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第十四話 どうやら、現実と向き合う瞬間が訪れたようだ

「だから、まずはこいつから始める」


 そう言って、大柄な男が僕の胸倉を掴み、そのまま地面に叩きつけた。


「やめろ! 俺から殺せ!」


 リアムがそう叫ぶが、そんな言葉など聞くはずは無い。


 そして、仲間達は、危ない器具を用意し始めている。


「そいつは関係ないって言ってんだろ! やめろ!」


 僕は男に首を絞められた。


 落ちるか落ちないか、その狭間を行き来する程度の力で──。


 大柄な男なだけあって、無駄に身体が大きい。上に乗られると、内臓が飛び出るかと思うくらいに重かった。


「お……重いっ」


 どうやら、傍観するのはここまでのようだ。嫌でも当事者になってしまっている。


 僕は、魔力封じの手錠で縛られているので、魔法は使えない。全て魔法で吹き飛ばしてしまえれば、どれだけ楽だろう。もはや、抵抗することも面倒なこの状況。


 ──本当に、めんどくさい。


「おいやめろ!!」


 魔法が使えないとなると、体術でなんとかするしかないけど……敵は多い。面倒だな。


「おい! やめろって!!」


 僕の酸欠になった脳に響く、リアムの鬱陶しい声と、モブ達の鬱陶しい歓声。


「す、すまない、ムエルト。俺のせいだ。ムエルトが本を好きなことは前から知っていたから、読ませたくて……ほら、読んだことがない本を探していただろう?」


 首を絞められている僕に向かって、リアムがそう言った。彼が今呆然と何もせずに僕を見ているのか、それとも少しは助けようと努力しているのか、僕からは見えない。そんな、彼がそう言った。


 前から知っていた? 僕が本を好きだと言ったのは今日だぞ。それに、本を探していることもリアムには話してないのに……。


 まあ、そんな事はどうでもいいか。


「友達のためだろうと、悪いことをしちゃいけねぇーな!」


 そして、その手に力が込められる。僕の首は締め付けられ、酸素の取り込み口がさらに消え去った。


「っ……」


 ──色々、苦しい。


 とその時、男の手が僕の首から離れた。


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ──!」


 僕は咳き込み、それからようやく気道が整った。


 そして、休む暇もないまま、


「次の拷問をしよう! 拷問といえば、爪を剥がすものだろう? どう思う?」


 彼の目は輝いていた。どうやら、本気らしい。


「爪を剥がされるのは初めてかな」


「そうか! なら、良かった!」


 嬉しそうに笑った大柄な男が、僕を押さえつける。


 爪を剥がされるのは流石に嫌だ。なぜなら治るまでの生活が面倒くさそうだから。


 それに、僕にそういう趣味は無い。だから抵抗することにする。


 僕は、その大柄な男の首に足を絡ませて、思い切り力を込めて捻った。すると、鈍い音と共に、男は一瞬にして動かなくなった。


 それからは早かった。次から次へと襲ってくるモブ達を蹴り飛ばして倒した。


 終始うるさいリアム。


 手を後ろで拘束されているので、動きにくいが、攻撃を交わしながら攻撃を返す。その繰り返し。まだまだ襲いかかってくる。


 それをうまく交わして倒し続けた。たぶん十人以上は地面に転がったと思う──。


 残り、たぶん八人くらい。


「おい! ガキ! 止まれ!」


 攻撃の中、そんな声がした。


 見ると、リアムがいた。そして、彼は男にナイフを向けられている。


「動くな! 動いたらこいつを殺す! 反撃しても殺す!」


 それは、面倒くさい。


 でも、僕はリアムを助けてあげることにしたらしい。


 こいつが僕のためにその本を盗んだというのなら、僕にも責任があると思ったから?


「ムエルト! 後ろだ!」


 リアムのその声と同時に、頭がひび割れるような激痛が走った。


 その瞬間、僕は倒れてしまった。


 ──殴られた? 


 僕を殴ったであろう奴を見ると、手には、血のついた金属の棒が握られていた。


「俺たちは魔法が使えないからな! 卑怯だと思うなよ!」


 血がポタポタと、コンクリートの地面に染み込んでいくのが見える。


 ──どこかで見たような光景だな。


「大丈夫か!! ムエルト!! おい!!」


 頭に響くから静かにしてほしい。


 そう思った時だった。


 頭の痛みが引いていく──。


 それが本当に治ったのか、見て確かめていないので分からないが、何となく感覚で治ったと感じた。


 僕の淡い期待は、彼の凶器によって一瞬で壊されてしまった。


 僕はやっぱり、不老不死だったみたい。


 落ち込む暇もないまま、お腹に蹴りを入れられた。


 内臓が熱くなって、それが上がってきた。地面に吐き出されたそれは真っ赤に染まっている。


 でもやっぱり、しばらくすると痛みは消えていった。


 僕の脇腹を叩き潰す、その鈍器。骨が音を立てて壊れるのが聞こえた。


 四方八方からの打撃と共に、僕の不老不死への疑惑は拭われていく──。


 足の骨が折れようと、腕の骨が折れようと、内臓が破裂しようと、残念なことに傷はすべて治ってしまった。


「頭を殴られて、ここまでボコられてんのにまだ意識があるなんてな!」


 誰かがそう言った。


 血は付いたままだからか、興奮して冷静さを失っているからなのか、彼らは傷が治っていることに気がついていないらしい。


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