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虚空の【セカイ】と魔女 外伝  作者: 白河律
魔法少女マジカルサヨ☆りん
15/20

魔法少女と少年 前


     4


 ひとの想いは巣食う。

 心の中に。

 それは何故か?

 ひとの想いは、その全てを分かち合う事は出来ないからだ。

 言葉にも、どうにも伝えられない想いは(くすぶ)る。

 それは、暗い闇のよう。夜の闇のよう。

 想いは巣食う、夜の闇に。

 だがそんな秘められた想いが、ひとを救うかもしれない。

 空に浮かぶ月のように、星のようにひとの心を照らすかもしれない。

 それでも、月も星も夜の闇でしか輝かない。



 ささやかな休日から数日後の夜、魔法少女達は街外れのとある廃ビルに来ていた。最近、この付近で人が失踪するという事件が起きていたからだ。

 本来、魔女である彼女達が普段から街に張り巡らせている〝糸〟を辿って着いた場所こそがこのビルだった。

 魔女の張る糸。それは彼女達のイメージによって張られたもので、ひとの抱く負の想い、怪異になりうる想いに反応するものだった。この方法は他の街でも行われており、魔女達の中ではメジャーなものでもあった。

 空を舞う魔法少女達が空からそのビルを眺めていると、ひとりの少年がそこに入ろうとするのが見えた。

 その少年を見て、サヨ☆りん――小夜は思わず頭を抱えた。

 〝人が失踪する〟なんて噂や風評がある所に普通、人は近寄らない。

 たまに例外はいるが。

 小夜にとって、もはや通例にもなりつつある例外の姿があった。


 学校の後輩である――殻木田順平。


 「あなた、こんな所で何をしているのよ」

 「あ……」

 振り返る順平。そこにはこの前も見た街で噂の魔法少女達。

 黒いドレスのサヨ☆りんと赤いドレスのチズ☆るん。開いた胸元やスカートから伸びる太ももに健全な少年として目がいきそうになりつつも、サヨ☆りんの自分に向ける冷たい眼差しからは目は逸らせなかった。

 その眼差しはやはり、自分がよく知る先輩のものと似ているジト目。

 「もう一度聞くわ、あなたはこんな所で何をしているのよ」

 その眼差しを真っ直ぐに見返して一度、息を吐いてから順平は答えを返した。

 「知り合いの子に頼まれたんです。友達が失踪してしまったから探すのを手伝って欲しいって――」

 答えを聞いて小夜は溜め息を吐いた。

 本当にコイツはもう。


 小夜は知っている。

 順平は誰かの為ならば、大概の危険は意にも返さない。

 家族を亡くしてから、家族を亡くした原因が自分にあるかもしれないと思っている彼は。

 それは、何処か壊れているような想い。

 誰かの為ならば、自分がどうなろうと構わないというもの。

 そんな彼は怪異と関わる度に傷付いてきた。普通の人間であり、怪異に対してなんの力も持たないのだから。

 尤も、だから魔女である自分とも関わりを持つ事になったのも事実であり、その後も付き合いが続いているものだとは思うが。

 でも――と、小夜は思う。

 自分の傍にいてくれる、想いを抱いている少年に傷付いて欲しくは無い。


 「帰りなさい。ここは危険な所だから」

 そう告げる。

 「えっと……」

 順平は困ったように頬を搔きつつも、その場から動かない。

 少々、場の空気が張りつめたものになる。

 「――いいんじゃない、一緒に来てもらえば」

 千鶴の一声が空気を壊す。

 「ちょっと千……チズ☆るん、何を言い出すのよ!」

 千鶴に捲し立てる小夜。魔女として冷静に考えてみても、普通の人間を怪異に巻き込む事に利があるとは思えない。

 そんな小夜に対して顔を寄せると、千鶴は言った。

 「あんた、忘れた?彼のさせたいようにさせておけ、という母様の指示を。それにこの間、無断でこの子に力を貸したでしょう?」

 「だからって――」

 そういう指示は出ている。しかし巻き込んでいいものなのか、明らかに危険のある怪異に。少し前に、彼の頼みで魔女として力を貸した事も事実だ。でもそれは彼が自分ひとりで抱え込んで傷付かないようにする為だった。

