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第二話 お届け物だよっ!!




かがみ荘に引っ越してきてから早数日。

部屋の中はまだ叔父さんの家から送られてきたダンボールでいっぱいだが、ここでの生活にはだいぶ慣れてきた。

かがみ荘は大きな洋館の一室を一人分の部屋として提供している形式のアパートメントだ。

一階にはラウンジと食堂、管理人姉妹の部屋があり、俺たち店子は二階の部屋を借りている。

この間の騒動の原因となった食事当番は一日交代で、朝食と夕食を作らされるそうだ。

俺も近いうちに作ることになっているので、今のうちにメニューを何にするか考え中である。


そんなある日。事件は、突然起こった。




ピンポーン、とチャイムが鳴り響いた。

無論俺の部屋のものではなく、かがみ荘の外付けチャイムだ。

数秒遅れでパタパタと玄関へ向かう足音がした。

「・・・ん、いけね」

そっちの方に気をとられすぎてもいけない。

俺は再び自分の作業へと没頭する。

部屋中に畳まれ並べられた俺の服。今は衣替え中であった。

「っても、畳んでタンスに入れるだけなんだがね」

誰にでもなく一人ごちる。独り言が多いのはもともとなので気にしない。

小さめとはいえダンボール二箱分の衣服たち。夏物に冬物や下着と、カテゴリは多い。

とりあえずダンボールの中身を全て取り出し、たたんである今の状態にするまで、結構な時間がかかった。

ここからカテゴリ分けしてタンスにしまっていくのだ、と思った矢先に。

「零一―――――――!!!!」

どがん、とドアを破壊しそうな勢いで部屋に飛び込んできた鈴葉がまず入り口付近のパジャマ類を踏みつけこけた。

こけた勢いで部屋の奥にいる俺のほうまでヘッドスライディングの形で接近してくる。

無論周囲のたたんである衣服も巻き込んで。

うきゃーと絶叫する鈴葉。うわぁ・・・と絶句する俺。

部屋に広げられた衣服の半分以上を吹き飛ばして、やっと鈴葉は停止した。

うつ伏せでバンザイのような格好で衣服の海にダイブした鈴葉は、がばちょと顔をあげて言った。

「おもしろかった!」

「俺はおもしろくねぇ」

返せ。俺の一時間を返せ。

「そんなことより、零一くんっ!」

俺の一時間はそんなこと扱いらしい。ちくしょう。

いじける俺を気にすることなく、鈴葉は続けた。

「零一にお届け物だよっ!」




「―――で、なぜ皆さんここにいるのでしょう」

かがみ荘ラウンジ。配達されてきたという俺宛の荷物は、テーブルの上に置かれ、かがみ荘の住人たちによって包囲されていた。

「なんでってホラ!何が届いたのか気になるじゃない!?」

「そうそう。零一くん、お年頃だし・・・」

この管理人姉妹、ノリノリである。

まぁ、それよりも、だ。

「おとしごろ?おとしごろだと、何か届くの?」

という鈴葉の質問に

「・・・エ○DVDとか」

って伏字になってない伏字で回答している有珠サン!?

