ウネルマ
気がつくと、私は星の上に居た。
周りには同じ様な人たちがごまんといて、その星は丸く光っているものからくすんだ緑色をしたとげとげまで、三者三様……ではないか、まさに千者千様といったところだ。
当の私はというと、幼児がクレヨンを握って三秒で描いたような、黄色の頼りなく薄っぺらい星だった。まさに線であるが、しっかと立てるところから言って、さすが夢といったところか。そこまで考えて気づいた。というか、気づいていたことに気づいた。
これは夢か。
「やあ青年。ご機嫌如何かね?」
唐突に、いつの間にか近寄られていた中年のオヤジに声を掛けられた。どこかで見かけた気がするが、どうにも思い出せない。
「いやー君ねえ、トンデモないこと、してくれてるよねえ」
男は一方的に続ける。
私がわからない、と言った風に首をかしげると、更に男は続けた。
「月を堕とそうって考えてんだろう?
おっと、嘘の必要は無いぜ、ここ皆、周知の事実だ。なあに、邪魔はしないさ。だがなあ、あの子は手強いぞ?」
ほれ、と男の示す方向に目を向ければ、なるほど、少々幼い印象の女性が、三日月に腰かけている。よく見ずともわかる、あの女性は。
「俺ぁ、あんなツンツンした娘、好かないがなあ……。
まあ、告白頑張れや」
「いや、それはもう済んでます」
「……ほお?」
男は面白そうに眼鏡を定位置に直す。
「私みたいな男には興味ない、らしいですよ。諦めない権利だけ貰ったんで、まあ気長にいきます」
そう言って再び彼女を見上げると、向こうもこちらに気づいたようで、にやり、と口角を上げた。そして、私に向かって舌をべーっと出すと、ふいとそっぽを向いてしまった。
「ありゃ、驚いたな」
「驚くも何も、しょっちゅうこんなんですよ」
「そうかそうか。いやあ、俺ぁあの娘が男に反応を返すのは、初めて見たがなあ」
「っ、え?」
思わず勢い良く振り向く。しかし、しまった、と思うより早く、自分の眼鏡が耳から抜けていった。
「はっはっは、焦りすぎだぜ、青年。
ほらよ、俺のをやるから、あの娘んところに流れてきなっ」
男は、自分の顔から私のと全く同じ眼鏡を取りさり、私にとりつけた。そして礼を言う暇もなく背中を押され、私は月へと向かう流星になった。
***
目が覚める。時計はいつもどおりの時刻をさしている。手早く着替え、ネクタイを締めると、夢の内容はもう朧げに思い出せるだけとなった。そして、いつもどおり出社して、いつもの席についた。
少し向こうを見ると、女子社員たちが雑談に花を咲かせている中で、ひとりだけ、ツンとした表情で話を聞いている、少々幼い印象の女性が居た。覚えずじっと見つめていると、向こうもこちらに気づく。
私がよほど変な顔をしていたのか、私を見るなり、その女性が吹き出す。そして、べーっと舌を出すと、ふいとそっぽを向いてしまった。
いつもより幾分、ご機嫌な表情で。