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かろてん。 - 過労死して異世界に転生したら魔族のお姫様になっていた。  作者: 瑠璃色はがね
第I部 - 第1章:王女バレンタイン
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#0007_数の概念と数字の概念_02

 はっきり言おう。

 正直「やっちまった」感200%である。


 王の書斎に突撃しての第一声が「世界には足りてない言葉があります」とか言い出す4歳児。

 まずこの時点で言葉が足りてねぇのはお前だと言われても仕方がない。


 だが愛娘の言葉だからか、戸惑いながらも続きを促してくれた両親には感謝したい。俺ならドン引きしてる。

 続けて淡々とはじまる「帳簿の読みづらさ」と「数という概念」がありながらそれを示す為の機能が存在しない事への不満抗議。

 もうこの辺りでそこらの人なら追い出されるか牢屋に入れられてしまいそうなものだ。


 しかしここまで来たなら今更引けぬと、続けざまに提示するは「アラビア数字」に「ゼロの概念」の説明。

 無い物を無いのだと示す文字が必要、とか言い出す4歳児の異様さったらありゃしないのなんの。

 今思い出しても「子供らしさをもっと大事に!」って自分に言いたくなってしまう。

 挙句には勝手に持ち出していた過去の帳簿を「複式簿記」として羊皮紙に記述したサンプルの提出。


 もうね、なんだこの小娘頭おかしいんじゃねぇの?って思うよ普通。

 この世界の時代背景的に、下手したら悪魔付きとかいって隔離されてもおかしくないクレイジーなプレゼンをかましたわけだ。


「あぁ……やっちまったかなぁ……」


 盛大にやらかしたのが昨日の話。

 現在は、戸惑いながらも俺からの話を聞いた上で簿記帳簿も受け取り「明日改めて話を聞いてもいいかな?お仕事あるからね?」とやさしく自室に追い返されてからずっと1日「失敗した失敗した失敗した」とベッドで悶絶している最中なのである。


 ぶっちゃけ今日呼び出されるとしたら「頭大丈夫かお前」という問答があるに違いない。

 異世界生活4年目にして、自業自得の大ピンチが到来している。

 いっその事昨日のは変な夢を見た気の迷いだとでも言った方がいいのだろうか。

 ……いやだめだ、それこそマジで悪魔付き扱いされかねない。

 ここまできたら、腹をくくってアラビア数字を押し通すくらいの天才キャラでいく覚悟をしたほうがいいだろう。

 「天才」なんていう看板背負わされるのは御免蒙りたいものだが、俺の失敗の代償がそれならば、今生ではそれこそが背負うべきカルマなのかもしれない。


 期待が大きいほど、失敗した時にガッカリされる規模も大きくなるからなぁ……


 考えても仕方のない事に尚も悶絶していると、トントンと自室のドアがノックされる。


「姫様、陛下がお呼びでございます」


 あぁ……審判の時がやってきた。




**********************************





「…………えっと、皆々様お揃いで」


 爺やに連れられてやってきたのは、お城にある大会議室。

 大きなテーブルを多人数で囲いながら、街の構造や戦術などを考えたりする場所としても使われる。

 いうなれば作戦本部、参謀会議室みたいな場所である。


「バレンタイン、そこに座って昨日の続きを聞かせてもらえるかしら?」


 そう母上に促されたのは、国王と女王が座る席の対面、つまりこの会議室の下座である。

 この位置は、職人や貴族が王に何かを依頼したり提案したりする時に座る場所。

 いつもみたく両親どちらかの膝の上に座って愛嬌を振りまいていい場面ではないのだと、場の空気が告げている。

 なるほど。俺は今からその場所に立ってこの国のトップを説得しなければならないという事か。


 だが―――それならここは「俺の戦場」だ。


 一礼をして言われた席に腰をかけると、右隣の席には爺やが、左隣の席には側近の双子のメイドさんが腰をかけた。

 馴染みのある人に挟まれるだけで、少し心が軽くなるものだなぁ・・・この気持ちは覚えておこう。


 改めて会議室を見渡すと、そこには国の重鎮が勢揃いしていた。

 といっても俺を入れて10人だ。


 国王、女王、そしてそんなんマジでいるのか!と思った四天王なる4名のお偉いさん。

 まぁいわゆる文部大臣とか外交官とかの名称が四天王というだけだと思ってもらえればいいかな。

 そして爺やに、側近二人。

 なーに、この人数ならまだ萎縮するというほどでもない。

 俺はペチペチと軽く頬を叩くと、父上母上を中心とした全員に言葉を伝える様、説明を始めた。


「まずは、ゼロ、という言葉の私の考えをお聞きください」


 ―――そこからはまぁ、先日両親に対してやらかしたプレゼンの、ゆっくりじっくりバージョンを展開。

 約1時間に渡る問答を経て、ひとまず小休憩を挟もうという事になった。

 時計があるわけじゃないので、あくまでも体感だけどね。


「つ……つかれた……」


「姫様、だらしがないですぞ」


 髪や服が乱れるのも構わず椅子の背にだらりと背中を預けた俺に、横で紅茶を注ぐ爺やが小声で注意を促してくる。

 だがもう、そんなお小言に従える気力も残っていないのが正直なところだ。


「だって、ここまで大事になるとは思っていなかったのだもの」


「それだけ衝撃的なお話だったという事でございますよ。正直私も驚いておりますからな」


 そう。俺のプレゼンは結果だけいえば大成功した。

 会議室内では皆が一様に「あーでもない、だがこーではある」とお茶を片手に書類と睨めっこしている。

 既にこの部屋に「アラビア数字」の意味を疑っている人は居ないだろう。

 だがそれ故に、俺は文字通り「質問の波」に晒される事になったのだ。

 考えの発端、基本的な活用、応用として結局「小数点以下」や「3桁区切りのカンマ打ち」に「和差積商と九九」など自分に思いつく範囲の「数字」のあらゆる事を話す羽目になった。

 この出来事でどれだけこの世界に数字が普及するかは分からないが、少なくとも悪魔付きのヤバい子供、というのだけは回避できたと思う。

 その代わり、確実に「天才」という迷惑気まわりないレッテルを背負う事にはなっただろうが……


「私はこの「九九」という計算思考に感動しましたぞ。これまで無意識にやっていた事が言語化されて妙に晴れやかな気分でございます」


「そう言って貰えるとこの疲労にも甲斐はありましたね……あ、爺やお砂糖は無しでお願い。その分ケーキいっぱい食べたいです」


「ケーキはお一つまでです」


「えー」


 いいじゃん頑張ったんだから2個くらい食わせてよ!

 新言語を持ち込んでプレゼン成功させたんだから、せめて御褒美にケーキをよこせ!


「じゃあ姫様、私の分のケーキ食べますか?」


「いいの!やったー!」


「姫様、食べても宜しいですが、明日の稽古は倍になりますぞ」


「ぐっぬっ……」


 メイド達が差し出してくれたケーキに伸ばしかけた手が止まる。

 ただでさえキツい爺やの稽古が倍になるのは、さすがにケーキ一つじゃ割に合わない。


 先程までとは打って変わった可愛らしいやり取りの後、更に1時間ほどの会議を経てこの日はお開きとなった。


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