「いい年の女の子が堂々とそんなことを言うなっ!」

念のため言っておく、俺の部屋にはDVDプレイヤーはおろか、ビデオデッキすらない。

念のためです。

「ま!そんな虚言も包装を解けば白日の下にさらされるサ!」

言いながら荷物を俺のほうへずずいと押しやる桜さん。

荷物というより小包と言ったほうが正しいそれは、ビデオテープ大の長方形をしていた。

一瞬、本当に叔父さんが一人暮らしで寂しい俺にそういう類のビデオを送ってきたんじゃないかと躊躇ってしまう俺。

だが、宛名欄を見てその考えは吹き飛んだ。


K県紅津市参円瑚2-4-6 かがみ荘

             零一 様


「・・・あれ?」

首をかしげる。この宛名欄はおかしい。だって・・・

「・・・差出人が書いてない」

横から覗き込んできた有珠が言う。

そうなのだ。書いてあるのはかがみ荘の住所と俺の名前だけ。差出人の欄は空欄になっていた。

「それに、下の名前しかないってのもね。やっぱりなんか後ろめたいモノだと私は考えるね!」

自信満々そうに言う桜さん。でも本当に、俺には心当たりがない。

叔父さんの家に忘れたものを叔父さんが届けてくれたのだろうか?でもそうしたら俺に電話の一本くれるだろうし、差出人の欄を空欄にする必要もない。

ひょっとしたら従姉妹のアイツの仕業か、とも思ったが、アイツはこういう悪戯はしない。悪戯するなら直接乗り込んでくるはずだ。

宅急便なんて回りくどいことは、しないはずだ。

そういった理由で俺は訝りながらも、たいした警戒もせずに包装を解いた。

包装紙を破いた中から出てきたのは銀色に輝く小さめのアタッシュケース。

それが姿を見せたとたん、周りの空気も一変する。

差出人不明の郵便。

シルバーのアタッシュケース、とくれば。

「ば、爆弾・・・?」

しかし耳を当てても、ケース内から物音はしない。当然だ。

少なくとも映画でよく見る時限爆弾じゃあないな、と自分の考えを軽く笑い飛ばし、ケースを開く。

中には女の子の人形が入っていた。






思考フリーズ。






周りの空気が一変したことを肌で感じる。

つうか、なんかすごく痛い視線感じるんですけど・・・・・!!

ケースの中には衝撃防止材に収まるように女の子の人形が入っていた。俗に言うフィギュアとゆう物である。

パッと見生きているように見えるほど精巧な造り。凛々しい顔の双眸は閉じられている。

それが女子高生の制服のようなものを着ていたから、きっと・・・

「・・・アンタ、まさかそういう趣味だったんだ・・・」

「あらあら。ラウンジで開けるべきじゃなかったわねぇ」

「・・・・・予想外」

「零一、女の子のお人形で遊ぶの?」

きっと皆さんの視線がこんなにも痛いんだろうな☆

「って!ちがう違う違います!こんなもの俺が買ったんじゃなくて―――!!」

「アンタが買ったんじゃなくて誰が買ったのよ!!」

だからそれはこっちが聞きたいって!

「別にいいのよ、零一くん。人には人の趣味ってものが―――」

「だからそうじゃなくてッ!」

つうか茜さん、そういう生半可に温かい目で見られるのが一番キツイです!

「零一」

「な、なに・・・」

「見直した。・・・違う意味で」

だから人の話を聞いてくださいお願いします!!

「零一、女の子のお人形であそぶの?」

だから話を聞けええぇぇぇぇぇぇ!!!







