俺に癒しを!#1
とあることをきっかけに人生が悲惨という言葉では
測れないほどに不幸となった男、山田 勇気。
しかし彼はそれまでの不幸を物ともしない大いなる
運命に巻き込まれることとなる。
さあ、目覚めなさい…ここからがあなたの人生なのですから……!
俺の名前は 山田 勇気。17歳。
俺の人生は大変冴えない。何ひとつついていないのだ。
いや、言い方が悪かった。ついているついていないでは測れないほどに不幸だ。それでも…
…思えばこのついてなさの発端は母の死からかもしれない。それまでは幸せだったと思う。
4年前、母は突然死んだ。
俺の両親は俺でもわかるくらい地域でも有名な仲良し夫婦だった。しかし、俺が小学校を卒業した頃に母は突然倒れ、医者にも原因がわからずそのまま死んでしまった。温厚だった父はそれからとても荒れてしまい、父自身もそんな自分が嫌になったのだろう。中学から帰ったある日、自室で首を吊っていた。
それからは本当に地獄だった。少し前まで
「頼りにしてね!」と笑顔で言っていた親戚の大人たちは、みんな酷い目でこちらを見た。
楽しい会話や出来事もたくさんあったのに……
俺の身の上話はここまでにしよう。ここまで話したことは俺の中では1番大きな「ついてない」。
いや、本当についていないんだよ。
高校には親戚がいやいや行かせてくれてる。
高校にも事情を話したらわかってくれて、ちょっとした援助もしてくれた。それはついていた。
しかし、その高校では毎日、小さなついてないが100回近く起きる。親戚にまた嫌な目で見られたくないから、大きな問題は一度も起こしたことはない。
それでも、異常だと思うぐらいに、ひどい。
ある日には不良にぶつかりタコ殴り。
ある日にはアイスを服に落とす。
母の死がどうでもいいぐらいに………!
「ついてねぇんだよぉーーーーーっ!」
思わず叫んだ。
「うるせーぞガキィ!」
学校帰りにいつもいるジジイからの怒声を浴びて、帰宅。これも日常さ。飯食って、茶碗落として、歯磨きして、顔に水浴びて、テレビ見ようとして、リモコンの電池がどっか行ってて、探してタンスに小指ぶつけて、見つけて、電池切れで、諦めて寝ようとしたら布団にカメムシついてて、なんとか追っ払ったと思ったら今度はムカデが入ってきて、こっちもなんとか追っ払って、やっと寝れた…………!
…久しぶりに、母さんの夢を見たんだ。
静かな秋の朝日が顔を照らした。
起床。何も起こらない!レアケース。
着替えた。何も起こらない!レアケース。
朝食。何も起こらない!これまたレアケース。
歯磨き。何も起こらない!レアケース。
外へ出た。何も起こらない!レアケース。
なんでだ。きっとこれは普通なのだ。なのに、、
涙が止まらない。うぅぅぅ。涙のせいで前がよく見えねえよお。ああ、神様。やっと俺のこれまでの苦労をわかってくれたのですね!
ビバ、人生!
「るんるんるん、おれはついてる男だーーッ!」
俺の頭の中には絢爛豪華な花が咲き、17歳の青春をめいいっぱい味わおうとしていた。
………そのときだ。
「ビーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
突如鳴り響くクラクション。うるさいなと思ったが
ふと振り向くと、眼前にすでにトラックはいた。
「ぅう、がっ、うぅ」
俺はトラックに轢かれた。何だよ。何なんだよ。
神様とやら。やっと俺は普通になれたと思ったんだよ。なのに……なのに…
腕の感覚がない。溢れてくる涙は、痛みでもあり、何より悲しみと悔しさであった。
「こんな、こんなクソみてえな世界、滅びちまえばいいのにな…」
俺が最後に発した言葉は、世界への怒りだった。
どこからか、音が聞こえる。静かに、そして近づいてくるような。