ある休日のふたり
ツイッター作品、二弾。今回は恋愛モノ。
甘い。
爆発しろ!
ある休日のふたり
それは五月のある休日。
暖かい日差しの中を俺――殻木田順平は歩いていた。
片手にはスーパーの買い物袋を持って。
買い出しをしてきた帰り道だった。
さて、そろそろお昼時。お腹が空いてきました!
今日のお昼は何にしようかな?
インスタントラーメンにしようと思った。
インスタントラーメンと侮るなかれ!
麺やスープは市販でもそこに味噌や醤油、様々な具材を混ぜてみれば自分好みのオリジナルラーメンの出来上がり!
むふふ。ごっはん、ごっはん!
そんな事を考えている時だった、そのひとを見つけたのは。
ふらふらと具合が悪そうに歩くのは、俺の学校の――虚木小夜先輩だった。
「先輩、どうしたんですか!」
急いで駆け寄る。
先輩は俺を見ると、安心したように溜息を吐いてその場にしゃがみ込む。
俺は知っている――このひとは〝魔女〟だ。
普通の人には無い力を持っている。
そんなひとに一体、何が?
「殻木田くん……」
「先輩……」
見つめあう。
「お腹空いた……」
「え……?」
事の顛末はこうだ。
休日に入り、お財布にお金の無い事に気が付いた先輩。
お金を降ろそうにも、銀行は閉まっていた。
要するに先輩は素寒貧だった。
「先輩、知ってます?お金ってコンビニとかでも降ろせますよ?」
「そうなの?」
その返事に頭を抱える。
ああ、もうこのひとは!
魔女の先輩は、その肩書きに似合う浮世離れした雰囲気を持っている。
長い黒髪、物憂げは瞳、スタイルのいい身体。美人だ。
その実、中身は――ただの天邪鬼で面倒くさがりだったりする。
現に今も見かねて訪れた先輩の自室で、空腹でソファに横になっている。
後、案外世間知らずかも。
俺はそんな先輩のために、料理中だった。
「先輩できましたよ」
「ありがとう」
「それにしても、俺のお手製のインスタントラーメンなんかで良かったんですか?」
俺は知っている。先輩はわりとお金持ちだ。
聞いた話によればお父さんは海外にいて、仕送りをして貰いながらマンションにひとり暮らしをしている。
お母さんは――もういない。
「あなたの手料理が食べてみたかったのよ、一度」
ソファに横になったまま先輩が言う。
「俺は別に料理上手ではないですよ?お金を降ろして、外で食べてもよかったんじゃ……」
「外食はもう飽きたのよ」
先輩が呟く。その呟きが少し寂しげに聞こえた。
先輩の部屋には、お手伝いさんがたまに来る。
でも、家族はいない。
「分かりました。なら召しあがって下さい!」
ソファの前のテーブルの上に、ラーメンを置く。
すると先輩は起き上がる事なく言った。
「お願いがあるの、殻木田くん。その……食べさせて欲しいの。最初の一口だけでいいから……」
俺を上目遣いで見る。
その仕草が可愛らしくて、つい甘やかしてしまいそうになった。
それでもなんとか堪えて言う。
「自分で食べてください!」
「私は今お腹が空いて全然、動く気力が出ないの。その、だからお願い……」
先輩は時々、俺に少し意地悪だ。
でも今日はなんだか――やっぱり寂しげに見えて。
「いいですよ。今日だけ、ですからね」
そう答えると、先輩は柔らかく微笑んだ。
「先輩、そのいきますよ?」
「え、ええ……」
ふたりの間に漂う奇妙な緊張感。それを乗り越えて先輩に所謂、『あーん』をする。恥ずかしさに死にそうになった。
でもそれは、先輩も同じようで頬が赤い。
先輩に食べさせると、満足そうに笑う。
「殻木田くん……」
そんな先輩が見たくて、結局殆ど食べさてしまった。