プロローグ
早速だが、みんなはアリスコンプレックスという言葉を知っているだろうか?
小学校低学年から高学年の少女に性的興奮を覚える事をアリスコンプレックスというらしいが、今はこだわりのある人以外はロリータコンプレックスとひとまとめにされることが多いだろう。
他にも5歳以下に性的興奮を覚える事をハイジコンプレックス、先ほども言ったロリータコンプレックスは13歳~18歳が対象とされている。
現在ではそれらは禁忌とされているが、明治時代くらいまではむしろ嫁は若い方がいいと推奨されていた程だという。
さて、堅苦しい話はここで終了して、本題に入りましょうか。
俺は、夏休みが終わろうとしている8月30日を境に女の子になってしまった。
しかも、外見年齢がおよそ10歳の女の子に。
俺としても自身のことながらまだ混乱しているので、一応自分の事を思い出していくことにしよう。
確認、8月30日の朝に目が覚めるまでは確かに俺こと耶麻昌は、15歳の男子高校生だった。
高校生になって初めての夏休み・・・。
後半を遊び尽くすために、7月で学校から出された課題を終わらせ、友人たちと海で泳いだり、夏祭りへ行ったり・・・、男ばかりでむさくるしい感じもしたけど、これも青春の1ページなんて恥ずかしい事を考えてしまったりするぐらい楽しかった。
なのにどうしてこうなったんだろう・・・。
いや、原因の心当たりはおおよそついている。
ギュムッ
「あら、どこの可愛いお嬢さんがわが家に迷い込んだのかしら~?」
そう、今俺に抱き付いてきたこの女性、もとい俺の母親である耶麻愛璃が俺をこんな姿にした犯人である。
「朝起きたら女の子になってたんだけど・・・。これはいったいどういう事かな・・・母さん?」
「い~や~、お母さんのほっぺつねらないで~のびちゃう~」
・・・本当にこの人42歳なのか?
なんだよこの柔らかなほっぺ・・・。
・・・最高じゃないか!
「あの~、昌くん?」
「なんだよ母さん、もう少しこのほっぺを・・・」
「唯夏ちゃんと結絵ちゃんも見てるから・・・///」
母さんが指差した方向をおそるおそる見ると、妹の唯夏と結絵と目があった。
「・・・」
「・・・」
二人の沈黙が痛い・・・。
どうやって、この状況を説明しようか・・・。
「あのな・・・、これには事情があってだな」
「お・・・お・・・」
かわいそうに、状況が呑み込めなくて処理落ちしている。
だが、ここは兄として妹を落ち着かせるべきだよな、うん。
「落ち着いてくれ唯夏、ほら深呼吸」
うん、月並みの事しか言えないな。
情けない兄でごめんな、唯夏と結絵。
「これが落ち着いてられるか!なんだよお兄ちゃん、こんなに可愛くなりやがって~」
「にぃにぃ、かわいいです」
・・・あれ?
「なんで、俺ってわかるの?」
確認、現在俺は10歳位の女の子。
容姿は、男だった時に比べたら母さんや妹達と近いかも。
あ、だから俺だって分かってくれたのか。
だとしたら、流石俺の妹というべきだな・・・!
家族の絆って素晴らしい。
「そりゃあ、お兄ちゃんが女の子に変わるのを一晩中見ていたし」
そうだった、母さんの娘でもあったんだ・・・。
というか、夏休みだからって夜更かしはいけません!
成長期なんだからさ。
「母さん、いい加減説明してほしいんだけど」
「説明してほしい?ほしいのね?」
朝からテンション高いのが、俺の母さんの耶麻愛璃(42)。
職業は科学者らしい。
らしいというのも、よく母さんが白衣を着ているのは見るのだが、何を科学しているのかよく分からないからなのと・・・。
「お母さんってば天才科学者だから、昌ちゃんのために女の子になる薬作っちゃったのよ」
自称・天才科学者なんて胡散臭い事を言っているからである。
「手段じゃなくて、動機が聞きたいんだけど・・・って、女の子なる薬を作った!?」
「意外と簡単よ、Y染色体をX染色体に変えるだけだし」
などと簡単に言ってくれるが、それが決して簡単じゃない事くらい文系男子・・・いや今は文系女子の俺でも理解できる。
体と心のギャップに悩んでいる人はのどから手が出るほど欲しがりそうだ。
「まぁ、副作用で多少若返っちゃったみたいだけどね?」
副作用といえばあまり良いイメージは無いが、これはむしろデメリットよりもメリットよりのものだろう。
すげぇな、母さん!
