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バレンタイン編③ 沙織視点

「はぁぁ」


チョコを渡せないまま定時を迎えてしまった。


"佐藤くーん!"


1日のどこかでなら渡せると思ってた。


"私のチョコをもらって!"


だからシュンが1人になる隙をうかがっていたけど、常にチョコを渡そうとする人があとをたたず、渡せないまま残業中。


(渡せなかった……)


足元にあるバッグから見えるガトーショコラが目にうつるたびに、のんきに渡すタイミングを伺って行動しなかった自分への悔しさが込み上げてくる。


(はぁぁ)


でもそう思う反面、シュンにチョコを渡そうとするたびに目にした他の人たちのチョコがあまりにも綺麗で、それと比べると私のチョコはあまりにも不格好すぎだった。


(大事なことは想いがこもってるかどうかだってわかってる)


それでも。


「はぁぁ」


ため息ばかりが溢れる。


(なんで)


シュンへ「ありがとう」を伝えるなら、別に市販の綺麗なチョコを買って渡せばよかった。そのときにいえばいいだけだろうに。


(なんで手作りにこだわったんだっけ)


そう自分に問いかけてわからないふりをしてみるけど答えなんて知ってる。


(……その方が伝わるって思ったんだよね)


言葉だけじゃなくて「ありがとう」って想いを本気で伝えたかった。


「……ふぅぅぅ」


伝わってほしかった。

だからわたしはこだわった。


「……」


私は無言で椅子から立ち上がるとバッグからガトーショコラを取り出して、エレベーターホールへ走った。


「佐藤くん!」


そこにはちょうどエレベーターに乗ろうとしていた瞬がいたので呼び止めた。


「沙織さん?」


瞬は私をみるとエレベーターから降りてきてくれた。


(ふぅぅ)


本人を目の前にした途端に緊張で体がこわばった。でも、渡すためにここへきた。だから私は瞬に駆け寄って


「渡したいものがあるの」


手にしていたガトーショコラを渡そうとした。そのとき


「っ!」


両足がもつれて前のめりに転んでしまった。


「沙織さん!」


けど、瞬がすぐに抱き起こしてくれた。

それに派手に転んだのに鼻血も出てないし

痛いところもなかった。


「……」


でも、手に持っていたガトーショコラは板状に潰れてしまった。

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