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虚空の【セカイ】と魔女 外伝  作者: 白河律
魔法少女マジカルサヨ☆りん
10/20

魔法少女やらされてます!


    1


 「先輩、先輩!」

 放課後の高校の生徒会室。

 私――虚木小夜(うろきさよ)をいつものように起こす声がある。

 目を開けると、そこには後輩で一年生の殻木田順平(からきたじゅんぺい)くんの姿。

 体型は細めで身長は170未満、優しげな顔立ち。

 その頬には、そんな雰囲気にはそぐわないような傷がある。

 生徒会室の机にうつ伏せになってイスに座っていた私は、まだ重い目蓋を擦って目覚める。

 「おはよう、殻木田くん」

 「おはようございます、先輩」

 殻木田くん以外はいない生徒会室。今日の活動も既に終わったらしい。

 私はこの学校の生徒会長ではあるけど、職務にやる気が無いことで知られていた。

 自分から志願した訳じゃないし。推薦で決まっただけ。

 そんな人間に投票するような周りが悪いと言いたい。

 それでもそれなりに仕事をすべきと、言うひともいる。

 ――例えば、私を今起こした殻木田くんが、そう。

 だからこの日も大した仕事ではないけれど、何かをさせられるのかと思った。

 「今日は何をやればいいのかしら?」

 取りあえず聞いてみる事にした。

 「今日は大丈夫です」

 「そうなの?」

 予想外の答え。いつも大体、了承のハンコを書類に押す事ぐらいだけど。

 「ええ、まだ期日があるので。それに最近、なんだか先輩が疲れているように見えるんです。古谷先輩もそうですけど。〝魔女〟の活動はやっぱり大変ですか?」

 殻木田くんが私を心配そうに見る。

 「まあ、そうね」

 学校が終わった後の夜に活動している事が多いので、必然と睡眠時間が削られている。

 「なら、今日はもう終わりにしましょう!」

 そう言うと後片づけを始める。

 その合間に彼が不意にこんな事を言った。


 「そう言えば先輩――魔法少女マジカルサヨ☆りん、って知っていますか?」


 サヨ☆りん――その響きに私の背筋が震えた。

 「え、ええ知っているわ」

 「なんか先輩、目が泳いでいません?」

 「キノセイよ」

 「――そうですか。最近結構、噂になっていますよね!夜に人々を襲う怪人や怪物を倒す魔法のような、不思議な力を使う少女達が街に現れるって!」

 「ヘエ」

 「黒いドレスを着たサヨ☆りんと、赤いドレスのチズ☆るん。俺はまだ直接見た事はないんですが、ネットでは画像も上がっていて、どっちがいいかって話にもなってるみたいですよ。山岡も夢中みたいだし。俺も画像を見せて貰いました」

 「……」

 頭痛がしてきた。

 何となくこういう事にはなる――むしろこうなる事が目的ではあったけど、正直に言いたい。


 ――ヤリタクナカッタ。


 「彼女達の力が魔法なのかは分かりませんが、先輩達なら何か繋がりみたいなものがあるかと思いまして。先輩達は〝魔女〟ですし」

 「今のところは、ナイわよ」

 「そうなんですね」

 それだけ言うと殻木田くんは、片付けに集中するかのように私に背を向ける。

 ほっと、溜息を吐いた。

 こんな事はあんまり知られたくはない。他からどう見えようとも、やってる本人達からしてみれば、軽い黒歴史みたいなものだから。

 「ねえ、殻木田くんは彼女達をどう思うの?」

 なんとなく気になって聞いてみた。

 「俺ですか?何かアイドルみたいな扱いにもなってますけど、冷静に見たら少し気恥しい気もしますね……結構、肌も露出してますし。綺麗な子達だから余計に、こう」

 「やっぱり、そうよね」

 「あ、でも」

 殻木田くんがこちらを振り返る。

 「彼女みたいなひと達がいるって思うと、なんか嬉しい気持ちになります」

 「嬉しい?」

 「ええ。小さい頃に妹と見たアニメや、普段読んでいるマンガみたいなヒロインみたいな女の子達がいて、みんなを見守っていてくれて、危なくなったら助けてくれる。なんか〝夢〟みたいだなって思って」

