#0004_そして異世界へ_03
さて、こうして提示された4つの転生プラン。
天使さんの説明を聞くところによると、①がベターな気もする。
悪くても、犬か猫であれば一度はなってみたい生き物だ。
そういう一生を味わってみるのもいいのかもしれない。
でも飼い猫ならまだしも、野良猫に転生。
しかも劣悪な環境の野良で生後1日で死す……とかもあるわけだよなぁ。
モフい生き物になる憧れはあるけど、賭けの要素が強い。
②はお断りだ。
確かに前の人生は色々な事を諦めてきた部分があるけれど、良い人生送りなおせるかもしれないならその選択肢をとらないのは愚作。
よって消滅は却下。
そこまで俺は俺の魂に絶望してるわけじゃない。
③の地獄巡りだが、これも却下だ。
何が悲しくて生前地獄を味わった俺があの世に来てまで1年も地獄を味あわないといけないのか?
正直少々の拷問なら耐えれる自信あるけど、話を聞くと「ダサいニックネームで呼び合いながら毎週金曜日に必ず飲み会をするウェイ系大学サークル1年目の刑」とか「新卒で入った会社の隣の席の新人が、ずっと謎の小言を言い続けているのに1年間耐え続ける上に教育係をさせられる刑」があるらしい。
なんだよその人のメンタルに向けて攻め立ててくる地獄!
近代化にしても、もうちょっと何かあるだろ!
血の池地獄とか針の山とかメジャーな地獄のイメージは何処にやった!?
「他には、1年間ゲイであることを隠し続けているルームメイトから貞操を守リ続ける離島の全寮制の男子高校生活地獄、とかもありますよ」
と、ちょっと所ではない別案が天使さんから提示されたが、勿論それも却下だ。
地獄が半端にリアリティ溢れててマジで地獄だわ!
そんなわけでこのプランも無し。
で、残ったのが④なわけだが……
異世界転生、ねぇ。
昨今は多様なエンタメ作品で目にするから、正直憧れが無いわけではない。
剣と魔法の世界だぜ?
ドラゴンとかいるんだぜ?
エルフとかいるんだぜ?
ドワーフとかも多分いるんだぜ?
実際かなり興味はある。
だが「異世界のバッタ」に転生してみろよ。
悔やんでも悔やみきれないだろう。
仮にそうなったとして、俺が仮面バッターにまで進化してやっていけるかも不明。
やはりこれも、無しだ。
となると、現実的なのはプラン①の……
~~♪~~♪
唐突に。どこからか音楽らしき物が聞こえてくる。
いや。らしきではなく音楽だ。
しかもこれ賛美歌?
何? あの世だから賛美歌なのか?
それにしては音質が何ていうか低ビットレートのMP3感ある。
あの世に来て、こんな音の薄い賛美歌メロディ耳にする事になるとは……
「すいません上司から電話です。少々お待ちを」
謎の賛美歌に俺がきょろきょろしてると、天使さんはそんな事を言い始める。
ちょっとまて。今、胸の谷間から取り出したのそれ、スマホですか?
何? この天国はスマホも流通してんの?
そもそも回線どうなってんの?
キャリアどこよ?
しかもそれ「某リンゴマーク」のスマホじゃねぇか。
よく見たらさっきのタブレットも林檎製じゃねぇか。
更に言えば、何気に先々月に出た最新機種じゃねぇか!
あの世がいくらシステム化進んでるからってミーハーすぎねぇ!?
ところで、さきほど胸の谷間からそれ取り出しましたよね?
色々言ってた割に、アンタわざとやってない?
「はい、ええ。あ!そうかそうでした……はい、そのように。はい。失礼致します……怒られました」
そう言って、スマホをまた胸の谷間にしまう天使さん。
どうやら何か失敗をしてしまったらしく、こちらの声は聞こえていない様だ。
天使さんはため息をつきながら、俺の方へと向き直った。
「申し訳ありませんヒラサカさん、一つ特殊事項があるのを失念しておりました」
そう言って、深々と頭を下げる天使さん。
だからそのポーズをすると谷間がですね、いやなんでもないです続けて下さい。
特殊事項?
「ええ、昨今の日本では少なくない例として「過労死」の場合は、もう少し選択肢が広がるのです」
「ほう……詳しく」
まさかの過労死ボーナス発生である。
これはマジでチート能力を得て仮面バッターへの可能性が広がったか!?
