第六話 どうでもいいや! そう思うことで全てを諦めることができるのだ
「──は?」
刺された?
え、なんで?
痛い痛い痛い、痛い。
死ぬ? 死ぬのか?
「──っ?!」
そんなくだらない事を考えていたら、背中にも激痛が走った。
抉られるように痛む。息を吸おうと空気を取り込むが、上手くいかずに咳き込んで空中に血が飛び散った。
「ヒャハッハッ!! 油断したな!! よくやったぞ、ローズ!」
背後から笑い声がした。
振り返ると、男が血塗れのナイフを持って立っている。
僕は見た──。
あの二人は、まだ地面に転がったままだった。
どうやら、まだ三人目がいたらしい。
本当に、油断した。こんな魔法も使えない奴らに……。
その男は、前歯に刺さった金歯を輝かせるように笑っている。
金歯の男は、その女をローズと呼んだ。
僕は、疑問をぶつけた。
「……なん……で?」
なんで、僕を刺した? どうして?
そうやって、声を発することすらも痛かった。
「肺辺りを刺したからな、そのうち死ぬだろ。ご苦労さん。これが、俺たちの生きていく術だ」
「そう、魔法の使えない私たちはこうやって、金持ちを騙して、殺して、そして、金を奪って生きている。初めはどうなるかと思ったわ。あなた冷たいんだもの! 普通すぐ助けるでしょ! 顔がいいだけじゃモテないわよ! ってもうすぐ死ぬ人間に言っても無駄か」
僕に比べて、饒舌に話した彼ら。さもそれが当たり前であるかのように、そう語っていた。
「……ははは」
僕は急に可笑しくなって、笑いが溢れてしまった。頭がおかしくなったのではない。この状況に可笑しくなったのだ。
魔法も使えない奴らに、金を奪われるためだけに刺された僕。
滑稽だと思った。
金持ちなら誰でも良かった、ね。たまたま僕だったと言うわけか。
──僕は本当に運が悪いよね。
笑ったらなんだか一気に気が抜けてしまった。もう立っていることすらできないらしい。
僕はそのまま、まるで電池が切れたおもちゃみたいに膝から崩れ落ちてしまった。
「さっさと、金目のものを奪ってずらかるぞ!」
「ハハッ! やっぱりこの子、めちゃめちゃ金持ちじゃない! ラッキー! 今日は豪遊できるぅー!」
嬉しそうなその声。
薄れていく意識の中、そんな会話が聞こえてきた。最後に聞く言葉が、こんな腐った内容だとは思いもしなかった。
これだから、面倒なことに巻き込まれるのは嫌なんだ。
この路地裏に入らなければ……いや、そもそも今日出かけたことが間違いだった。
なんて、今更後悔しても意味ないか……。
面白いことに、この世界に回復魔法は存在していないので、不老不死じゃなかった僕は、このまま傷も治らずに死ぬだろう。
──まあ……それならそれで、別にどうでもいいかな。
さようなら、僕の面倒な異世界生活──。
真っ赤な血溜まりが、広がっていく光景を最後に、僕の視界は闇に包まれた。