まぁ、それはそれとして・・・。
「それで母さん、何故それを俺に試しんだ?」
そう、薬がすごいのは身をもって体験している俺だからこそ分かる。
だが、何故そんな薬を俺に投与したのかがまったく理解できない。
「だって昌ちゃん、お父さんが亡くなってから家族で唯一の男性じゃない?だからいっその事女の子にしちゃえば肩身が狭い思いがなくていいんじゃないかな~って」
余計なお世話である。
「いいじゃないお兄ちゃん、今のお兄ちゃんとてもラブリーだよ?」
この娘は耶麻家の長女で、俺より2つ下の妹の耶麻唯夏。
天真爛漫な性格で、華奢な体つきからは想像できないほどパワフル女の子。
今気づいたのだが、現在の俺より2回りくらい背が大きい、少しモヤってする・・・。
「にぃにぃ、新しいねぇねぇです?」
この娘が耶麻家の次女で、5歳の耶麻結絵。
少し天然さんで、言葉遣いも5歳児にしては丁寧。
歳が10も離れているだけに、本当にかわいがっている。
いや、唯夏も可愛いけどね?
「そうよ~結絵ちゃん、これからはお兄ちゃんはお姉ちゃんになるのよ~」
「いやいや母さん、元に戻してよ」
「昌ちゃん・・・、お母さんはX染色体をY染色体に戻すのは専門外なの」
しっかりしろ、天才科学者・・・。
「だったら、明後日から高校どうするのさ。この姿で通えっていうのかよ?」
見た目は女子小学生、中身は男子高校生が高校へ通うだなんて・・・考えただけで恐ろしい。
滅茶苦茶に乱暴にされてしまう、エロ同人みたいに!
「ふふっ、お母さんに抜かりはないわ!」
そういって、茶封筒から書類を取り出して俺に見せた。
【私立黄泉谷学園女子初等部編入案内】
見た目は女子小学生、中身は男子高校生が小学校へ通う方がもっとやばかった!
もはや、犯罪臭しかしない。
「嫌だよ母さん、それにそこって唯夏が通っていたところじゃないか!」
「今は中等部の方だけどね」
私立黄泉谷学園、このあたりでは有名な女子高で初等部・中等部・高等部がある所だと聞き及んでいる。
現在、唯夏がそこの中等部に在学しているはずだ。
「でも、もう編入手続きとかしちゃったし~、それにもう昌くんの通っていた高校には中退届出して、もう受理されているのよね~」
俺の高校生活――終わっちゃった。
「にぃにぃ、どんまいです」
結絵の慰めでも今はちょっと立ち直れそうにない。
「あら、もうこんな時間・・・。じゃあ、お母さんはお仕事に行ってくるからね~」
気づけば、もう母さんがいつも家を出ていく時間になっていた。
間延びした口調に反して、さっさと支度して家を出ていった。
まだまだ母さんに聞きたいことはあったが、今は・・・。
俺はこの現実を受け入れられるのか・・・。
そして俺は男に戻れるのだろうか・・・。
愛璃は一人だけの研究室で静かに思い悩んでいた。
昌には、女の子にした理由が肩身が狭そうだったからなんて、適当な理由で誤魔化したが、本当の理由は別にあった。
「ごめんね昌くん・・・、嘘ついちゃって」
本人に同意も無い性転換、しかも15歳という多感な時期にそんな今までの人生を否定されるような非道を実の息子へやってしまったのだ、愛璃も全く悔やんでいないといえば、見ての通り嘘になる。
だが、やらなければ昌は・・・息子は・・・!
謝らなければいけない事はたくさんあるが、この事は昌にはまだ内緒にしなければならないから今は・・・その時までは昌の前で、そしてあの子達の前では笑顔でいよう。
そして、もう一つの懸念【私立黄泉谷学園】
そこでは家族内では昌だけが知らなかった事が、彼を再び悩ませるだろう。
それに近くで支えられるのは私では無く2人の娘たちになるだろう・・・。
駄目なお母さんでごめんなさいね・・・。
だからこそお母さんはお母さんにしか出来ないことを頑張らなきゃね。
「さぁ、いつまでもくよくよしていたら余計にダメだよね!」
気分を切り替えて、今は前へ進もう。
それが子供たちのためになると信じて・・・!
プロローグ 終