解けない誤解の渦中で俺はノックアウト寸前だった。

降り注ぐ哀れみ、軽蔑の目。

一体何処の誰かは知らないが、これを送った奴が分かったら、全力で一発ブン殴ってやらなくては気がすまねぇってもんである。

半分泣きそうになりながらも、誤解を解けるようなものがないかとケースの中をもう一度見る。

眠っているような女の子の人形と、その隣に一枚のカードらしきものが収まっていた。

「・・・こっちは何だ?」

と、カードを手に取る。

薄く青い、免許証くらいの大きさのカードは金属で出来ていた。

キャッシュカードのような、黒い磁気のラインは入っていない。

一体何のカードなのだろう。

兎に角、このカードには今のところ特に意味はないようだ。

箱に戻し、隣の眠り姫に目をやる。

うう、やりたきゃないけど見てみなきゃわかんないのか・・・。

人形をそっと掴む。思ったより肌の部分がやわらかくて何故かドキッとする。

強く握らないように慎重に箱から取り出した瞬間。

彼女の背中からピンのようなものが抜けて、眠り姫は目を覚ました。


「―――っ!!」

突然手の中で目を開いた人形に、声も出ず驚く。

人形は目を開くと、俺には聞き取れない速度で何かを呟きだした。

同時に彼女の瞳の中を英字が高速でスクロールしてゆく。

驚きで固まってしまい、何も出来ない俺たち。

十秒弱でそれはおさまった。

「・・・・・」

「・・・・・」

誰も何も言いません。

高速で文字が流れることもなくなった人形の瞳が俺を正面から見据えた。

「え、えっと・・・」

「網膜スキャンを開始します」

喋った!と驚くまもなく、彼女は俺の掌からふわりと飛び立ち、俺の(文字通り)眼前でぴたりと停止した。

なんだこいつ浮いてる。そういえば彼女の背中のあたりに何か浮いてるなーなんて考えた瞬間。

「えいっ」

彼女の掌が俺の左目に炸裂した。

「―――ってぇッ!!」

思わず叫ぶ。いやいや、誰だって眼球直タッチされたらこれくらい当然朝飯前ってやつだろう。

「痛ぇな!いきなり何すんだよ!!」

左目を押さえながら猛抗議。それに対するお人形さんの反応。

「網膜。及び声紋スキャン、終了しました」

シカトかよ。

網膜と声紋のスキャンを終了したらしい人形は再び俺の掌に収まり、キリっとした表情で俺を見て言った。

「本人確認97%終了。『剣耶零一』様と認識してよろしいでしょうか?」

「つる・・・なんだって?」

剣耶(つるぎや)零一様です。誤認ございませんでしょうか」

確かに俺は零一様であるが、つるぎやなんていう苗字ではない。

黒澄姓は叔父さん夫婦に引き取られる前からの苗字だと聞いていたし・・・。

「・・・えっと、違います、よ?」

控えめに言うと、人形は首を横に傾げたまま言った。

「そんなはずはありません。網膜、声紋共に剣耶零一様のデータと一致します」

「そういわれてもなぁ・・・」

なんかの手違いで俺の情報でも紛れたんじゃないだろうか。

少なくとも俺は初対面の相手の眼球を潰しにかかる人形を送ってくるようなところに心当たりはないわけだし。

考えながら人形に目をやると、彼女は俺の右手の人差し指を両手で掴み、彼女の体、言っちゃえば胸の辺りに押し付けていた。

なるほど。さっきから感じていたやわらかさの正体はこれか。

つうか、機械なのにやわらかいところはやわらか




突如感じた悪寒に振り返ると。




