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オルバー家

 懇親会から一週間が経った。

 結局アーノルドの矛盾とは何なのか、オレアノの探られて困る腹とは何なのか、それらは知れぬまま。

 あの後アーノルドは、あっさりと殿下の許へと戻っていった。どうも殿下のお薬の時間だったようで、そのために水が必要だったらしい。

 で。

「オルバー家について、いくつか分かった。」

 放課後の教室に、オレアノ以外の操船科メンバーが揃っていた。

 残念ながら、ロレンツは不参加。

 謎の情報網を持つゴンゴルが色々と調べてくれた結果を聞く、そんな集まりだった。

「まずオルバー家は、王都に隣接して広大な土地を与えられる貴族だ。」

「王都に隣接して? るのに広大な土地? の領主が男爵?」

 その矛盾した言葉の羅列に、アルカロスが疑問符を飛ばす。

 王都の周り、それも大陸での土地が稀少なこの国では、それらは本来公爵家に割り振られるものである。

 他国でも、王都に近い土地を男爵にとはならないのが普通だろう。

「オルバー家ってのは代々優秀な土使いを輩出する家柄で、その当主は御料牧場の長となるのが勤めなんだよ。」

 御料牧場……と少し考えたところで、答えに行き当たった。

「それで騎士科ですわね?」

 御料牧場とは、王族の口に入る食物を作農し畜産する機関のことである。

 そしてこの国の騎士達は特別の誓いを立てない限り、基本的には陛下個人に仕えているという体となる。

 つまり騎士団のトップは国王という事になり、その関係で騎士達が消費する莫大な食糧もそこで生産されているのだ。勿論、騎馬や騎獣の飼料もね。

 平時は勿論のこと、有事ともなれば輜重の根幹を握る重要なポジションである。

 当然、御料牧場への一般人の立入は厳しく管理されるため、つまりはオルバー男爵家の領地はその全てが御領と同意義、然るに領民も全てが王宮勤めの公務員ということになる。

「男爵家ったって、重要度じゃ侯爵家とタメを張るな。」

 王家中枢への関わり様では、ラドルフ家以上かも知れない。

「ただし騎士達の中でオルバー家が有名なのは、その家柄よりも先代当主の伝説に因るところが大きいがな。」

 ゴンゴルがニヤリと笑う。

「先代? オレアノのお爺様ですの?」

「いや、親父さんだ。どういう訳だか十年前、まだ四十も半ばだったってのに、突如として長男に家督を譲っているからな。」

 四十半ばでとなると、確かに若い。怪我か病気だろうか?

「で? 伝説って?」

 アルカロスが心持ちワクワクと先を促した。

「ああ、ある日な、ぺーぺーの新米騎士が五十人ほど、オレアノの親父さんに喧嘩を売ったらしい。」

「五十人て。」

 イカン。思わず素で突っ込んでしまった。

「どうも演習のために集められて……二時間ほど炎天下に放置されてたらしくてな。普通に考えりゃそれも訓練の一環なんだろうが、まぁクサクサしていた訳だ。上官が現れたところで文句言うわけにもいかないしな。」

 騎士なんぞというと典雅なイメージがあるが、この国に於いては軍隊と同じ意味である。

 元々貴族ってのは、国民を守る義務を負うからこその支配階級だからね。

 そんな訳でもちろん、騎士団を構成するのは貴族の子弟。

 継ぐ家督のない次男三男に大人気の公務員職ではあるが……はてさて。

 高い志で門戸を叩いたとしてもそれはそれ、やはり何不自由なく暮らしてきた坊ちゃん方である。

 入団したばかりでは、やはり夢と現実とのギャップに驚くことも多いだろう。操船士になるよりも鬼畜仕様であることは、想像に難くない。

 でもって上司に逆らうことも許されない。いや、それは勿論なんだけど、ドの付く体育会系であるのもさることながら、それ以上に上官になればなる程その出自自体が高位貴族のそれになるからだ。

 出世には、功を積むのと同等に家柄が必要不可欠なのである。

 まぁ単純に、高位貴族の方が魔力量が多くて強いからというのもあるのだけれど。

 そんな訳で、気位の高い坊ちゃん方が放置。イライライライライライラ。

 そこへ現れた、騎士団関係者とはいえ階級に関わりの無い……、それも爵位としては最下位の男爵。

 うん、なんか展開が読めるわぁ。

「実際の演習が中々始まらないから、まぁデモンストレーションに付き合えよと、こうなった訳だ。」

 何がデモンストレーションか。勝手な行動は無論罰則の対象である。

「で、五十対一で戦闘訓練だ。」

「そんな無茶な。」

 フランツが眉を下げる。

 せめて二十六対二十五でやれば良いのに。あ、でもそれだとオレアノのお父さんを加える意味がないのか。最低だな!!

「――で、模擬戦用で刃を潰されてるとはいえ剣やら槍やらを持った連中相手に、鍬一本で圧勝しちまった訳だ、オレアノの親父さんは。」

 

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