目的
またもや説明回……。ジャンルを恋愛からファンタジーに移した方が良い気がしてきました。
突き抜ける青空! 紺碧の海! そこに映える白亜の学舎!!
フォ―――――!! テンション上がるフォ―――――!!!
……ごめん、今のは気持ち悪かった。自覚症状がある、今のは気持ち悪かった。
別にファンタジー物にありがちな、「私、海って初めて見たの!」的イベントでは無い。というかこの国に住む限り、毎日嫌でも海は目に入る。
ここリベティア王国は、他国に紹介される際には「海洋国家」の冠がつく。
王都リディアこそ大きな大陸の端っこにへばり付くように存在しているけれど、その国土の主は沖に浮かぶ大小合わせて五千を超える島々である。
私がレイチェルに転生して何が嬉しかったかって、この海の国で暮せることだ。
私は前世、小さな頃から船が大好きだった。それも帆船が。
でも現代日本に、現役で活躍する帆船なんて存在しなかった。あるのは観光地やテーマパークにあるイミテーションやアトラクションばかり。それも例え動いたとしても、帆の存在意義なんてないエンジン仕様。
正直私の溢れる帆船愛は、ボトルシップ作りにぶつけるしか無かったのだ。
でもそんな帆船がこの国には溢れている! 素晴らしい。毎日眺め放題だ。
なにより私が諸手を上げて快哉を上げたのは、ラドルフ家の家業を知った時。
この国の全ての帆船の主、そう渾名されている。
ラドルフ家に国王陛下より下賜された領土は、王都から程近い、大体淡路島位の大きさの島である。
そしてその我が家の島へ、全ての外国商船が着岸するのだ。
鎖国時の出島ではないが、そういう制限がされている。
ラドルフ家の当主は、代々検疫や関税を司る貿易省のトップなのだ。経済力も国力の内とするのなら、その半分を掌握していると言って良い。
だからこその、私とスットコドッコ……アーノルドとの婚約だ。公爵家と婚姻させることで、国はラドルフ家を囲い込みたい訳だね。国一番のお金持ちでもあるしな。そしてウチのオトン、当主のロドリゲスは、国王のことも一切敬わない自由人だからね。スットコとの婚約を受けたのだって、「ごっめーん、レーチェ。なんか陛下からいっぱい話し掛けれて、面倒臭いから適当にうんうん返事してたら、いつの間にかお前と公爵んトコのボンが婚約してたー。」だからね。自由人、自由過ぎるだろ。この人の手綱を握りたいってのもあるんだろうな。無駄な足掻きを。
……あれ? なんかまた話ズレてる?
まぁあれだよ、私がなんでこの学院に来たのか聞いて欲しかったんだよ。
この海の国で、私が憧れて止まない職業がある。
それこそが、操船士。しかも出来れば、陸操士になりたい。
エンジンの無いこの世界の船は、風や水の魔法を動力とし操舵とする。操船士はその名の通り、船を操る事に特化した魔法使いの事だ。
でもね、物凄ぉおく難しいんだ。操船士になるの。基本的には腕の良い操船士に弟子入りして、通常の船夫としての仕事も熟しつつ修行するしかない。……うん、侯爵家の娘には無理なんだ。殆ど陸に上がることもせずに、年単位で七つの海を航っていくとか。私や家族が許しても、国や身分が許さない。
ところがさ、急に今年から出来たんだよね。グランフィルス剣術魔法学院に、操船士になる事を目的とした操船科が。
うん、なので今はここの学科、七種あるんだよね。ゲームでは間違いなく六科で、レイチェルは主人公と同じ医務科だった筈。
まるでね、この学院を避けて通った私を誘き出すように新設されたよ。
乙女ゲームのシステム補正とかなのかね? でもそれに乗っても後悔しないくらいには、私は本気で陸操士になりたいんだよ。
陸操士というのはこの国独特の、操船士の最高位職だ。
ほらウチの国、五千以上の島の集合だって言ったでしょ? それで一番王都に近い、つまりは奥まった位置にあるラドルフ領に、一財産抱えた貿易商船達は上陸しなきゃいけないわけ。島が多いから、急に浅瀬になっていたり逆に深い海溝が横たわっていたり、潮も恐ろしく複雑で百戦錬磨の操船士達でさえ悲鳴を上げる。
陸操士はラドルフ領やその周りの島々に常駐していて、遠隔で不慣れな他国船を操作し、安全な着岸を提供する技術職。
ほぼ唯一、ラドルフ侯爵家の娘である私がなれるかも知れない、船に関わることが許される職業だ。なんせ自分の家の領地に常駐だからね。
だから私はこの学院に来た。
システム補正だとか、破滅フラグだとか、利用出来るものは利用するし、私の夢の邪魔はさせない。
どうしたって、笑みが溢れる。
私の名は、レイチェル=ラドルフ。
陸操士を目指し、学ぶ為にここへ来た。
間違ってもスットコを追って来た訳では無い!!
って事で、レイチェルが避けてた学院にやって来た理由です。操船士とか陸操士とか……ちゃんと意味分かりますでしょうか……。