「・・・ひそひそ」

「・・・ひそひそ」

「・・・・・・・・・・・」

「えぇーっ!そうなの?そうなの!?」

と、仲良く内緒話なんぞしている四人組みがそこにいたわけで。

「ちっ、ちがいます!違うんです!話を聞いてください!」

なんかついさっきに言ったような台詞だな。

「ちょっ!お前も!何してんだよ!」

人形に向かって言うと、人形は屹然とした表情で

「指紋照合完了。『剣耶零一』様のデータと99.89%一致しました」

なるほど指紋照合かぁ。って。

「・・・もっと他にやり方があるんじゃなかろうか・・・・・・」











一段落して。

必死の弁解の末、桜さんたちの誤解はなんとか解けたようだ。

・・・うん、解けてたらいいなぁ。

「・・・で、結局アンタはなんなのよ?」

ソファに腰掛けた桜さんが少女に尋ねた。

「私は総合戦闘支援ユニット、認識番号TLM-8700-『ティルミット』と申します」

俺のひざの上あたりでふわふわ浮いている少女―ティルミットが答えた。

「戦闘支援ユニット・・・?」

「はい。私は使用者の戦闘中のサポート及び戦闘そのものの支援を行うために製造されたものであります」

なんだか俺の間近で俺にはわからない世界が展開しているようだ。

戦闘とかサポートとか。なんか物騒だなぁ。

有珠の次は茜さんが質問をした。

「それで、誰があなたをここへ送ってきたんですか?」

「申し訳ありません。ここへ来る以前のメモリーにはロックが掛かっているので、皆さんにお話しすることはできません」

「零一くんにも、ですか?」

「そうプログラムされています」

静まり返るラウンジ。なんとなく気まずくなって、俺が質問をした。

「・・・えっとさ、俺のことを剣耶って苗字で呼んでいたけど」

「はい。あなたのデータは『剣耶零一』様でインプットされています」

「下の名前に間違いはないんだけどさ、俺の苗字『黒澄』っていうんだよ」

言うとティルミットは少し首をかしげた。

「・・・しかし、あなたは」

「うん、だからさ、多分間違って俺のデータが入っちゃったんだよ。送り主が住所とか間違えて―――」

「それは有り得ません」

ぴしゃりとティルミットは言い切った。

「そのようなことがあるはずがありません。了解しました。ではあなたのデータを『黒澄零一』様で再入力します」

「・・・・・・」

そんな簡単にデータ変更しちゃうんですか。

「ねぇねぇ、んでさぁ」

再び桜さんからのクエスチョン。

「その戦闘支援する機械が、何故に零一くんのところに届いたのさ?」

もっともな質問である・・・単なる悪戯か宅配ミスとしか思えないけれど。

するとティルミットは

「はい。私はマスター・・・黒澄零一様に『使っていただくため』ここに参上いたしました」

と答えた。




いや、普通だったらホラあれだ。

『俺がキミを・・・使う・・・?』

とか武器的な意味で驚くシーンなのかもしれないけれど。

「『使っていただく』・・・!?」

「何に・・・?」

「なにに・・・?」

「ナニに・・・!?」

ホラなんかもうさっきと同じような情景が・・・!!

突然喋って動くオーバーテクノロジーが送られてきたってのに!この人たちは!

「ちょっと!俺がこの娘を何に使うと思ってるんですか!」

「ナニに使うと思ってるなんて大声で言うな!」

言ってません!心の底から言ってないッス!

