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虚空の【セカイ】と魔女 外伝  作者: 白河律
魔法少女マジカルサヨ☆りん
20/20

魔法少女の夏


     7


 梅雨の雨も多い六月の後半、半袖の夏服を身に纏う私はクーラーの効いた生徒会室を出て校舎裏へと歩いていた。

 この日は晴れていたものの、連日の雨と湿気で蒸せるようだった。

 そんなうららかなとは言えない土曜日の午後に、彼の姿を探していた。


 殻木田くんは――今日は生徒会室には来ていない。


 なんでも、園芸部に草むしりを頼まれたとか言っていた。

 こんな陽気だと雑草もさぞかし伸びるのだろうと思う。

 まあ、それはいい。

 この際、どうでもいい。


 問題は――彼がいない事に、もの寂しさを覚えた事だった。


 周りからよく勘違いされるけれど、殻木田くんは生徒会の役員ではない。あくまで善意で、主に私の手伝いをしてくれているだけだった。だから基本的に人の良い彼が他のひとの頼みを優先しても、私が何かを言える義理はない。

 まあ、何を思うかは私の勝手だと思うけど。

 だから彼を探す事にした。


 夏の近い季節の暑さと日差しに項垂れる。

 今年は猛暑になるかもしれない。

 なんて面倒。

 周囲に人がいない事を確認してから襟元を開けて、ブラウスの中に風を通す。

 不快な汗を掻く肌がわずかに冷える。

 しかしだ、こんな中でアイツは草むしりをしているのか。普段からバカだとは思っているけど、ここまでくると偉大な気もする。私なら絶対にしないし、やるとしても途中で止めて涼しい日陰でアイスでも食べて過ごす。

 何となく熱中症になっていないか心配になって、自販機でスポーツドリンクを買う。それを持って校舎裏の花壇へ。

 土曜日の授業の終わった後で人の少ない校舎だが、校舎裏には全くいない。

 麦わら帽子を被った殻木田くんを除いては。

 見つけた彼は草むしりを終えた後のようで、校舎の壁に寄りかかって休んでいた。その手には何か写真を持っていて、それを見つめている。

 何を見ているのか気になって、こっそり脇から覗き見た。

 「何を見ているのかしら?」

 「せ、先輩!」

 私の気配に気が付いた彼が、慌てて写真を隠そうとする。

 その前に写真を取り上げてしまう。

 「こんな写真を持っているとは思わなかったわ」


 写真に写り込んでいたのは――魔法少女サヨ☆りん。


 少し前まで街に現れては怪人怪物と戦っていた少女の片割れ。

 その存在は、今はもう現れる事はない。

 最後の戦いを終えたのだから。

 変身していた本人が言うんだから間違いはない。大体あんな人生の〝間違い〟みたいな事は二度とゴメンだった。最近、読み始めたマンガにも魔法少女が出ていたが、もう自分ではやりたいとは思わない、絶対に。

 「どうして、あなたが持っているのかしら?」

 そう聞くと、殻木田くんはバツが悪そうに頭を搔いた。

 魔女達を纏める組織が当初、構想した通り魔法少女達は一定以上の人気を得て、人々の認知を得た。だがそれは同時にそんな映像や画像が広まる事でもあった。

 千鶴の私もそんな事は全く望んでいない。

 確かに衣装は可愛いが露出も多いし、色々とロクでもない思い出も多いからだ。

 「持っている意味はあまり無いと思うわ。あなたはこの写真の人物が誰かを――知っているし。まあ一部の人間みたいに魔法少女に萌えるとか、推しがあるみたいな趣味があるなら別だけど」

 言葉を続ける。この写真の出所はおよそ検討が付いている。彼の友達の子からだろう。その子は変身した千鶴に熱心みたいだし。本当の千鶴を知らない間が華とはこの事か、そう思った。

 「えっと、その確かに俺が持っている意味はあんまり無いかもしれません。可愛いとは思いますけど萌えとか、推しとかはよく分かりませんし」

 そうでしょうね、と私は頷く。

 殻木田くんも男の子だけど、あんまりそういうのに嵌まり込む姿は想像できないし。でも、ならばどうして?そう聞くと彼は気恥しそうに答えた。

 「……写真が欲しかったんです。その……魔法少女になっているひとの」

 「な……!」

 釣られて私も気恥しくなる。

 「なんで?この間、一緒に撮ったプリクラがあるじゃない?」

 少し前にデートをした時に撮ったもの。半分ずつお互いで分けた筈。

 私は――それを生徒手帳に貼っている。

 「あれよりも大きいものが欲しかったんです。なんでそう思ったのか自分でも分かりませんけど、どうしても欲しくなったんです」

 そう言って少し頬を染めて、柔らかく笑う。


 その――私を見つめる笑顔に惹きつけられる。


 胸が締め付けるように苦しくなった。

 真っ直ぐに彼を見つめてられない。


 その想いを誤魔化すように私は、彼にスポーツドリンクのペットボトルを放り投げた。

 「痛!」

 当った殻木田くんが頭を押さえた。



 夏の近づく中、私はときめく。

 夏の前に――深い梅雨の雨が降る事もまだ知らずに。



 ちなみに飼い猫のアランポーは、今では魔法を解かれて普通の黒猫に戻った。



            魔法少女マジカルサヨ☆りん 了


魔法少女完結です!

ここまでお読み頂きありがとうございました!


さてここからは、ドイヒーな本編に(笑)

嵐の前のなんとやら。

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