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失敗が成功の元だと思ったら大間違いです


 木崎裕也の居場所なら、郁斗が知っていた。


 玲奈のセーラー服を着込んで校内をうろついていたところを制服の持ち主に見つかって学校を抜け出したが、時間帯的にはようやく放課後を迎える頃合であり、優等生然とした生徒会長様がまだ学校にいるだろうことは疑いようもない。


「エナちゃんの会社では、メイド以外にコスプレサービスとかってしてないのか? 吸血鬼コスプレとか、お茶組係の元気印OLコスプレとか」

 学校に向かう道すがら、緊張感の欠片もなく郁斗は話しかけた。


「何でよりにもよって、吸血鬼みたいなマイナー所を突くです! OLさんのほうは、コスプレってより役柄です!」

「今の時代、需要に合わせて供給するだけじゃ商売は成り立たないのさ。想像もつかない供給によって消費者の新たな需要を開拓しなくちゃ」

「ほぇー。メモメモです! 何かよくわかんないですけど、社長に言ってみますです!」

「あ、いや今のはもっともらしく正当化しただけで明らかに需要がないと思われるので真に受けないで……」


 郁斗は慌てて訂正するが、エナはまったく聞いてなかった。


「いたです、裕也さん!!」

 近道として公園を横切っていたその途中、死神少女はそんな声をあげた。


 ん? っと郁斗が思った時には、すでに前方を歩く男性に向かってエナは走り出していた。郁斗にはそれが裕也でないことが遠目でも判断ついた。


 そもそも学校にいるはずに裕也がここにいるはずもない。何を根拠として裕也と判断したのかわからないが、ドジな人間の思い込みの激しさはよくわかった。


「いいスタートダッシュだと言いたいところだが、それはフライングだ!」

 出遅れたおかげでエナと距離がだいぶ開いた。


 間に合うかどうかは微妙だったが、郁斗は全力で走ってエナを追う。

 公園の端、下り階段のある場所で追い付いた頃には、今しもエナは見知らぬ人影に死神の大鎌を振りかぶって切り掛かろうとしているとこだった。


「馬鹿、そいつは木崎じゃない!」

「死ねですっ!」


 呼び止めた声は完璧に無視され、死神少女は悪役寄りの決め台詞を吐いて行動を実行した。

 振り下ろされた大鎌に切りつけられた途端、階段を下りようとしていたその人は、階段を見事に踏み外して真っ逆さまに転げ落ちた。


「うわ、前回転ですか、痛そう! アクション俳優も顔負けだ! サインください!」

「ちぇっ、です! 今の手応えは繋ぎ目を断ち切れていない手応えです!」


 いまだ人違いに気付いていない死神少女は躊躇なく階段を飛び降りた。


「とうっ!」

「俺も、とうっ!」


 走る勢いに任せて郁斗も階段下に向けて大きくジャンプした。

 七、八段程度の階段を一気に飛び越えてすちゃっ、と見事な着地を決める。死人だからこそ出来る荒業だった。


 そして郁斗の目の前には、倒れこむ人影と大鎌を大上段に振りかぶってるエナの後ろ姿。人の苦労などまるで知らず、少女はどこか生き生きとしていた。


「止めです♪」

「ストップ! てか、嬉しそうに止めとか言うな。どこの殺人鬼だ、お前は」


 郁斗はエナの尻尾のようなポニーテールをぐいっ、と強めに引っ張った。


「はぅ!」

 後ろ髪を引かれ、エナは仰け反った。一撃必殺、それだけで殺戮は回避できた。


「な、何するんですか? せっかく、もう少しで止めがさせるのに、です!」

 鞭打ち患者の如く首裏を手でさすりながら、エナは文句を口にした。


「うむ。止めを刺すのはいつでも出来るさ。まずは深呼吸をしてこの抜けるような青空を仰ぎ見て気を落ち着かせようじゃないか」

 そう言って郁斗はエナの尻尾を引っ張って無理やり空を見させた。生憎と、空は曇天ではあったが。


「痛いですから髪の毛を引っ張るのやめてださいです! 自分で空を見れますです!」

「よし、それならば思う存分、自分の意思で見るがいい」


 拘束を解かれたエナは口の中で文句を言いながら、素直に深呼吸しながら空を眺めた。


「気分は落ち着いたか? ならば、今度は足元に転がる人間をよーく見みるがいい。そこに厳然として存在する大いなる間違いに気付くはずだ!」

「間違いですか?」


 小首を傾げながらも、エナは足元に視線を落とした。倒れる男の人の顔を覗き込んだ途端、その動きがぴたりと止まる。


 一分ほど経った頃、ぎぎぎ、と擬音が付きそうなゆっくりとした動作で、ドジっ子少女は顔を郁斗に向けた。


「あぅー……間違えたです……」

 涙目が助けを求めてた。


「間違いは誰にでもあるさ。俺も自販機の硬貨投入口に五百円札を入れようと必死になったこともあったぜ」

「エナは本を見て料理する時に塩とシソを入れ間違えたです! 『しお』と『しそ』、似てるから読み間違えました!」


「分量をどうしたのか気になるな。シソ小さじ一杯ってどうやるんだか。まぁいい、幸いにも魂の繋ぎ目とやらを断つ前で止められたから、今回はよしとしよう。大怪我を負わせてしまって申し訳ないが、この人間は放置プレイの方向で俺達は学校へ向かおう!」


「次こそは間違えないです!」

 無残にも、見ず知らずの男は放置プレイに処された。

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