そんなやり取りが延々と続き、結局この日も部屋のダンボールは片付かないのであった。まる。








拝啓、大悟叔父さん・亜樹叔母さん・みちる、お元気ですか。

俺がかがみ荘に越してきてから何日か経ちました。

住人の皆さんもとてもいい人たちばかりで、毎日がとても楽しいです。

さて、話は変わりますが。

住人の皆さんの誤解の種となった人形の送り主に心当たりはないでしょうか。

いきなり送られてきてかなり困って、もとい弱っています。

もし心当たりがある場合はすぐにそちらに送り返すので教えてください。

よろしくお願いします。

敬具          零一


追伸:本当に弱っています




つづく



ピンポーン、とチャイムが鳴り響いた。

無論俺の部屋のものではなく、かがみ荘の外付けチャイムだ。

数秒遅れでパタパタと玄関へ向かう足音がした。

「・・・ん、いけね」

そっちの方に気をとられすぎてもいけない。

俺は再び自分の作業へと没頭する。

部屋中に畳まれ並べられた俺の服。今は衣替え中であった。

「っても、畳んでタンスに入れるだけなんだがね」

誰にでもなく一人ごちる。独り言が多いのはもともとなので気にしない。

小さめとはいえダンボール二箱分の衣服たち。夏物に冬物や下着と、カテゴリは多い。

とりあえずダンボールの中身を全て取り出し、たたんである今の状態にするまで、結構な時間がかかった。

ここからカテゴリ分けしてタンスにしまっていくのだ、と思った矢先に。

「零一―――――――!!!!」

どがん、とドアを破壊しそうな勢いで部屋に飛び込んできた鈴葉がまず入り口付近のパジャマ類を踏みつけこけた。

こけた勢いで部屋の奥にいる俺のほうまでヘッドスライディングの形で接近してくる。

無論周囲のたたんである衣服も巻き込んで。

うきゃーと絶叫する鈴葉。うわぁ・・・と絶句する俺。

部屋に広げられた衣服の半分以上を吹き飛ばして、やっと鈴葉は停止した。

うつ伏せでバンザイのような格好で衣服の海にダイブした鈴葉は、がばちょと顔をあげて言った。

「おもしろかった!」

「俺はおもしろくねぇ」

返せ。俺の一時間を返せ。

「そんなことより、零一くんっ!」

俺の一時間はそんなこと扱いらしい。ちくしょう。

いじける俺を気にすることなく、鈴葉は続けた。

「零一にお届け物だよっ!」




「―――で、なぜ皆さんここにいるのでしょう」

かがみ荘ラウンジ。配達されてきたという俺宛の荷物は、テーブルの上に置かれ、かがみ荘の住人たちによって包囲されていた。

「なんでってホラ!何が届いたのか気になるじゃない!?」

「そうそう。零一くん、お年頃だし・・・」

この管理人姉妹、ノリノリである。

まぁ、それよりも、だ。

「おとしごろ?おとしごろだと、何か届くの?」

という鈴葉の質問に

「・・・エ○DVDとか」

って伏字になってない伏字で回答している有珠サン!?

「いい年の女の子が堂々とそんなことを言うなっ!」

念のため言っておく、俺の部屋にはDVDプレイヤーはおろか、ビデオデッキすらない。

念のためです。

「ま!そんな虚言も包装を解けば白日の下にさらされるサ!」

言いながら荷物を俺のほうへずずいと押しやる桜さん。

荷物というより小包と言ったほうが正しいそれは、ビデオテープ大の長方形をしていた。

一瞬、本当に叔父さんが一人暮らしで寂しい俺にそういう類のビデオを送ってきたんじゃないかと躊躇ってしまう俺。

だが、宛名欄を見てその考えは吹き飛んだ。


K県紅津市参円瑚2-4-6 かがみ荘

             零一 様


「・・・あれ?」

首をかしげる。この宛名欄はおかしい。だって・・・

「・・・差出人が書いてない」

横から覗き込んできた有珠が言う。

そうなのだ。書いてあるのはかがみ荘の住所と俺の名前だけ。差出人の欄は空欄になっていた。

「それに、下の名前しかないってのもね。やっぱりなんか後ろめたいモノだと私は考えるね!」

自信満々そうに言う桜さん。でも本当に、俺には心当たりがない。

叔父さんの家に忘れたものを叔父さんが届けてくれたのだろうか?でもそうしたら俺に電話の一本くれるだろうし、差出人の欄を空欄にする必要もない。

ひょっとしたら従姉妹のアイツの仕業か、とも思ったが、アイツはこういう悪戯はしない。悪戯するなら直接乗り込んでくるはずだ。

宅急便なんて回りくどいことは、しないはずだ。

そういった理由で俺は訝りながらも、たいした警戒もせずに包装を解いた。

包装紙を破いた中から出てきたのは銀色に輝く小さめのアタッシュケース。

それが姿を見せたとたん、周りの空気も一変する。

差出人不明の郵便。

シルバーのアタッシュケース、とくれば。

「ば、爆弾・・・?」

しかし耳を当てても、ケース内から物音はしない。当然だ。

少なくとも映画でよく見る時限爆弾じゃあないな、と自分の考えを軽く笑い飛ばし、ケースを開く。

中には女の子の人形が入っていた。






思考フリーズ。






周りの空気が一変したことを肌で感じる。

つうか、なんかすごく痛い視線感じるんですけど・・・・・!!

ケースの中には衝撃防止材に収まるように女の子の人形が入っていた。俗に言うフィギュアとゆう物である。

パッと見生きているように見えるほど精巧な造り。凛々しい顔の双眸は閉じられている。

それが女子高生の制服のようなものを着ていたから、きっと・・・

「・・・アンタ、まさかそういう趣味だったんだ・・・」

「あらあら。ラウンジで開けるべきじゃなかったわねぇ」

「・・・・・予想外」

「零一、女の子のお人形で遊ぶの?」

きっと皆さんの視線がこんなにも痛いんだろうな☆

「って!ちがう違う違います!こんなもの俺が買ったんじゃなくて―――!!」

「アンタが買ったんじゃなくて誰が買ったのよ!!」

だからそれはこっちが聞きたいって!

「別にいいのよ、零一くん。人には人の趣味ってものが―――」

「だからそうじゃなくてッ!」

つうか茜さん、そういう生半可に温かい目で見られるのが一番キツイです!

