Code.0001 すべてのはじまり
人々はかつて宇宙を彷徨う夢を見た。
惑星の発見より淡い期待を募らせ、いつかはもっと別の場所へと住んでみたい。今ある有限の領地を無限へと広げるため、探検を続け夢を現実へと変えたい。
しかしそれは容易な事ではなかった。
この地球が偶然によってでしか生まれなかった事を知り嘆いた。だがそれでも人々は願いを囁く事を止めなかった。
むしろ一層その謎を解明したくてなのか。その可能性に莫大な時間と資金を投資するようになった。そしてそれはある宇宙船が月面着陸した時、いやもっとそれ以前より計画は始まっていた。
「国」という存在はそこにあるからこそ、生き、存在する。
人が生きる為に必要なのは財力と戦闘力、豊富な大地。他に食糧と食うか食われるかの人間同士の無限連立していく関係性だ。ただそれはあくまでも支配するかされるかにフォーカスされ、いつぞやまで存在した君主と奴隷の関係性は誰もが否定する。
それでも相も変わらず国はまとまる事なく、肌の色や思想に根深い対立心を燃やし衝突が消える事などなかった。
時として自国の都合のいいように他国の力や財力を我がものにせんと対立と吸収、分裂を繰り返す。そしてそのサイクルの根底には必ずと言っていいほど世界の統一という理想が俄に肩を寄せる。
人は愚かなるもの。戦いも争いも消える事はない。
癒える事ない傷を背負ったまま更なる刺激を追い求め望むべきでない人々の苦しむ姿を望んだ。
だが間違いなく苦しむことは幾多の実験でわかりきっていたことなのだ。その微妙な付いたり離れたりを繰り返す事によって科学と医学は並び立ち発展していく。
そのためには多くの犠牲を払う。
苦痛と犠牲を伴う。
世の矛盾はまだまだ続く。
けれども止めたいという希望と止められないという衝動は永遠に結ばれる事はない。
もしかするとすでに人の進むべき道は顔さえ知らぬ、存在や形ない神によってすでに決められていたものなのかもしれない。それでも物ある限り人は考える事をやめない。
そしてできぬと夢ばかり見ていたものでもいつかは長い時を越えて存在するようになり、やがて当たり前の万物となっていってしまう。
げに恐ろしきものは当然という思想なり。
それでも人は毎日、その当然を背負いながら生きている。
愚かさを繰り返していく。
そうして何かを信じるようにすがるように生きていくのだ。
今日も、明日も、その先の見果てぬ未来も……。
宇宙は変遷していく。
ゆっくりとながら虚ろな滅亡へと進んでいく。
人はその進化と衰退を受け入れざるを得ない。
自然の成り行きを味方にしようとする。あたかもそこにあった一ピースのように切り札とされていたカードも一つの実験として簡単に切れる。
切ってしまえるのだ。
一つ核を手に入れてもまだ何かを求めていく。
大量殺戮の道具にしか過ぎないのをわかっていても、だ。
果たしてそのような愚かな民族が倫理に背いてまで宇宙など手に入れる事などできようものか。その意見に対し誰も絶対的な反論は唱えられない。むしろ素晴らしき明るい可能性として捕らえられていく。
その裏側ではどのようなリスクや可能性があるのかさえ知らず。
宇宙には長く静かな時がある。青い星もよく見える。
取り巻く白い大気も見ようとすれば見える。
でも時の音はチクタクと単一でセピアがかったようにしか聞こえず、浮遊する泡はただそこにしか存在しないもののような気しかしない。
時とは大きな空洞を流れる虚ろな風のようなものにも見えた。
しかし一つの機体に乗り込んだとある人間は地上に降りるなり、時とはひどく強く衝動的な重力のようなもので、また弱く流れる電気のようなものだとも感じた。
当然その感覚は人という発電所が半永久的に最期の日を全うするまで存在させる事になるのだろう。
その電気の総てはあらゆる生物の為に流れ、あらゆる生物の為に起こっている。だがそれを何者も俯瞰図として捕らえる事ができないまま、誰かに知らされ意識する事のないまま、我々は知らず知らずに日常を泳ぎ生きていくのだ。
たったひとつここで語っておきたい事。
それはこの物語があくまでも起こり得たかも知れぬ、幾ばくかの可能性や想定を秘めた一つの仮想現実に過ぎないという事。
そしてこのような未来が起こらないように、という祈り。
願いであるという事だ。
どうか怒らずに有り得る仮想話として存在するものとして肩の力を抜いて傍観してもらえればと思う。
この世界が何百年も、何千年も、何万年も続く事を願って。
「なあ、高岡。お前にとって宇宙って何だ?」
「さあ、な。けれどこれから動かす機械が俺の指揮で動いていつかは宇宙開拓に役立てばいいとは思う」
「……お前って冷血漢なのかロマンチストなのかわかんねえな」
「感情を滅多な事じゃ表に出したいとは思わないからな。そちらさんと違って」
「悪かったな。頭に血がのぼりやすい性格で」
草原の上、二人の青年は希望の日を前日に迎えて静かに語らう。