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謀らずもハーレム

誤った方向に全力疾走している気がしてならない……。そのうち恋愛……したいです。

 衝撃の事実のお知らせです。

 操船科の生徒、総勢五人で御座いました。

 うん、そう、総勢。つまり私とオレアノも含めて五人。

 少ないだろうなとは思っていたけど、正直ここまでとは思わなかったよ。

 新設された学科だけに、学舎も新築。その性質上、広大な敷地を持つ学院の中でも最も海に近い場所にある。そしてこれまた真新しい教室に入ると、居たのは男の子が三人。

 これから増える……、という可能性は残念ながらない。なにせ私とオレアノが登場したのが、アーノルドに絡まれていたせいで大分遅いのだ。事実中に居た三人も、

「あ、ほら来た! 二人来た! 三人じゃなかった!」

と盛り上がっている。遅れて申し訳ない。学科にたった三人だなんて、不安でしょうがなかった事だろう。教室を間違えたのかと疑うレベルだ。

「しかも可愛い女の子キター! 俺はギニス子爵家の次男でアルカロスって言います! よろしく!」

 人懐っこい笑みで握手を求めてきたのは、燃える様な真紅の髪の少年だ。ガチモン美形のアーノルドや生徒会メンバーを見た後なので若干の雰囲気イケメン感が否めないが、それでも十分に整った顔立ちだろう。

「私はラドルフ侯爵家の娘でレイチェルです。よろしくお願い致しますわ、アルカロス様。」

 私の名乗りに、彼はやはりと目を輝かせる。

「蒼海の金獅子、レオニール様の妹君ですよね!?」

「……その二つ名は止めてあげて下さいましね。言われる度に、羞恥に悶絶しておりますわ。」

 どうもこの国の人々は他人に二つ名を献上するのが好きな様で、蒼海の金獅子とは我が兄、レオニール=ラドルフに冠せられたそれである。本人は耳にする度に無表情のまま聞き流し、衆目がなくなった途端に床を転げ回って悶えている。

 アルカロスは私を前に笑みを抑えられない様子で、他の二人の視線も好意的だ。

 兄は海と船に関わる人間全ての、憧れの的だからね。そりゃ操船科に入る位な彼等には、堪らない存在だろう。

 さて、他の二人にもご挨拶しなければ! 楽しい学院生活の為には最初が肝心! ……と意気込んだところで教室のドアが開き、担当教師が入って来た。

 ……なん……だと?

 巨漢だ。2メートル近い長身に、良く日に焼けた褐色の肌は筋骨隆々。緑色の髪は頭頂部で結ばれ、見事なパイナポーヘアーを形成している。うん、パイナップルの怪人だ。それも魔改造した後に、100ガロン程プロテインを投与したと思われる。

「はーい、席についてー。自己紹介はこっち主導でもやるからねー。」

 意外に高い声音と柔らかい口調で言うと、麻のタンクトップに迷彩のダボッとしたパンツ、軍靴という出で立ちの先生は教壇に立つ。

 乙女ゲームの世界なだけあって入学時期の今は四月で、季節や気候は日本準拠だ。つまり長袖のジャケットを着てても肌寒い。なんでタンクトップ一枚なんだ。

 何一つ逆らってはいけないと本能で理解した私達は、大人しく席に着く。

「えーと、ボクがこの学科を担当するクリストファ=コールローズです。これから三年間よろしくお願いしますね。新しく出来た学科ですので実験的なところも多く、不手際や、皆さんに協力をお願いする事も多いと思います。それでも卒業時には、皆さんが立派な操船士となっているよう努力も協力も惜しみませんので、意見や要望があれば何でも言って下さい。」

 まともだ。とてもまともな先生だ。パイナップルの怪人呼ばわりして、大変申し訳ない。

「はい、じゃあ皆にも自己紹介して貰おうかな。この学科に入った理由も言って貰えると助かります。」

 言って手元にメモを用意する先生。データ収集の意味もあるのだろう。

「えーと、先生以外には既に名乗ったけど、アルカロス=ギニスです。家は子爵っス。次男だから家を継ぐとかないけど、でも仕事は手伝いたくて。うちの島は結構観光業で成功してるんスけど、今のところ国営の各島を巡る定期便でしかお客様を呼べてなくて、で、俺が操船士になれたら専用の客船を保有してお客様ガンガン呼べたり、遊覧船とかの事業展開もありかなぁと思ったり、で、入科しました!」