「零一」

「な、なに・・・」

「見直した。・・・違う意味で」

だから人の話を聞いてくださいお願いします!!

「零一、女の子のお人形であそぶの?」

だから話を聞けええぇぇぇぇぇぇ!!!







解けない誤解の渦中で俺はノックアウト寸前だった。

降り注ぐ哀れみ、軽蔑の目。

一体何処の誰かは知らないが、これを送った奴が分かったら、全力で一発ブン殴ってやらなくては気がすまねぇってもんである。

半分泣きそうになりながらも、誤解を解けるようなものがないかとケースの中をもう一度見る。

眠っているような女の子の人形と、その隣に一枚のカードらしきものが収まっていた。

「・・・こっちは何だ?」

と、カードを手に取る。

薄く青い、免許証くらいの大きさのカードは金属で出来ていた。

キャッシュカードのような、黒い磁気のラインは入っていない。

一体何のカードなのだろう。

兎に角、このカードには今のところ特に意味はないようだ。

箱に戻し、隣の眠り姫に目をやる。

うう、やりたきゃないけど見てみなきゃわかんないのか・・・。

人形をそっと掴む。思ったより肌の部分がやわらかくて何故かドキッとする。

強く握らないように慎重に箱から取り出した瞬間。

彼女の背中からピンのようなものが抜けて、眠り姫は目を覚ました。


「―――っ!!」

突然手の中で目を開いた人形に、声も出ず驚く。

人形は目を開くと、俺には聞き取れない速度で何かを呟きだした。

同時に彼女の瞳の中を英字が高速でスクロールしてゆく。

驚きで固まってしまい、何も出来ない俺たち。

十秒弱でそれはおさまった。

「・・・・・」

「・・・・・」

誰も何も言いません。

高速で文字が流れることもなくなった人形の瞳が俺を正面から見据えた。

「え、えっと・・・」

「網膜スキャンを開始します」

喋った!と驚くまもなく、彼女は俺の掌からふわりと飛び立ち、俺の(文字通り)眼前でぴたりと停止した。

なんだこいつ浮いてる。そういえば彼女の背中のあたりに何か浮いてるなーなんて考えた瞬間。

「えいっ」

彼女の掌が俺の左目に炸裂した。

「―――ってぇッ!!」

思わず叫ぶ。いやいや、誰だって眼球直タッチされたらこれくらい当然朝飯前ってやつだろう。

「痛ぇな!いきなり何すんだよ!!」

左目を押さえながら猛抗議。それに対するお人形さんの反応。

「網膜。及び声紋スキャン、終了しました」

シカトかよ。

網膜と声紋のスキャンを終了したらしい人形は再び俺の掌に収まり、キリっとした表情で俺を見て言った。

「本人確認97%終了。『剣耶零一』様と認識してよろしいでしょうか?」

「つる・・・なんだって?」

剣耶(つるぎや)零一様です。誤認ございませんでしょうか」

確かに俺は零一様であるが、つるぎやなんていう苗字ではない。

黒澄姓は叔父さん夫婦に引き取られる前からの苗字だと聞いていたし・・・。

「・・・えっと、違います、よ?」

控えめに言うと、人形は首を横に傾げたまま言った。

「そんなはずはありません。網膜、声紋共に剣耶零一様のデータと一致します」

「そういわれてもなぁ・・・」

なんかの手違いで俺の情報でも紛れたんじゃないだろうか。

少なくとも俺は初対面の相手の眼球を潰しにかかる人形を送ってくるようなところに心当たりはないわけだし。

考えながら人形に目をやると、彼女は俺の右手の人差し指を両手で掴み、彼女の体、言っちゃえば胸の辺りに押し付けていた。

なるほど。さっきから感じていたやわらかさの正体はこれか。

つうか、機械なのにやわらかいところはやわらか




突如感じた悪寒に振り返ると。




「・・・ひそひそ」

「・・・ひそひそ」

「・・・・・・・・・・・」

「えぇーっ!そうなの?そうなの!?」

と、仲良く内緒話なんぞしている四人組みがそこにいたわけで。

「ちっ、ちがいます!違うんです!話を聞いてください!」

なんかついさっきに言ったような台詞だな。

