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死神七つ兵器は万能なんです


 ドジな死神のせいで一度は裕也を見失いはしたが、校舎の構造を熟知している郁斗は一人先回りすることに成功した。


「ふふん、逃がしはしないぜ。貴方は私のものよ、うふ」


 階段を駆け下りてきた裕也が、郁斗の姿を見つけて慌てて踵を返す。ところが、回れ右をしたその先に単独で追っていたエナが現れて裕也は戸惑った。


 逃れようのない挟み撃ちの状況を演出した策士の郁斗は、戦国武将さながらに命令を下した。


「首級を挙げろ、エナちゃん! 褒美は大根の葉っぱだ!」

「どうせなら実のほうをくださいです! 冗談はともかく、任せてください、です!」 


 力強く返事をしたエナだったが――返事をした直後に、なぜかキョロキョロしだした。


「どうした! 葉っぱが不満で渋って報酬を吊り上げようとしているなら、仕方ない、大奮発してガンプラのビームサーベルをあげよう! 特別だぞ☆ だから逃げられないうちに、目に余る惨劇を繰り広げて!」


 焦りの滲んだ郁斗の声に、キョロキョロするのを止めたエナが泣きそうな声で訴えてきた。


「あぅー……どこかに死神の鎌を忘れてきちゃいましたです……」

 その手には、ずっと握られていた大鎌が、確かになかった。


 そういえば……と思い出せば、郁斗に向けて放り投げた後、壁に刺さった大鎌を回収もせずに裕也を追っていた。


「……今日も良く晴れてるな。こんな日には屋上で昼寝でもしたいもんだ。何もかも忘れて、屋上行こっかなー」


 現実逃避し始めた郁斗の横を、すり抜けるようにして裕也は駆け抜けていった。





 こほん、と郁斗は咳払いを一つした。


「さて、面倒なことに霊が見えちゃう相手が抹殺対象という新事実がこの度発覚しました。こうなると、こっそりと忍び寄って本人も気付かぬうちに肉体と魂の繋ぎ目を断つという、見えないからこそ可能な最も成功しやすい手法を封じられたことになります。如何にすればこの強敵を屠れるか……その策を練るためにこうして対策本部を設置したわけで、死神界の権威、文仰大学助教授、エナ先生にお越しいただきました。先生いかがでしょう?」


「三文芝居する必要も無く、聞かれれば答えるですよ。んとんと、天界には死神が見えちゃう人に対する対策として、魂の回収に役立つ道具が支給されるですから心配ご無用です! その名も、完全抹殺七つ兵器です!」


「……ずいぶん物々しいネーミングだな。魂の回収が目的なのに、完全抹殺してどうするんだ」


 そんな突っ込みをエナは聞いていなかった。


「えとえと、死神の大鎌と死者の書でまずは二つですよね?」

「あれが兵器だとは知らなかったよ、お兄さん」

「兵器なんです! それでですね、三つめはこれです!」


 じゃじゃーん! とばかりにエプロンドレスのポケットから取り出したのは絆創膏にしか見えない代物だった。


「どっからどう見ても絆創膏だな。それをどうするんだ? 完全抹殺兵器の真価を見せよ!」


 物々しい名前がつくからには、ちょっとした切り傷や擦り傷に貼る以外の用途があるのだろうと期待している郁斗の目の前で、死神少女は階段落ちで擦り剥いたらしい膝に完全抹殺七つ兵器の一つをぺたりと貼った。


「これでよし、っとです♪」

「……」


 突っ込みべきかどうかを迷いに迷ってから、黙っていては埒が明かないと判断して少年は突っ込んだ。


「……あの、エナさん? 自分には怪我の応急手当をしたようにしか見えないんですけれども……?」

「はいです♪ 傷口が化膿しないようにしないと、ですから」

「ごめん、期待した俺が馬鹿だったようだ……」





「四つ目は、これです♪」

「…………」


 ばばん、と効果音が付きそうな勢いで出されたそれに、郁斗は沈黙を投げかけた。


【ねこの十二星座占い】というタイトルが付いた、その本に。


「猫のイラストがとっても可愛い十二星座占いの本ですか。これまたしょぼそうな兵器が出てきたな。完全抹殺七つ兵器いうからには、ただ単に持ってきたというのはありえない話だと俺は思ってるよ、エナちゃん」


 それ以上、郁斗に語るべきことはなかった。無言の沈黙で圧力を掛ける。


 開いた本に視線を落として目を反らしたエナは、そこに書いてある一文を読み上げた。


「……んとんと、今日のしし座の運勢は、エキセントリックな出来事がたくさん起こるでしょう、です。ラッキーカラーはピンク。注意深く行動するが吉、だそうです!」


「ほぅ。まったくもって興味深い占い結果だったね。んで、だから?」


 少年は冷めた眼差しを送った。


「…………えへ♪」


「こいつ、可愛く笑って誤魔化しやがった……」






「五つ目は、これです! でも、このままじゃ使えないのでちょっと待って下さいです」


 取り出したるは、一見してバナナのような物。


「エナちゃんのことだから、それがバナナ以上の物でも以下の物でもないんだろうな、うん。てか、ふつーに食べ始めてるし」


 おもむろに皮をむき出した死神少女は、嬉しそうな表情でバナナを口に持っていった。


「……まさかとは思うけど、おやつの時間です! とか言わないよな?」


「違いまふよー。郁斗しゃんも、ひゃべますですか?」


「口に食べ物が入ったまま喋っちゃ駄目だって教わらなかった? 噛み砕かれた食べ物は見た目きちゃないんだぞ。んで、大体察しは付くけど、実を食べ終えたバナナの皮は何に使うわけ?」


 郁斗が聞くと、しっかりと咀嚼(そしゃく)して飲み込んでから、エナは一言、


「わなです!」

「問答無用で却下っ!」


 自分自身それを踏んで滑って転んだせいで死んだ郁斗は、全力で却下した。


「確かに兵器だよ、それは……」


「むぅ……せっかく真面目に用意した、わなだったのに、です」


「はい、過去を振り返らない。無くしたものは取り戻せないんだよエナちゃん。忘れたい過去はすぐさま削除するべし。次行ってみよう!」


 口を尖がらしたエナは、何を思ったのか眼鏡をすちゃり、と外してエプロンドレスのポケットにしまった。幼い顔立ちが顕わになる。


「六つ目はこれです!」


 代わりに取り出したのは、眼鏡に鼻と髭がくっ付いた代物。パーティ用の小道具であることは一目瞭然だった。


 郁斗には、それが何の為の物なのか、すでに想像がついた。


「へんそ――」

「却下だっ!」


 説明しようとした少女の言葉をぶった切って、郁斗は迅速に却下した。


「変装なら変装で、もっと目立たない物を選ぼうぜ、エナちゃん」


 溜息しか出てこない展開だった。

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