懇親⑥
更にダラダラ喋っております。
「既婚!? え。既婚!?」
フランツ以外の全員がザワっとなる。
「でも奥さん星じゃない。触れもしないし、もし触れても硬いし、生身の女の子の方が良くなる事もあるんじゃない?」
フランツがよく分からない事を言う。何の話だ。
「絶対に有り得ない! 僕が愛するのは彼女だけだよ!!」
「そう言えばスピカって名乗ってたな……、星の婚姻か。」
アルカロスが声に出した聞き慣れない言葉に、私は首を傾げる。
「星の婚姻?」
「あれ、姫知らないの? 女の子ならそういうの好きそうなのに……って知らないか。乙女度とかロマンチック度とか低いもんね、姫。」
おい、どういう意味だ。因みに船乗りにとって星は重要事なので、スピカの意味は分かるよ! おとめ座にある一等星で、真珠星だ!
「占術師は生まれた時に守星の祝福を受けるんだ。僕の守星がスピカ。そして占術師の中でも千人に一人くらいの確率で、守星との婚姻を認められる場合がある。」
「認められる? ……誰に?」
「星に。」
極々真っ当な疑問に、真顔で謎な答えを返された。
「えぇと……。」
「姫、止めとけ。そういう世界もある位のザックリ感で納得しておけ。占術師とそっち方面の話をして、理解出来るとか思うな。」
……ゴンゴルの指示に大人しく従っておこう、うん。
「まぁそんな訳で、第一成年の資格を得た入学決定日に結婚してるんだよね、僕。星との婚姻は人間同士の婚姻と何も変わらないよ。法律にも則っているしね。」
「えーと、それではマリア嬢に抱きついたりしていらしたのは……。」
奥さんが人外……どころか無機物とはいえ、浮気は良くない。
「しょうがないじゃん。僕が未来視した通りの態度や言動をとらないと、マリアが物凄い怪訝顔で『どうしちゃったの!?』とか言ってくるんだから。どうしちゃったのはこっちのセリフだよ。それがさも当然で僕の方がオカシイみたいな態度だし、怖いんだよ。」
確かに自分ではないものを、自分の当然とされるのは怖いかもしれない。
「まぁ我が妻は、新婚の夫に他の女とイチャつく未来を視せるくらいに寛大だから、問題はないだろうさ。」
ハッと、可愛らしい顔立ちに似合わないやさぐれ具合で、憤懣を吐き出すロレンツ。新妻に浮気を唆されてるみたいで、怒ってるのね。
「……今は夫婦の事はいいや。そんなこんなで、未来視した僕と現状の僕では、全く持って合致しない。そしてその他の事でも、全く未来視通りにはいっていない。」
例えば、と続ける。
「他の生徒会メンバーとも、マリアは卒業までの三年間を掛けて、少しずつ少しずつ仲良くなって行く筈だったんだ。それが今日の時点で、早くもセイウェン、キース、トリニウスの三人はマリアに夢中でしょ?」
「三人? 公爵令息様は?」
ゴンゴルの挟んだ口に、ロレンツは眉間に皺を寄せる。
「オウサマのは……違うから。確かにマリアに執着はしているんだけど……ごめん、占術師には王族に関することと、騎士の忠誠に関わることは他言してはいけないって不文律があってね、説明は出来ないんだ。でもオウサマのは、そういうんじゃない。ああそう言えば、未来視の中では当然の様にオウサマって呼ばれていたから現実でも呼んでみたんだけど、そうしたらエゲツナイまでに怒られたよ。それが今のところ目に見える、未来視のオウサマと現実の彼との乖離かな。」
エゲツナイまでに怒られるって何だろう。そして反省の色が欠片もないのも何だろう。
「生徒会のメンバーってさ、入学式の一週間前に一回集められたんだよね。ほら、入学式で挨拶しなきゃいけなかったし、顔合わせとしてさ。で、その時には皆、未来視での彼等とそう変わらない感じだったんだよね。硬いっていうか、一匹狼的な? ああ、キースは軽かったけどね。でも一枚隔てている感じはあった。」
それがさ、と嫌そうな顔になる。
「入学式の時には態度が軟化……どころか、三人ともマリアマリアってなっててさ。何かの盲信者みたいで、薄ら寒くなったのを覚えてるよ。多分マリアは皆に好かれて、チヤホヤされたいんだと思う。顔合わせの時にそういう態度が透けて見えてたし、そうなる様に行動したんだとも思う。でもこんなの有り得る? 一週間だよ? 確かにマリアは可愛いけれど、たった一週間で骨抜きに出来るもの? 一目惚れしていたとか? 三人とも?」
うーん、確かに奇妙な話だよなぁ。私も早過ぎはしないだろうかと、疑問には思っていた。
「いや、なくはないんじゃない? マリア嬢にその意志があったのなら、落とすのは簡単かも。」
そう言ったのは、フランツだった。