美化二割増しが死神業務お手伝いの給与です
生き返す代わりに、死神の仕事を手伝えと言われて、郁斗は渋る様子を見せながら唸った。
「死神の仕事を手伝うってことはあれだよな、つまりは人を殺めるわけだ。人間社会の法は適用されないだろうから殺人罪云々を問われるわけではないだろうが、道徳的にはそうも行かないのが問題だ。こればっかりは如何ともし難い」
「仕事が上手く行ったあかつきには、お米券プレゼントさせてもらいますです!」
「殺人という重すぎる罪過を背負った代償がお米券かよ!? 新聞の勧誘レベルの特典だな!」
「んじゃ、便秘に悩まされない体質にするです!」
「まぢか! それはとってもお得感漂う特典だが、残念ながら元々便秘に悩まされたことがないから無意味だぜ!」
「耳が動かせる体質ならどうです!」
「微妙ッ!! でも、ピアスに鈴つけて鳴らしてみたいかもしれない。自己満足の後に漂う虚しさが味わい放題だな!」
「ならば仕方ないです! 禁に抵触するですけど、生き返る際に一割増し美化しますです!」
「安い! いや、安いかどうかは知らないけど。三割増しを要求する!」
「むむ! 犯人の要求に屈するわけには行かないですが、やむを得ませんです! 二割り増しでどうでしょう!? これ以上はびた一文まけられません!」
「ふむ。そこら辺で手を打つとしとくか。その代わり、仮に仕事を上手く成功できなくても責任を持って俺をちゃんと二割り増し美化で生き返らせろよ?」
「はいです! 美化だけじゃなくて、猫耳やらしっぽやらも付けさせていただきます! もちろん無償ですとも、ええ!」
「余計なオプション付けるな。よし、約束破ったら『釣り針』千本飲ませるからな」
「返しの部分が引っかかって取りたくても取れなくなりそうです……」
「それが嫌なら約束を破らないこった」
真剣みに欠ける会話の応酬の結果、お手伝いすることに決まったようだった。
「んで、死神の手伝いって何をすればいいんだ? 女性に幻想を抱きがちな青少年に真実の姿を教えて女性恐怖症にさせるか?」
肝心な部分を郁斗は聞く。
「余計なことはしないでくださいです。私がドジしないように見張ってるだけでいいです!」
「むぅ、それだけでいいのか。自転車のサドルを盗むぐらいならお茶の子さいさいだぞ」
「それが余計なんです! ともかくです、今回は木崎裕也さんて方の魂を回収するのが私の仕事です!」
「木崎裕也ねー。まぁ、そいつに関しては知らない相手でもないし、手伝えることならありそうだな」
「え、知り合いなんです?」
可愛らしい仕草で小首を傾げてエナは聞いた。
「俺のガッコのサッカー部のエースにして生徒会長様だな。同じ学年でもあるから何度が会話したことがあるけど、所詮は顔見知り程度でほとんど面識はないぞ。三年後くらいに同窓会やれば、お互いに名前がわからなくて、だけど聞けなくて、相手の名前を呼ばずに不自然な会話をしちゃう程度の距離感だな」
「微妙な仲ですけど、それでも頼もしいです! サドル盗む時にしか役に立たない人なんだと思ってましたけど、見直しましたです!」
「……さらっとひどいこと言うのね、エナちゃんってば。膝抱えて座りながら地面に『の』の字を書いていじけるぞ。真っ暗な部屋の隅っこで体育座りして一夜を過ごすぞ」
「冗談です! 頼もしい助っ人を得て、豪華客船にでも乗った気分です!」
「氷山には十分気を付けるとしよう」
「バナナの皮にもです!」
「……」
郁斗は地面に『の』の字を書いていじけた。
「どうかしたです?」
「いいもんいいもん……。成人式でくしゃみして世間を騒がせてやるから……」
完全に拗ねた郁斗を立ち直らせるには時間がかかりそうだった。