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第五話 僕は嫌でも周りが許さない

 街に出掛けるたびに、何かのトラブルに巻き込まれることが多かった僕。


 僕の性格上、めんどくさいことに巻き込まれることが好きじゃない。


『めんどくさいことをするくらいなら、死んだほうがまし! でも、楽しいことなら面倒でもする!』これが僕のモットーなのだ。


 だから、必要な時以外は街に行かない。


 でも、遂にその必要な時が来てしまったみたい。


「はぁー、飽きたなー」


 そう、一大事である──読む本がなくなってしまった。


 僕は読書が好きだ。特に魔導書を読む事がね。


 僕は、金持ちの家に生まれてしまったせいで、その教養や、作法とか、面倒なことを教え込まれていた。


 そんな僕にとっての唯一の息抜きが、読書だったのだ。


 そんな僕は、書庫に存在している本を全て読み終えてしまった。


 僕は面倒なことを避けるために、外に出ることを避けてきた。しかし、今日それを辞めて新しい本探しの旅に出ようと思う。


「よし、街へ出かけよう!」


 外に出ると、もう夕陽が落ちそうだった。


「そこの彼? 私の店で遊んで行かない?」


 しばらく街を歩いていると、綺麗なお姉さんに声を掛けられた。


 そのお姉さんは、なんとしても僕を、その店の中に引き摺り込みたいらしい。永遠にセールストークを聞かされている。


 僕が、それとなく迷惑そうに接しているというのに、それでもとてもしつこく付き纏ってくる。


 その店の名は、『如何わしい店』というらしい。


 僕はなんとか振り切って、路地裏に逃げることができた。


 まったくめんどくさい。


 しかし、一難去ってまた一難という、まさかのルートに足を踏み入れてしまったことに気がついた。


 二人組の男に、金髪のロングヘアで赤い服を着た、若い女の人が襲われていたのだ。


 僕はその路地裏に入ったことを後悔した。


「や、やめて!」


 薄暗く、ひとけのない路地裏でその女の人の声が響いた。


 一体この人たちはこんな場所で何をしているのだろう?


 と思ったけど、やっぱりどうでもいいし、巻き込まれたくもないから、僕は無視をして彼らを通り過ぎた。


「助けて! お願い! 助けて! 殺されてしまうわ!」


 殺されてしまいそうには見えなかったけど、どうやら彼女は、誰かに助けを求めているみたいだね。後ろでそう叫んでいるのが聞こえる。


 きっと誰かが助けてくれるよ、お姉さん。


 と、そう思っていたら、誰かに無理やり腕を引っ張られた。


 そして、そのまま獲物の餌のように、僕は二人組の前に差し出された。


 まだ本屋を見つけられていないというのに、なんでこう面倒なことばかり起こるのだろうか──僕はその目の前で光り輝く禿頭を眺めていた。


 僕を生け贄に差し出した人は、襲われていた女性。そして、その彼女は、勝手に僕の後ろに隠れている。


「なんだてめぇ! こいつの知り合いか?」


 右目に傷のある禿げた男が、そう話しかけてきた。片目でガンを飛ばしてきている。禿頭が妙にイカつい。


「いや、知り合いじゃないです。それじゃ」


 僕は、面倒くさいのでその場から立ち去ることにした。女の人の手を振り解き、踵を返して目的地へと向かう。


「彼氏です」


 女の人が、立ち去ろうとする僕の腕を引っ張ってそう言った。


「彼氏なんです。ね?」


 ね? じゃないよね。


「初対面です」


 僕はそう即答したが、どうやらこのハゲには言葉が通じないらしい。


「そうか、じゃあお前に代わりに払ってもらおうか」


 と言っている。


 そして、ハゲはナイフを持って、襲いかかってきたではないか。まるで、話の通じないチンパンジーを相手にしているようだった。


 僕は、少し気に障ったので、それをかわしてハゲの腹に渾身の一撃を喰らわせてやった。


「──グエェッ!!」


 魔力を込める必要もなく、ハゲはそう気持ちの悪い声をあげて、地面に突っ伏した。


「なるほど、抵抗するというのか! 死ねぇーー!」


 残ったもう一人の小柄な男が、何も持たずに突進してきた。


 なんだか可哀想になったので、魔法でテキトーに吹き飛ばしてあげた。小柄な男は、宙を舞い、それから地面に倒れた。


「……」


 どうやらこの人たちは、魔法が使えないらしいね。


 この国ではそういう人の方が多いのだ。


「ありがとうございます!!」


 拍子抜けしていると、女の人が駆け寄って来てそう言った。


 目を輝かせて、僕を見ている。僕の嫌いな眼だった。


 結果としてこの女を助けた形になった訳だけど、彼氏って嘘は良くないよね。謝罪はないの?


 と、思っていたら、


「あなた強いのね! かっこいいわ!」


 そう言って、いきなり僕に抱きついてきた。今日はどうやら、とことんついていない日らしいね。


「もういいから、離れてくれますか?」


 しかし、なかなか離れてくれない。


「本当にありがとう……!」


「……え?」


 ──痛い? え?


 なぜか、急にお腹に激痛が走った。冷たい何かが、電流を流すみたいに皮膚に入り込んでくる。


 それから、それが抜き取られると、何か温かいものが僕の肌を伝うのが分かった。


 何が起きたか解らない。解らないが、僕は彼女を突き飛ばして離れた。


 女は、微笑んでいた。


 その手に握られているナイフが、赤く染まっている。


 自分の腹を確認した。


 やはり血が出ていた。


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