 「僕はいいと思うな。もしかしたら、彼にしかできない事があるかもしれない。君達も怪物や怪人とは戦い慣れていないから、人の手はあった方がいいと思う」

 空から白い翼を生やしたアランポーが降りてくる。

 小夜はアランポーに抗議の目を向ける。

 しかし、そんなアランポーを見て素っ頓狂な声を上げる人物がひとり。

 「猫に羽が生えて、空飛んで、喋ってる――!」

 順平があんぐりと口を開けて、驚いていた。

 ああ、もう。

 小夜はもう一度、溜息を吐いた。



 結局のところ、順平を連れて行く事になった。

 それなら別れて捜索しましょう――千鶴の提案で、小夜と順平、千鶴という組み合わせでビルの中を進む事になった。

 アランポーは、何かあった時の為に入口で待機。

 怪異が潜んでいるであろう、廃ビルは地下の駐車場も含めればばかなりの広さになるので、この方法は効率的ではあった。

 それでも――順平を連れて、少し先を進む小夜は思う。

 小夜は順平の事が気がかりだった。

 勿論、順平の事は何があっても守るつもりではいる。しかし、守りきれるとは言えない。怪異を相手にして何が起こるかは、魔女である自分でも分からないからだ。

 「聞いてもいいかしら?」

 人の営みが途絶えて、放置され、明かりが灯る事も無く静謐な月の光だけが照らす廃墟の中で小夜は――サヨ☆りんとして背を向けたまま尋ねる。

 「あなたは頼まれて失踪した人を探しに来た。けれど、考えはしなかったの?失踪した人は何か事件に巻き込まれたとは。あなたも知っている通り、今この街では怪物や怪人が出るのよ。こんな事をするのは危険だとは思わなかったの?」

 「自分なりに考えました……」

 「そう、それでも来た。ねえ、あなたにはこんな事をして心配するひとはいないの――?」

 振り返り、順平を見る。小夜なりのありったけの批難を込めて。

 少なくとも、自分は心配している。そんな想いを込めて。

 小夜の眼差しを受けた順平は答えた。

 「――今はしてくれるひとがいます。きっと、今もしてくれていると思います。、でも、俺もそのひとが心配なんです。そのひとは…あなたと同じように、自分の身を危険に晒しても、しなければいけない事を決めてしているひとだから……」

 真っ直ぐにサヨ☆りんを見つめ返してくる。

 その瞳を見て思う。


 もしかしたらサヨ☆りんが誰なのか、見透かされているのかもしれないと。


 「だとしても、そのひとは――」

 言葉を言いかけた時、気配を感じた小夜は振り返った。

 周囲を見渡す。

 正面にはいない、なら――

 ――天井を見れば、人の頭ほどの大きさがあるクモがそこにいた。

 天井からサヨ☆りんに襲い掛かるクモ。

 不可思議な刃を、何処からともなく取り出した彼女は一振りで切り払う。

 切り裂かれて地面に落ちるクモ。

 次の瞬間、その身体から紫煙が噴き出した。妙に甘い香りが一帯に広がる。

 「この煙……駄目!吸わないで!」

 口元と鼻を押さえながら、叫ぶサヨ☆りん。

 「え……」

 事態の推移を離れた所から見守っていた順平は反応が遅れた。

 広がり出した紫煙を吸い込んでしまう。

 「……っ」

 その場に倒れ込む順平。

 「大丈夫?」

 煙を避ける為に、地面を這って進んで傍に寄るサヨ☆りん。

 「くっ…はあ……」

 順平は苦しそうに身体を丸めて、辛そうに息を吐いている。

 「だめ…です……俺に近寄らないで……」

 「安心して、すぐに解毒してあげるから」

 僅かに煙を吸い込んだ彼女の見立てでは、神経に作用するものだと思った。

 自身の身体も僅かに神経が昂ぶり、痺れを覚えていた。


 ――だから勘違いをした。


 「え……」

 小夜は一瞬、自分がどうなったのか分からなかった。

 気が付けば、硬い廊下に仰向けに押し倒されていた。

 苦しげに熱い吐息を零す殻木田順平に。


また何やら怪しい展開(笑)

このままだと……。

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