懇親②
エタったと思われても仕方がない位に間が空きましたが、普通に続きます。……なんかすみません。もう誰が誰だか覚えていないという方は、第一話に人物紹介なる物を作りましたので、よろしければご活用下さい。
スマートに、スムーズに、私の手を引いてアルカロスが進む。
実家の手伝いでマダムのエスコートはお手の物だと言っていた彼のそれは、確かに洗練されて優美だった。
まるで魚が泳ぐ様に人を避け、あっという間にホールの真ん中へと行き着く。
ぐるりと囲んだ視線の中、三方向に向かって礼をとる。
ワアっと拍手が沸いて、そのまま壁際に幾つも設置されている丸テーブルの一つに導かれた。
あの状況でも、アルカロスはちゃんと周りが見えていたらしい。そのテーブルにはオレアノ達がいた。
「フランは良い目印になるわ。」
私の手を解いたアルカロスがアハハと笑う。確かにフランツは、一年の中では頭二つ分くらい背が高いからね。
「それは何より。学院長先生の挨拶が始まるからドリンク持って。アルはシャンパンで良いよね。姫も同じで良い?」
フランツが渡してくれた発泡する琥珀の液体を見て、私はちょっと首を傾げる。この世界にもシャンパーニュ地方があるのだろうか? それともやはり和製乙女ゲームのなせる業なのか。そう言えばお父様もコニャック飲んでたな。
ああ、飲酒に関しては問題ないよ。この国では十六歳で第一成年を迎えて、飲酒が解禁になる。厳密にはここに居る殆どがまだ十五歳だろうけれどね。
でも魔法学校に入学した時点で第一成年の資格が与えられるので、法律違反には当たらない。
なんで入学と成人が関係あるのかっていうと、この第一成年で与えられる権利の中に「自己の責任に於いての魔法の行使を認める」というものがあるから。
つまり成年していないと、魔法を教わる事が出来ないんだよね。十六までは親の監督下でしか魔法使っちゃいけないからね。
その他にも第一成年には、家同士が認めれば結婚出来たりだとかって権利も与えられる。
つまりアレだ、貴族階級の社交デビュー云々を円滑に進める為の苦肉の策的なソレだ。
本成年とも呼ばれる第二成年は十八で、日本の成人とイメージが重なるのはこちら。親の比護下を離れて独立したり、本人同士の合意のみで結婚出来たりする。選挙権はないけれどね。こっちの役職は、全て王命で決まるから。
とかってつらつらと考えていたら、また私は学院長先生の話を聞いていなかったよ。大変申し訳ない。
どうも学院長先生はそのお立場にも関わらず、延々と長話をするというスキルをお持ちでないようだ。素晴らしい。
サックリと話し終えた学院長先生が、高々と杯を掲げる。
「では大いに語らい、大いに親交を深めてくれたまえ!」
乾杯! とそこかしこで、カチンカチンと繊細なグラスが合わさる音がする。トリップから帰ってくるのが間に合って良かった、本当に。
初めて口に含んだシャンパンの味は、苦くて甘くて……不思議だ。
「あら? オレアノはお酒を飲みませんの?」
ふと気付いて声を掛ける。彼の手にあるグラスに注がれたそれは……多分グレープフルーツジュースかな?
尋ねると真面目な顔で、コクコクと頷いた。
「アルコールは身長を止めるから。」
……なるほど。
「じゃあ俺は肉探しの旅に出てくる。」
スチャッと何故か敬礼すると、軽食テーブルに向かって行くオレアノ。早速かい。語らう気も、親交を深める気も無いな。
そして同じく敬礼で見送るゴンゴルにフランツ。アルカロスは笑っている。周りにも笑われている。私はどう反応するのが正解なのだろうか。ツッコミとして無能と言わざるを得ないだろう……チクショウ。
しかしそんな笑いの膜を突き破って、特攻を仕掛けてくる猛者がいた。主人公ちゃんである。
「あの……、アルカロスくん……?」
アルカロスの袖口を引いて、鈴を転がすような可憐な声。どちらかと言えば小さな声なのに、きちんと耳に届くのは、これも主人公クオリティという事なのだろうか。
「え? あ、はい。何か?」
アルカロスがニッコリと笑う。操船科で笑う時には「ニッカリ」という擬音がぴったりなので、随分と余所行きの笑顔だ。……駄目だ、なんか面白くて口許が震える。でも我慢だ我慢。
そんな私の死闘の果ての変顔を一瞥すると、マリア嬢は可愛らしく小首を傾げて、ウルッとした大きな瞳でアルカロスを見上げる。
「私と、踊って頂けませんか?」
彼女がそう口にした途端に流れ始めるワルツ。しゅ、しゅ、しゅ、主人公クオリティイイイイ!!
いやでも待て。待ってくれ主人公ちゃん。何故アルカロスなんだ。普通一曲目は、エスコートの相手と踊るものではないのか。つまり貴女の相手は公爵子息殿ではないのか。というか貴女がここに居るという事は、彼が来ちゃうという事ではなかろうか。
「おい、マリア! そこで何をしている!?」
来ちゃったよぉおおおおお!!!
サブタイトルのサブタイトルは「ターゲットロックオン」です。