彼女は凛として咲く花の如く
あんまり、普段の学校での小夜達や千鶴を書いていない事に気が付いて執筆開始。
殻木田君の方がまだ周囲から、どう見られているか書かれていたなあ、と。
後、小夜にあんまりにも普通の友達がいないので(笑)
それは、五月の上旬ある夜の事――
その日、友達との付き合いで帰るのが遅れたので、早く帰ろうと普段は通らない人気の無い路地裏を通る事にした。この道が家への近道だったから。
この判断が、良くなかったんだと思う。
そこに――ナイフを持ったひとりの男がいた。
あたしが声を上げる前にその男は素早く近づいてくると、ゴツゴツとした手で口を押さえ付けて言った。
「大人しくしろ!」
目の前でナイフをチラつかせる。
怖かった。本当に怖かった。
身体は震え出して止まらない。冷や汗が全身から噴き出る。
これから、あたしはこの男に何をされてしまうんだろうか?
考えれば考える程、想像は最悪の方へと向かってしまう。
男があたしを身動き取れないように両の手を後ろに回して、片手で押さえる。
「声を出すなよ?出したら酷い目に遭わせるからな!」
男の手があたしの身体をまさぐる。
いや、いやだ!
誰か助けて!
男の手は口から外れていたけれど、恐怖で口が上手く動かない。
あたしはこのまま、この男に……。
そう考えて、目から涙が零れた時だった。
「そこまでにしなさい」
暗い路地裏に声が響いた。
その声は、あたしと学校の制服を着た女子生徒から発せられたものだった。
腰まで掛かる長い黒髪、物憂げな瞳。
あたしはその女子生徒を知っていた。同じクラスの――虚木小夜さんだった。
虚木さんを見ると、男は舌打ちをしてあたしを放す。
あたしが思わず、安堵の息を吐いた時だった。
男はナイフを構えると――虚木さんに突撃した!
しかし、虚木さんは難なく男を躱す。しかも足を通りざまに引っ掛けた!
男は頭から地面に倒れこんだ。
「そこのあなた、今のうちに逃げなさい」
虚木さんが、物憂げな雰囲気を変えることなく言う。
あたしは首を振った。
「だめ!虚木さんも――」
「私は大丈夫だから」
彼女は事もなく言う。
地面に倒れこんでいた男が顔を上げる。そこには虚木さんへの憎しみに目が光っていた。
「虚木さん!」
「いいから行きなさい!」
虚木さんの声にあたしは走り出した。
虚木さんに謝りながらも、できるだけ早く人を呼ぶ事だけを考えて。
最後にあたしは一度だけ振り返った。
虚木さんはナイフを構えた男に問うていた。
「あなた、二月にも人を――ひとりの男の子を襲った覚えはない?」
男が頷く。それがどうしたと、言わんばかりに。
「そう、やっと見つけたわ。随分と骨が折れたわ」
彼女が微かに笑った気がした。
それがあたしの見た最後の場面だった。
あたしが人を呼んできた時、ふたりはそこにはいなかった。
翌朝、その男は自首してきたという形で新聞の片隅に載っていた。
タイトルはあの作品絡みでございます(笑)