「ちょっ!お前も!何してんだよ!」

人形に向かって言うと、人形は屹然とした表情で

「指紋照合完了。『剣耶零一』様のデータと99.89%一致しました」

なるほど指紋照合かぁ。って。

「・・・もっと他にやり方があるんじゃなかろうか・・・・・・」











一段落して。

必死の弁解の末、桜さんたちの誤解はなんとか解けたようだ。

・・・うん、解けてたらいいなぁ。

「・・・で、結局アンタはなんなのよ?」

ソファに腰掛けた桜さんが少女に尋ねた。

「私は総合戦闘支援ユニット、認識番号TLM-8700-『ティルミット』と申します」

俺のひざの上あたりでふわふわ浮いている少女―ティルミットが答えた。

「戦闘支援ユニット・・・?」

「はい。私は使用者の戦闘中のサポート及び戦闘そのものの支援を行うために製造されたものであります」

なんだか俺の間近で俺にはわからない世界が展開しているようだ。

戦闘とかサポートとか。なんか物騒だなぁ。

有珠の次は茜さんが質問をした。

「それで、誰があなたをここへ送ってきたんですか?」

「申し訳ありません。ここへ来る以前のメモリーにはロックが掛かっているので、皆さんにお話しすることはできません」

「零一くんにも、ですか?」

「そうプログラムされています」

静まり返るラウンジ。なんとなく気まずくなって、俺が質問をした。

「・・・えっとさ、俺のことを剣耶って苗字で呼んでいたけど」

「はい。あなたのデータは『剣耶零一』様でインプットされています」

「下の名前に間違いはないんだけどさ、俺の苗字『黒澄』っていうんだよ」

言うとティルミットは少し首をかしげた。

「・・・しかし、あなたは」

「うん、だからさ、多分間違って俺のデータが入っちゃったんだよ。送り主が住所とか間違えて―――」

「それは有り得ません」

ぴしゃりとティルミットは言い切った。

「そのようなことがあるはずがありません。了解しました。ではあなたのデータを『黒澄零一』様で再入力します」

「・・・・・・」

そんな簡単にデータ変更しちゃうんですか。

「ねぇねぇ、んでさぁ」

再び桜さんからのクエスチョン。

「その戦闘支援する機械が、何故に零一くんのところに届いたのさ?」

もっともな質問である・・・単なる悪戯か宅配ミスとしか思えないけれど。

するとティルミットは

「はい。私はマスター・・・黒澄零一様に『使っていただくため』ここに参上いたしました」

と答えた。




いや、普通だったらホラあれだ。

『俺がキミを・・・使う・・・?』

とか武器的な意味で驚くシーンなのかもしれないけれど。

「『使っていただく』・・・!?」

「何に・・・?」

「なにに・・・?」

「ナニに・・・!?」

ホラなんかもうさっきと同じような情景が・・・!!

突然喋って動くオーバーテクノロジーが送られてきたってのに!この人たちは!

「ちょっと!俺がこの娘を何に使うと思ってるんですか!」

「ナニに使うと思ってるなんて大声で言うな!」

言ってません!心の底から言ってないッス!

そんなやり取りが延々と続き、結局この日も部屋のダンボールは片付かないのであった。まる。








拝啓、大悟叔父さん・亜樹叔母さん・みちる、お元気ですか。

俺がかがみ荘に越してきてから何日か経ちました。

住人の皆さんもとてもいい人たちばかりで、毎日がとても楽しいです。

さて、話は変わりますが。

住人の皆さんの誤解の種となった人形の送り主に心当たりはないでしょうか。

いきなり送られてきてかなり困って、もとい弱っています。

もし心当たりがある場合はすぐにそちらに送り返すので教えてください。

よろしくお願いします。

敬具          零一


追伸:本当に弱っています




つづく




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