表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空の【セカイ】と魔女 外伝  作者: 白河律
サクラキセツ
1/20

サクラキセツ

ツイッター上に発表した作品。

字数との戦い!

サクラキセツ


二月の冷たい空気に息を吐く。

白い吐息が広がる。

これは、溜息だ。

きっとまた――落ちたなと思う。

今日の面接は酷かった。

あんなの、面接じゃない。

ただの尋問だ。

こちらの痛い所ばかり突いてくる。

就活は地獄だ。


卒業までもう時間がないのに、まだ決まらない。

俺だけが。皆決まっていくのに。

無力感と虚無感が押し寄せる。

また、一年生に戻りたいとすら思う。

俺は怖い。

このまま、決まらなかったらどうなるんだろう?


考えたくない。

自分は世の中に必要とされていないじゃないかと思う。

普通にすら生きられないのか、俺は。

もしずっと、このままならどうなるんだろう?

きっと、惨めな生き方をすることになるんだろうと思う。


怖い。

夕刻の中、焦りだけが込み上げる。

時間だけが無為に過ぎていくようで。


踏切の前に立つ。

サイレンの音が鳴り響く。

その音を聞いて、思い付く。

終わらせてしまいたいと、強く。

もう、疲れたんだ。


踏切の中に入りたい衝動を覚えた時、声がした。

「なんて、面倒」

見れば、ひとりの女子高生がいた。

長い黒髪、物憂げな瞳。細く長い手足。

可愛いというより、綺麗な子。

彼女は言った。

「あなた、良くないモノに憑かれているわね」


ドキリとした。今の心境を言い当てられたみたいで。

「どうして?」

彼女に問う。

「自分の影を見てみなさい」

夕日に伸びる自分の影を見る。

そこにあったのは、自分の影ではなかった。

苦しそうに悶える――怪物の影。


悲鳴をあげる。

俺は一体どうしたんだ?

「今のあなたは不幸のようね。だからそんなモノになってしまう」

その言葉に涙がこみ上げた。

だって今、スゴク苦しんだよ。

「普段はあまり、こんな事はしないのだけど」

彼女が溜息を吐く。


彼女が空に手を伸ばす。

そこから、取り出したのは不可思議な蒼いヤイバ。死神の鎌のよう。

「あなたには、少し記憶を失ってもらうわ。怪物にならないように」

オカシイと思った。

これは俺の知っている日常では無い。

君は何者なんだ?


[私は――魔女」

彼女が答える。

怖いと思った。記憶を失うなんて。

でもその事に安堵も覚えた。

こんな辛い想いが少しでも薄れるなら、と。

彼女がヤイバを振りかぶる。

「――あなたのこれからに幸せがある事を」

ヤイバが振り下ろされる。

俺は意識を失った。


四月。何とか就職した俺は営業の仕事に追われていた。

大変だけど頑張りたい。

折角決まったのだから。

就活の時期のことはあまり覚えていない。

どうしても思い出せないのだ。

けれど、その事に怖さはない。

あれは辛いだけだったから。

街を歩いていると、ある少女とすれ違う。


その少女を俺は知っている気がした。

失くした記憶の中にいた気がした。

声を掛けようとした。けれど止めた。

少女は頬に傷のある少年と一緒に歩いていた。

その浮かべる頬笑みは柔らかい。


忘れた記憶の中の少女とは、少し印象が違っている気がした。

記憶の中ではもっと張りつめていたように思える。

もしかしたら、一緒に歩く少年に恋をしているのかもしれない。

それでいいんだと思う。

互いに幸せなら。


サクラ色の季節の中。

俺達は出会うこともなく過ぎ去る。



140字で一話な話。

制約の多い状態ですが、こんなのも訓練だと思い挑戦。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