魔法少女の夏
7
梅雨の雨も多い六月の後半、半袖の夏服を身に纏う私はクーラーの効いた生徒会室を出て校舎裏へと歩いていた。
この日は晴れていたものの、連日の雨と湿気で蒸せるようだった。
そんなうららかなとは言えない土曜日の午後に、彼の姿を探していた。
殻木田くんは――今日は生徒会室には来ていない。
なんでも、園芸部に草むしりを頼まれたとか言っていた。
こんな陽気だと雑草もさぞかし伸びるのだろうと思う。
まあ、それはいい。
この際、どうでもいい。
問題は――彼がいない事に、もの寂しさを覚えた事だった。
周りからよく勘違いされるけれど、殻木田くんは生徒会の役員ではない。あくまで善意で、主に私の手伝いをしてくれているだけだった。だから基本的に人の良い彼が他のひとの頼みを優先しても、私が何かを言える義理はない。
まあ、何を思うかは私の勝手だと思うけど。
だから彼を探す事にした。
夏の近い季節の暑さと日差しに項垂れる。
今年は猛暑になるかもしれない。
なんて面倒。
周囲に人がいない事を確認してから襟元を開けて、ブラウスの中に風を通す。
不快な汗を掻く肌がわずかに冷える。
しかしだ、こんな中でアイツは草むしりをしているのか。普段からバカだとは思っているけど、ここまでくると偉大な気もする。私なら絶対にしないし、やるとしても途中で止めて涼しい日陰でアイスでも食べて過ごす。
何となく熱中症になっていないか心配になって、自販機でスポーツドリンクを買う。それを持って校舎裏の花壇へ。
土曜日の授業の終わった後で人の少ない校舎だが、校舎裏には全くいない。
麦わら帽子を被った殻木田くんを除いては。
見つけた彼は草むしりを終えた後のようで、校舎の壁に寄りかかって休んでいた。その手には何か写真を持っていて、それを見つめている。
何を見ているのか気になって、こっそり脇から覗き見た。
「何を見ているのかしら?」
「せ、先輩!」
私の気配に気が付いた彼が、慌てて写真を隠そうとする。
その前に写真を取り上げてしまう。
「こんな写真を持っているとは思わなかったわ」
写真に写り込んでいたのは――魔法少女サヨ☆りん。
少し前まで街に現れては怪人怪物と戦っていた少女の片割れ。
その存在は、今はもう現れる事はない。
最後の戦いを終えたのだから。
変身していた本人が言うんだから間違いはない。大体あんな人生の〝間違い〟みたいな事は二度とゴメンだった。最近、読み始めたマンガにも魔法少女が出ていたが、もう自分ではやりたいとは思わない、絶対に。
「どうして、あなたが持っているのかしら?」
そう聞くと、殻木田くんはバツが悪そうに頭を搔いた。
魔女達を纏める組織が当初、構想した通り魔法少女達は一定以上の人気を得て、人々の認知を得た。だがそれは同時にそんな映像や画像が広まる事でもあった。
千鶴の私もそんな事は全く望んでいない。
確かに衣装は可愛いが露出も多いし、色々とロクでもない思い出も多いからだ。
「持っている意味はあまり無いと思うわ。あなたはこの写真の人物が誰かを――知っているし。まあ一部の人間みたいに魔法少女に萌えるとか、推しがあるみたいな趣味があるなら別だけど」
言葉を続ける。この写真の出所はおよそ検討が付いている。彼の友達の子からだろう。その子は変身した千鶴に熱心みたいだし。本当の千鶴を知らない間が華とはこの事か、そう思った。
「えっと、その確かに俺が持っている意味はあんまり無いかもしれません。可愛いとは思いますけど萌えとか、推しとかはよく分かりませんし」
そうでしょうね、と私は頷く。
殻木田くんも男の子だけど、あんまりそういうのに嵌まり込む姿は想像できないし。でも、ならばどうして?そう聞くと彼は気恥しそうに答えた。
「……写真が欲しかったんです。その……魔法少女になっているひとの」
「な……!」
釣られて私も気恥しくなる。
「なんで?この間、一緒に撮ったプリクラがあるじゃない?」
少し前にデートをした時に撮ったもの。半分ずつお互いで分けた筈。
私は――それを生徒手帳に貼っている。
「あれよりも大きいものが欲しかったんです。なんでそう思ったのか自分でも分かりませんけど、どうしても欲しくなったんです」
そう言って少し頬を染めて、柔らかく笑う。
その――私を見つめる笑顔に惹きつけられる。
胸が締め付けるように苦しくなった。
真っ直ぐに彼を見つめてられない。
その想いを誤魔化すように私は、彼にスポーツドリンクのペットボトルを放り投げた。
「痛!」
当った殻木田くんが頭を押さえた。
夏の近づく中、私はときめく。
夏の前に――深い梅雨の雨が降る事もまだ知らずに。
ちなみに飼い猫のアランポーは、今では魔法を解かれて普通の黒猫に戻った。
魔法少女マジカルサヨ☆りん 了
魔法少女完結です!
ここまでお読み頂きありがとうございました!
さてここからは、ドイヒーな本編に(笑)
嵐の前のなんとやら。