 「〝夢〟ね」

 「彼女達も人間なら色々あると思うけど、頑張って欲しいと思います!何かできる訳じゃないけど、陰ながら応援くらいはしたいかな、と」

 「なるほど」


 六月も半ばの夕暮れの日差しの中で、彼は私を見て笑う。

 この基本的にお人好しは、まったく――


     ◇


 帰り道の途中までを殻木田くんと帰って別れた後、私は自分の家には帰らず古谷邸へと向かった。

 街外れの大きな山の麓にある古谷邸は昔の日本家屋そのままだ。

 かなり広い古谷邸の廊下を歩き、その一角にある部屋に入る。

 「おかえり、小夜!」

 「ああ。やっと帰ってきたのね、小夜。待ちくたびれたわよ、全く……」

 一匹とひとりから声を掛けられる。

 私の飼い猫で、元普通の猫だったアランポーと〝魔女〟として活動を共にするこの家の娘である――古谷千鶴(ふるたにちずる)から。

 「ただいま」

 返事を返した後、アランポーを見つめる。

 「どうかしたのかい?」

 「いや、なんというか」

 見慣れない。まずその背中には白い翼が生えているし、今は可愛らしい子どもの声で話すし。たった一週間と少し前まではニァー、としか鳴かなかった訳だし。

 そんな私を前と変わらないくりくりとした目で見て、不思議そうに首を傾げている。

 「取りあえず、話を進めたいから座りなさい」

 「ええ」

 私と同じ制服姿の千鶴に促されて、畳の上の座布団に座る。

 そうして私達と猫一匹は今回の〝刈り取り〟もとい、〝魔法少女〟としての活動について話し合った。



 どうしてこんな事になったかについて思い出す。

 それは二週間程前の事。


 「あなた達〝魔法少女〟になりなさい――」


 「「はあ?」」


 私達の〝魔女〟の活動を監督する千鶴の母親の言葉に出た、ふたりの素直な気持ちだった。

 彼女は娘と似た容姿をしていて、年頃の娘がいるとは思えない程に若々しくて美人だ。ただ普段は表情豊かな千鶴とは違い、いつも静かに笑っていていまいち何を考えているかは分からない。

 そんな千鶴の母親のいう所によればこういう事だった。

 近隣の街で〝魔法〟を使う所を見られるというミスをした魔女がいた。

 それ自体は普段、私達も無い訳では無い。

 そういう場合は記憶を消す事で対処している。


 問題は――それをかなり多くの人間に見られ、あまつさえ動画としてネットに流されてしまった事だった。


 この【セカイ】には魔法がある。

 そしてそれは、実は決して特別なものではない。

 本当は誰でも使える力だ。

 それは何故か?


 この【セカイ】が――ひとの想いだけで出来た世界だから。


 普段、私達は文明の利器――化学に頼って生活をしている。

 ガス、電気、水道、車、飛行機――挙げればキリはない。

 それは科学法則や物理法則に従っているものだ。

 それが私達の元々いた世界だとは聞かされている。


 だが、この【セカイ】は違う。

 そんな世界の終わりの後で生み出された場所。

 人々のかつて過ごした、ある時代を再現した【セカイ】

 それは人々の望んだ〝日常〟

 それを模した世界。


 つまりこの【セカイ】はみんなの見ている――幻想でしかない。


 だからこの場所において本来、化学法則や物理法則は存在しない。

 そういう〝常識〟をみんなが信じているだけ。


 そして〝魔女〟はその真理を知り、己の強い意志で世界を書き換えられる者。

 