 顎に親指を当ててうんうん考えながら理由を言ったアルカロスは、最後にニパッと笑う。

 なるほど。確かギニス子爵の領島といえば、上流階級のマダム達に大人気のリゾート地だ。確かに専門の操船士が居れば、稼げる額はガンと上がるだろう。

「じゃあ次は僕で。」

 と言って立ち上がったのは、ヒョロリと背の高い、淡い金髪の少年。

「ポルナフ子爵の三男で、フランツと言います。この中では、多分唯一のエスカレーター組かな。中等科までは医務科に居ましたし、実は目指しているのも医療魔法士です。うちの領地、医者が居ないので。でも周りの島にも医者が居なくて、操船士になれたら、そういう島々も周れるかなって。いざという時、操船士なら手漕ぎの船と違って嵐の中でも進めるし。医療魔法の勉強は今までもして来たし卒業後に師事できる人も沢山いるけれど、操船の勉強が出来るチャンスは今だけだと感じたのでこの科に入りました。」

 柔和な雰囲気と物腰は、確かにお医者さんっぽい。痩せぎすで少し頼りない感じもするけれど、熱い心念を持っているんだなぁ。凄いなぁ。

 なんか私の船が好きだからって理由が、凄く安っぽくて恥ずかしくなってきた。いや、アーノルドと婚約破棄した時に食うに困らないよう手に職をってのもあるんだけど、現時点でそれを言う訳にもいかないし。うーん。

「次、俺ー。ニッツェル男爵の三男で、ゴンゴルって言うよ。俺は前の二人と違って、領地とか家とか全然考えてない薄情者だよー。」

 とは言うものの、「貴族の三男」としては彼の姿こそが正しい。嫡子以外の子供が領地の運営に口を出したり領民の事を考えたり、そういう事をすると余計な波風にしかならないのが普通だ。変な跡目争いにならないとも限らない。長兄が余程の無能でない限り、当たらず触らずが賢明なのだ。

 勿論、アルカロスやフランツの事をどうこう言いたい訳でもない。兄弟仲が良くて長兄が賢明な人ならば、そっちの方が素晴らしい結果に行き着くのだから。

「俺は昔から語学に興味があって、あと他国の料理にも凄い興味がある。だから色んな国に行ってみたいんだけど、俺の家は悠々自適な旅行が出来るような金持ちじゃないし、かと言ってこんなデブじゃ普通の船夫としては雇って貰えないし。」

 特に自虐の雰囲気もなく、デブと自称する。うん、まぁ、否定の言葉は持たないし、船乗りの雇い入れの条件に符合しないのも確かだ。限られた水と食料で遣り繰りする事が必須の船夫は、何よりも大食を忌避する。

「でも貴族の操船士なら需要ありそうだし、遠くへ行く船にも乗れそうだってね。以上ー。」

 基本的に、貴族は平民よりもかなり魔力量が多い。平民がちょっとした漁船位の船を五人掛かりでやっと動かせるのに対し、貴族ならばたった一人で長期の航海にも耐えられる。

 あくまで平均値での比較だけど、仮に平民の魔力量を1とすると男爵や子爵で20〜30、伯爵で50〜60、侯爵で70〜80、公爵や王族で100といった具合になる。勿論例外はあるけどね。

 貴族でありながら危険の伴う……どころか、嵐になればたった一人で甲板に立ち、豪雨と暴風に曝されながら船と船員を守る操船士になろうなんて人間は希少だ。ゴンゴルの言う通り、需要があるどころか引く手数多だろう。

「オルバー男爵の三男で、オレアノです。操船科に入ったのは、自分に合ってると思ったからです。」

 お、オレアノが立ち上がった! と思ったら、あっという間に挨拶を終えて座ってしまった。

 えっと、なんかもっとこう……ないのかい? アルカロスがずっ転けてるよ?

「えぇと、ラドルフ家の……レイチェルですわ。小さな頃からずっと船が好きで、船に関わって生きたいと思って参りました。でも実際には貴族の娘が船乗りになんて、無理なお話でしょう? そんな折にこの学科の事を聞いて、喜び勇んで入りました。目指すものは、陸操士ですわ。」

 オレアノにちょっと調子を崩されたものの、何とか言いたい事は言えた。

「陸操士かぁ。女の子が操船士になってどうするつもりかと思ったけど、なるほどなるほど。」

 フランツが納得したように言う。そうだよ、結構真面目に考えた上での結論が陸操士なんだよ。

「はい、皆さんありがとう。皆さんが目指すものになれるよう、当学院は全力でサポートします。フランツの事は、医務科の先生にも話を通しておきましょう。色々と配慮してくれるはずです。」

 言ってニッコリと笑う顔が怖いです先生。大迫力ですね。

 あまりの圧に耐えきれずに視線を逸らした先で、既に見慣れた和やかな微笑のなか眼だけを真剣な色にして、オレアノがぽそりと呟いた。

「……全員欲しいなぁ。」

 ……なんの話ですかオレアノさん。

次話、乙ゲーチームのターン……の予定です。

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