港のトーリィ
「好きな人がいるんです」
え?急に何を言ってるの。
僕は戸惑った。
しかし、表情には出さず、優しく微笑んだままのつもり。
「お話をしたこともないんだけど、好きなんだなって思ったの」
え?話したこともない?なんだよそれは。
「いつか告白したいと思うから、もう・・・」
何だかわからないが、とりあえず僕はフラれる流れのようだ。
「僕のことは好きじゃなくなったの?」
若干情けないセリフのようだが確認しておきたい。
「好きだけど、その人の方が気になるの」
ごめんなさい、じゃあさよなら。
鼻先がグレーの彼女は、あっさりと僕の前から弾むような四脚で去って行った。
僕はさび柄猫のトーリィ、2歳。
たった今、シャム猫の彼女にフラれたところ。
気になるやつがどんな猫なのか気になるけど、めちゃめちゃ尻尾引かれまくるけど、去る猫は追わないのさ。
それがクールな猫ってやつだろう?
でも本当は、僕らも結構凹んだりするのさ。
そんな時、僕はいつも通りパトロールをした後に、念入りに毛づくろいをするようにしている。
『綺麗にしていないと強さも保てないからね』
それは、昔ボスだったと言っていた、通りすがりの水玉のメス猫から聞いた話。
今はさすらいの老猫だ。
さて、そろそろお昼時、パトロールをしたらお気に入りの昼寝ポイントに行こう。
今日もお日様はこの町の隅々にまで暑さを届けている。
僕は港のオープンカフェでお水をもらって、涼しいベンチでいい夢を見るのさ。
新しい彼女の夢をね。
end