〝常識〟から外れた者――それが魔女だった。


 そんな魔女に課せられた使命が二つある。

 ひとつ、この世界に対して不信を抱いてしまうような想い。特に強い怒りや悲しみを抱いてしまった者の記憶を消す事。何故なら、その想いを持つ者は他者も巻き込んで不幸にしてしまう可能性。あるいは、想いの強さ故に〝常識〟を無視して魔法を行使してしまう恐れがあるから。

 それが広がっていけば、世界はやがて多くの人間の怒りや悲しみで満たされるだろう。


 世界への絶望――それはみんなの意識だけの【セカイ】を終わらせてしまうだろう。


 ふたつ、ひとつ目の事と重なるが魔法の所在を知られてはいけない事。この意識だけで出来た世界では、意思だけで物事を書き換えられる。まるで魔法のよう。しかしそれは危険な事でもある。ひとは正しくその力を使えるのか、というモラルの問題があるからだ。そんな時代が来るのかもしれない。けれど、それは今じゃない。


 だから魔法を使えるという事を〝常識〟として知られるようになってはいけないのだ。


 それらが総括として――記憶を消すという事に繋がっていく。

 それを〝刈り取り〟という。


 だから今回の事態はあまりいい事ではない。

 いや、かなり不味いのだろう。

 千鶴の母親によれば、魔女と繋がりのある医療や警察の関係者によって事態は収まりつつある。

 ネットの動画も削除されている。

 しかし人々の記憶全てを消す事は難しいし、動画もどこかには拡散してしまい消去しきれない。

 このままでは魔法がある、使えるという〝認識〟が広がる可能性があった。


 ――そこで魔女達を纏める組織は考えた。


 ある程度知られてしまったならいっそ、魔法が使える特定の人物を持ちあげ、あたかもその人物だけが使える特別なものにしてしまえばいい。

 そのためには出来るだけ華やかで、イメージが良く、かつそれが正しい事に使われているものであって欲しい。


 ――それらを満たすのが〝魔法少女〟だったのである。


 事態の起きた近隣の街で比較的若く、女性同士で組んでいるのが私達だけだった事も災いした。

 これらの事から私達に、その役目が回ってきたのであった。


 大変いい迷惑だった。

 まあ、それに従って組織が手配した怪人や怪物を刈り取るだけならまだ良かった。

 あまつさえコスプレして、長い前口上を言って、ポーズを付けたり、技名を言え、なんて言うお達しまで来たからだ。

 「「――――」」

 私も千鶴も開いた口が塞がらなかった。

 それは昔、幼い頃はそういうものに憧れました。

 幼馴染で腐れ縁の千鶴と、そんな遊びをした思い出もあります。

 問題は――それを今、この歳でやることです。

 一応、拒否もしましたが、千鶴の母の静かな笑顔には勝てませんでした。

 私達はこのひとに昔から、魔女になるための手ほどきを受けてきました。

 思い出すだけで、大変な地獄の日々だったのです。

 中学になってからは特に。

 この家の裏山でナイフ一本だけで、一週間過ごす事になりました。

 それだけではなく夜には恐ろしいゾンビみたいのが放たれ、私達を追いかけ回しました。最初の三日間の夜は千鶴と抱き合いながら、震えて咽び泣いて過ごしました。

 冬の海で寒中水泳させられた事もあります。水中に落とした真珠を拾えと言われて。

 他にも沢山あります。

 とてもとてもスパルタでした。

 だから遺伝子レベルで二人とも、このひとには逆らえないのです。

 なので、今回も最後には了承しました。


 それからは早かった。

 千鶴の母が表情も変えずにノリノリで衣装を用意して、ポーズや前口上を考えて、マスコットが必要だという事で私の飼い猫に知恵と知識を与えて、話せるようにしたのだ。実際には話すというよりも、心に直接送るテレパシーみたいなものではあるけれど。

 すいません、娘共々ドン引きでした。


 こうして私達は、魔法少女になった。

 なかなか凄まじい悪夢だった。


千鶴母の特訓、それは地獄。

苛烈で半殺し上等!むしろ死ね!


……恐ろしい限りです。


他にも色々あるんですが、それはまたの機会に(笑)

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