彼女は凛として咲く花の如く 2
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午後の体育の時間。
男子は学校の外をランニング。女子は学校のコートでテニスをしていた。
コートは数が無いので、交代で試合をしている。
今コートに立つのは古谷さんだ。
古谷さんが点を取るたびに、女子の中から歓声と拍手が起きる。
実際、彼女の動きは運動部のそれにも劣る事なく素早い。何よりキレがあるように見えた。
何だろう?
運動の動きというより、前にテレビで見た武術のような。
ともかく古谷さんの容姿と相まって、テニスに打ち込む姿は同性にも魅力的に見えた。
一方――その影で。
「アイツって、なんであんなに動けんの?運動部でもないのに」
「知らないわよ。あれじゃない、やったら出来るとか、いうタイプなんじゃないの?」
「それって、毎日頑張っているヤツをバカにしてない?」
「してるかもね、案外」
そんな声も聞こえる。
女子の中ではそんな会話は当り前だけど、あたしは昔から好きになれなかった。
例えば、よく出る父親への悪口。
あたしにはそもそも、お父さんがいない。
亡くなったひとの事を悪く言ったりはしたくない。
そんな事を思いながら、声の聞こえない方へと移動する。
そこにいたのは、虚木さん。
みんなから離れた所に、ひとりで座っている。
「隣りいい?」
「別に許可なんていらないわ」
ぶっきらぼうにも聞こえる言葉。でも拒絶の言葉じゃない。
彼女の傍に腰を下ろす。
あたし達のいる所からは、みんなの声は遠く聞こえる。
それを少し寂しくも思う。
けれど、その代わり時間がゆっくりと流れるのを感じた。
隣りに座る虚木さんは――多分、一年生がサッカーをしているグランドを見ている。その目は何かを、誰かを追っているようにも見えた。
誰を見ているんだろう?
あたしには分からない。
ジャージを着た彼女は、長い髪が動く際には邪魔にならないように縛って、肩口から流している。そのお陰で細い首筋と白いうなじが見える。
ちょっと、これはタマリマせんなあ~!
女のあたしでもついつい、色気を感じてしまい手を伸ばして――
「何か用かしら?」
彼女にジト目で睨まれる。
慌てて首を振る。
とと、アブナイ。
思わず欲望が。
それから、また虚木さんはグランドに視線を戻した。
そんな彼女からはジャージを着ているのにも関わらず、あんまり運動をしているイメージが湧かない。
実際、普段ランニングなどで走っている時も手を抜いて涼しい顔していた。
――けれど知っている。
本当の虚木さんは、古谷さんとタメが張れるくらい運動神経がいい。
あれは四月の生徒会の役員が、決まった後くらいだっただろうか?
虚木さんと古谷さんが、険悪な空気でテニスコートに向き合っていたのは。
教室ではあんまり関わりの無いふたりだけど、元々は旧知の仲のようで時々、一緒に登校している姿もあった。
ふたりが何か言葉を交わす。
それは酷い罵詈雑言。
虚木さんは分かるけど、古谷さんが言った時は周囲が耳を疑った。
それから――試合が始まった。
いや、あれを試合とか言っていいんだろうか?
ラケットとボールを使った戦争?
まるで某テニスマンガのようにボールが凄いスピードで飛び、凄まじい変化球が飛び交った。
それに合わせてふたりの動きもまた、激しいものとなった。
いや~人が空中で身体を捩って振り向き様にボールを打ったり、バク転をしながら打ち返したり曲芸かと思ったよ!
しかしそこに漂う空気は、言うなれば殺気!
本当に怖かった。
怖すぎて、ふたりが凄まじ過ぎて誰も授業の終わりまで声掛けられなかったもん!
古谷さんもそうだけど、虚木さんも――不思議なひとだな、あたしは思う。
なんだろう、他のひとには無いものを持っているというか。
そんなふたりの関係がいまいち分からない。
あの五月の夜の時も――
――虚木さんは突然現れて。
そんな所に最初に惹かれて、あたしは虚木さんに声を掛けたんだ。
小夜と千鶴のガチケンカはかなり危険(笑)