バレンタイン編④ 瞬視点
沙織の手作りチョコが食べたいっていうとプレッシャーになってしまいそうだったから言わなかった。
でも、バレンタイン当日を迎えたらもしかしたら沙織からチョコをもらえるかもって思うと嬉しくて、だから社内の女性からのチョコは全て断った。
でも、1日が経っても沙織からチョコをもらえなくて落ち込んでたら
「渡したいものがあるの!」
って沙織が走ってきた。
もらえないと思ってたから嬉しくて。だけど。
「……潰しちゃった」
前のめりに倒れた時に手に持ってたガトーショコラが下敷きになって板状に潰れてしまった。それを沙織は呆然と見つめたまま
「……」
無言で。じっと見つめたまま涙を流した。
一度降り出した涙はとめどなく
「っ……あああ」
ふり続けた。そして沙織は泣きながらぼくを見て
「ごめん。ごめんね」
って本当に申し訳なさそうに謝った。
「……」
沙織がなにを思って泣いているのか、正直にいうとわからなかった。だからなにをしてあげたら涙を止めてあげられるのかわからなかった。
「ありがとう」
でも、それでも沙織がぼくのために頑張ってガトーショコラを作ってくれたことはわかった。
「いただきます」
だから沙織からガトーショコラをもらって食べた。
「へ、変な味しない?まずくない?」
ぼくがガトーショコラを食べたら沙織はアワアワして心配しそうに聞いてきた。
「大丈夫。美味しいよ」
だけど沙織が心配するほどひどい味なんてしなかった。むしろ甘さが控えめでカリカリしてて美味しかった。
「本当に?」
それでも心配なのか聞いてくる沙織にぼくは
「うん。本当に美味しいよ」
「本当の本当に?」
「本当の本当に美味しいよ」
納得するまで伝えた。
「よかったあ」
すると沙織は大きく息を吐いて安堵した。
そしてよほど疲れていたのか
「っと!」
眠ってしまった。ぼくは慌てて沙織を抱き止めた。
「ふふ。おいしいって」
そんな沙織はぼくの腕の中で幸せそうに
「よかったぁ」
嬉しそうに寝言を言っていた。
「お疲れさま」
ぼくは抱き止めた沙織をソファに寝かせた。
「ありがとう」
とぼくが耳元でいうと
「へへ」
眠りながら沙織は照れくさそうにしていた。




