぁぁ――!」

 美しい少女のこじ開けられた欲情の姿。

 もはや、カニとは思えぬピンクな妄想であった。

 このまま少女は思うままに蹂躙されてしまうのか?

 触手が迫る!


 ――だが、その触手が届く事は無かった。


 少女が手に持した、不可思議な青白い三日月にも似た刃に切り裂かれたからだ。


 「かに!かに!かに!」

 予想外の事態にカニは慌てふためいた。

 こんなバカな!

 何処からか取り出した刃を手にした少女は止まらない。

 物憂げな表情を変える事なく、カニに接近すると刃を振り上げた。

 「この、腐れ○○○の色情ガ二。永遠に消えなさい――!」

 「かに――――!」

 甲羅ごと真っ二つとなった。



 「終わったわね」

 カニを切り裂いた少女は誰にともなく呟く。

 女性に近づいて、様子を窺う。

 身体は粘液塗れだが、怪我も無いし落ち着いた呼吸を繰り返して気を失っているだけ。これなら病院に連絡をするだけでも大丈夫だろう。

 もう一度、カニに近づくとその甲羅に包まれた身体を見る。

 綺麗に真っ二つなので、もう息はないだろう。

 これどうしようか、と考える。

 一応、カニ。

 ひとの想い――欲情から生まれたモノだけど。

 生ものだし、ほっとけば明日には鳥のエサか。

 腐ったら臭そうだ。苦情が出るかもしれない。

 持って帰るしかないのかな?

 食べる――こんなエロカニは口にもしたくない。

 そんな事を考えて、甲羅に触れた時だった。


 ――カニから白濁とした体液が噴き出した。


 汚される少女の身体と衣装。

 「――――!」

 カニは原型が無くなるまで切り裂かれた。


     ◇


 「おかえり、小夜!」

 怪異を収めた少女は、月と星が浮かぶ空を高く飛ぶ。

 そこで待っていたのは背中に羽の生えた黒猫。

 「ええ、ただいま」

 「どうかしたのかい、小夜。なんか不機嫌な顔をしているよ?身体や服もベタベタだし」

 「色々あったのよ、聞かないで欲しい」

 「そう言うなら聞かないよ」

 羽の生えた黒猫――アランポーはそのくりくりとした目を閉じて頷く。

 聞き分けのいいマスコットだと思う。こんな事を始めるに至って、必要だという事で意思や知識を与えられた結果ではあるけれど。

 そう、自分の口の悪い相棒に比べれば。

 「おつかれ――!」

 噂をすれば、自分と似たドレス――但し赤い装いの少女が宙を舞ってこちらへと来る。

 髪を後ろで結った活動的な少女。そんな彼女にはその赤いドレスが似合っていた。容姿も整っているので猶更である。

 「おつかれ、千鶴」

 「お疲れ様、千鶴!」

 ひとりと一匹が言葉を返す。

 この様子だと無事に怪異を刈り取る事ができたのだろう。

 「ありがとう、ふたりとも……ってなんか小夜から臭うわね。なんかイカゲソ臭い。どうしたの?」

 「聞くな」

 「ほほお。これはなんかミスでもしたか?それとも、なんかいやらしい目にでもあったか?野郎にでもコカレたか?」

 千鶴のしたり顔。

 イラッときた。

 「うるさいわよ、あなただっていつかそういう目に遭えばいいのよ。私と同じ格好しているんだから」

 「あーまあでも実際、アブナイよね」

 千鶴も頷く。

 ふたりして改めて見てみるが、この衣装は色々際どい。


 いくら――〝魔法少女〟の真似事なんてするにしても。


 そう、これは真似事だ。

 冗談のような。

 本来〝魔女〟である彼女達の。



 夜の闇は暗く、そこにはひとの想いを具現化した怪異が――悪が現れる。

 それを人々は恐れ、慄く。

 だが、忘れてはいけない。


 ――空には輝く月が、星がある事を。


 それが街を明るく照らす。

 魔法少女という希望は確かにあるのだ。


連載時からやりたかった企画です!

カニ、触手、魔法少女。

エロしかなかった(笑)


カニ怪人のモデルは繋がりのあるお方より。

すいません、エロ要員で。

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