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虚空の【セカイ】と魔女 外伝  作者: 白河律
それは、夢のように
8/20

それは、夢のように

バレンタイン短編です(笑)

時空列上、無理だったのでこんな形に。

    それは、夢のように



 「ちょっと小夜、それ火に掛けすぎ!」

 「そうなの?」

 「火を止めて!」

 「分かったわ」

 私――虚木小夜(うつぎさよ)は生クリームを入れた鍋を温めるコンロを止める。



 二月の初め、私はクラスメイトの時東浅葱(ときとうあさぎ)の家にお邪魔になっていた。

 チョコレートの作り方を教わる為に。


 ――バレンタイン。


 その日は、女の子も男の子も戦争の日だと言う。

 そんなイベントは今までの学園生活では、遠巻きに見ているだけで私には無関係なものだった。


 ――今年になるまでは。


 鍋が程よく沸騰したのを見て、刻んだチョコレートを入れる。

 「ふーん、小夜って普段コンビニのサンドイッチばかり食べているから、料理は苦手だと思ってたけど、それなりの手際ね」

 「まあ、夕食を自分で作る事もあるから。朝は色々あって中々、起きれないのよ」

 「そうなんだ」

 浅葱が相槌を打つ。

 「ところでさ。いきなり押しかけてきて、チョコレートの作り方を教えてくれって言われて、こうして一緒に調理してるけどさ。それはやっぱり、明日のバレンタインにあの子に渡すため?」

 「それは、その……」

 「みなまで言いなさんなって!小夜、上手くいくといいね!」

 「私はただ、その……知ってる男の子はひとりだけだから、渡しておきたいと…思っただけで。浅葱、あなたには渡したいひとはいないの?」

 そう言うと、彼女は口笛吹いて答えた。

 「今の~あたしには家族しかいないのさ~」

 「昔はいたのね」

 「秘密~」

 浅葱が笑う。



 次の日、どこかそわそわとした学園での時間は終わり、放課後の生徒会室で私はそのひとを待っていた。

 長机に置かれたイスに座って。

 こうしてみると、なんとなくみんなが落ち着かない気持ちも分かる。

 とても緊張する。

 受け取ってもらえるのか、とか喜んでもらえるのか、とか色々な考えが頭をよぎる。

 そうしていると、生徒会室の扉が開いた。

 「先輩、遅くなりました!」

 生徒会室に入ってきたのは、私の後輩の殻木田順平(からきたじゅんぺい)くん。

 「今日は遅かったのね」

 「すみません。実はクラスメイトに呼び出されてまして……」

 「そう、なんだ。それで、なにか貰ったの?例えばチョコレートとか……」

 「どうかしたんですか?」

 「え?」

 「なんか凄く、悲しい顔してる」

 「それは、その……」

 私は手に持った包みをイスの後ろに隠すように押しこめる。

 「えっと、呼び出しは友達の部活の手伝いですよ。別に誰かに告白とかされていた訳ではないですよな!」

 殻木田くんが苦笑しながら答える。

 その答えを聞いて私は安堵の溜息を吐いた。

 そしてそれからイスから立ち上がると、生徒会室のドアの鍵を閉める。

 「え……先輩、どうして鍵を閉めるんですか?」

 「それは……誰にも見られたくないから」

 そう言ってから、チョコレートの入った包みを差し出す。

 「その…これをあなたに……わ、わたしの気持ちだから……!」

 緊張で声が震える。心臓の動悸が早くなる。

 「……受け取ります。開けてみてもいいですか?」

 頷く。

 「これ、先輩の手作りですか?」

 包みを開いた殻木田くんが言う。

 「うん、初めて作ったから自信はないけど……」

 殻木田くんはひと欠片チョコを摘まむと、口に頬る。

 「美味しいですよ!」

 そう言って、柔らかく微笑んでくれる。

 「良かった……」

 その笑顔を見て、私も笑う。

 「俺、お返ししないと」

 チョコを全部食べ終えると、殻木田くんは言った。

 「殻木田くん……」

 私を真っ直ぐに真剣な目で見つめてくる。

 気恥しさを覚えて視線を逸らそうとすると、頬に熱を感じた。

 私の顔は殻木田くんの手で押さえられて、視線を逸らす事が出来なかった。

 彼と目が合う。

 「先輩に俺からの気持ちを返します」

 次の瞬間、私は彼に強く抱きしめられた。

 身体と身体が強く触れ合う。

 「……!」

 それだけで、私の身体が酷く熱くなった。

 今、彼に抱きしめられていると思うだけで。

 「俺の気持ち伝わりましたか?」

 こくり、と頷く。

 「それなら――」


 それから、私達はどちらからともなく目を閉じて――



 「――!」

 目が覚めた。

 外から差し込む朝の日差し。

 「酷い夢を見たわ……」

 誰にともなく呟く。

 きっと、寝る前に読んだマンガのせいだと思った。

 バレンタインのシーンなんか描いてあるからだ。

 大体、アイツは私が夢で見たような気の利いた事なんかしない。

 朴念仁で昼行燈でニブチンでバカだから――


 私はありったけの苛立ちを込めて、枕を壁に放り投げた。


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