今更だが、俺の死因は一応過労死になっていたんだな。
倒れるついでにクソ上司の顔面に頭突きかましたのが死因だと思っていた。
「簡単に言いますと、各種転生に「特典」がつきます」
特典、と天使さんはそう言った。
詳細はこうだ。
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プラン①(日本転生)
特典つきの場合、転生を人間に固定できる。
ただしどういった家庭に生まれるかは選べない。
プラン④(異世界転生)
特典つきの場合「だれかを確実に殺す立場」
もしくは「誰かに確実に殺される立場」限定で
人間「種」を選ぶ事が出来る。
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という事らしい。
ココで一つ。特典つきになった事で変化したプラン④の異世界転生。
その中でちょっと気になった部分があるので質問してみよう。
「えっと。人間「種」ってのは、どういう括りなんですか?」
彼女は今、人間、ではなく「人間種」と言った。
それは多分「人型」という部分にのみ限定された言葉なのではないだろうか?
異世界ファンタジーなら、人型は結構色んな種族が居る。
そのどれか? という事なのだろうか。
「はい、ヒラサカさんのご想像の通り。人間種という「人型」の「何らかの種族」に転生が可能です」
それはつまり、バッタは確実に回避できるってことですか!?
頑張って仮面バッターを目指さなくて済む!?
「そうなります。ただ、人なのか、魔人なのか、エルフなのか、ドワーフなのか。亜人も魔族も含みますのでリザードマンやサイクロプスなどの可能性もあります。どの人型に生まれ変われるかは分かりません。加えて言うなら「殺す立場」か「殺される立場」という、ちょっとした「運命の縛り」も追加されます」
プラン①ならどんな環境か分からないが、とりあえず日本人として転生する事はできるらしい。
だが、プラン④でも少なくとも人型の種族になれるというのであれば、これはチャンスなのではないか!?
だってお前、異世界だぜ?
ファンタジーだぜ?
超楽しそうじゃん!?
リザードマンでもバッタよりは全然ありだ!
うむ、ここまでくると、もう俺の腹は決っていた。
「じゃ、異世界行きましょうか」
もう迷う素振りなんて見せない。迷うもんかよ。
ほら、天使さんが使ってるスマホ作った人も言ってたよ。
時間は限られている。
ドグマにとらわれるな。
他人の考えた結果で生きるな。
ってね。
誰かに使われ続けて死んだ人生だった。
誰かに従い続けて死んだ人生だった。
多分俺の人生には、あまり大きな意味を残せなかったと思う。
あぁ。そうか。
ずっと何か引っかかってたのはこれだ。
システム屋という「もの作り」をしていたはずなのに、俺は何が作れたのか、何が残せたのか分からないまま死んだ。
明確に何かの成果を「形」として残したかったのだと思う。
それこそが多分、俺の心残り。
でも今度は、誰の命令でも誰の指示でもなく。
俺の意思で行くぜ! 異世界!
「わかりました。では、運命の縛りを選んでいただけますか?」
それだよなぁ。
殺す立場か、殺される立場かぁ。
うーん、異世界に行って誰かに速攻殺されましたハイ終了~ってのは辛いし、だったら殺す立場の方が長い間異世界を楽しめるのだろうか。
平和な日本で普通に暮らしていた俺は、殺しなんて当然した事がないから全くその実感もないんだけど、そういう倫理観は転生したら変わるものなのかな?
「そうですね。転生後にヒラサカさんとしての記憶は残りません。なのでその辺りはご心配されなくても良いかと。生まれ変わって新生児からやり直しますので、あちらの世界の倫理観は自然と備わっていく事でしょう」
ああ、やっぱ前世の記憶は消えるのね。
ちょっと知識チートとかありかな? って思ってたけど、でも倫理観の問題や自己の確立の問題を考えたら、ばっさり消して貰った方が悩みもなくてよさそうだ。
だったらココであれこれ悩むよりも、長く生きていけそうな方を選ぶのがいいのかな。
なるほどねぇ。
OKOK。オーキドーキー。腹はくくった。
これ以上ここで悩んで天使さんに無駄な時間を使わせても申し訳ない。
俺はパンッと手を叩いて、天使さんに答えを告げた。
「では「誰かに殺される運命」でお願いします」
ブラック企業に。
過酷な労働環境に。
汚職だらけの社会に殺された俺だけれども。
それでも誰かを殺して生きる人生より。
やっぱり誰かに殺される人生の方が、マシだと思ったんだよ。
どうせ異世界に転生するんだ。
最初の選択肢くらい、カッコつけたっていいだろ?
男の子なんだから。
あんだよ、意地とかそういうのが。
こうして、異世界の「何らかの人間種」に転生する事を選んだ
俺こと『比良坂 泉』は―――