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第十三話 世界は面倒で溢れている

 入学から暫く経ったある日のこと、僕が本を読むのが好きだとリアムに話すと、「じゃあ僕の家においでよ」と招待された。


 リアムというのは、僕と同じクラスの男子生徒なのだが。


 もちろん、行くつもりはなかったが、「俺の家にも小さな車庫があるから来ないか」と、僕をゆすってきた。


 当然、僕は行くことにした。


 未知なる本を求めている僕にとっては、書庫という響きに胸を躍らせるしかなかった。


 それなのに、なぜか僕たちは捕えられ、尋問を受けている。


 事の発端は、リアムがお姉さんの勧誘に負けてしまったこと。


 彼の家に向かう途中、お姉さんの誘惑に負けたリアムの道連れで、その『如何わしい店』に連れ込まれた僕。


 そこで、出されたドリンクを僕は飲んでしまった。僕の好きな甘い飲み物だったために、飲み干してしまったのだ。


 その結果、今この状況。


「俺たちのお嬢様から盗んだ本を返せ!!」


「な、何を言っているのか分からないな」


 リアムは、明らかに動揺してそう答えた。


 先程から続いている、このようなラリー。


 僕が最後に見た光景は、空になったグラスと、ボヤけた視界に映る歪んだリアムの顔。


 そして、僕の手に掛けられようとしている手錠。


 そこまで……。


 その後はおそらく眠ってしまったのだと思う。


 たぶん、あのドリンクに睡眠薬でも入っていたのだろう。


 目が覚めると、僕たち二人は、後ろ手に手錠をかけられて地面に転がっていた。


 しかも、この手錠には面倒なことに魔力を封じる力があるようだ。


 眠らされる前に居た場所とは違って、廃墟感満載の建物に僕らはいた。


 コンクリートの壁に囲まれたその冷たい部屋に、二十代から三十代ぐらいの様々な男達が居る。それも、二十人くらい。


 そして、彼らは、僕たち二人を獲物を見るように眺めている。スリル満点だ。


「エミリーお嬢様が、苦労して手に入れた『拷問完全攻略本』だぞ! 世界に一つしかないレア物なんだ! 早く返せ!!」


 ──わーお。


 地面にあぐらをかいて座っているリアムを見て、男は怒鳴っている。


 その男は、この中でも若く、そして大柄な奴だった。


 僕はリアムと同じように座って、それを隣で眺めている。


 どうやら彼らは僕ではなく、リアムに用があるようなので、僕は傍観することにしたのだ。


「俺がやったていう証拠でもあるのかよ!」


「証拠はない。だか、証言ならある!」


「なにっ!!?」


 ──ほほう。


「我々は、お嬢様が本を無くされた付近で聞き込みをした。そしたら、赤い目をしていて、ブロンドの髪色、そして、目の近くに黒子のある男が本を拾うのを見た、と」


 ──へぇー。


 僕は隣にいるリアムを見た。


 顔から大量の汗を流している。


 証言ともピッタリ一致する容姿だった。


 どうやら、こいつが盗んだらしい。


「新しい実験材料を仕入れようとしたら、たまたま、証言に似たお前が店に入って来たんだ。やっぱり、我々は運がいい!」


「実験材料? お前たちは何者だ?」


「我々は、クルーエル教団の一員だ! お嬢様はあの方の為に、日々頑張っておられるのだ! そんなエミリーお嬢様の本を盗むとは……絶対に許せない!!」


 ──クルーエル教団……なんか、聞いたことあるかも?


「さあ、早く本を返せ! さもないと、このお友達を殺すぞ?」


 そう言って、大柄な男が僕にナイフを向けてきた。


 ──なるほど、僕は人質役としてここに連れてこられたんだね。


「やめろ! そ、そうだよ! 俺だよ!」


「やはりそうか!! この盗人が!」


「でもな……盗んだんじゃ無い。道端に落ちていたのを拾ったんだ! 面白そうな本だったから持って帰ろうと思って……」


「拾った? だと? 拾ったも、盗んだも同じだ! いいから、さっさと本を返せ!!」


 大柄な男は、激怒してそう怒鳴った。そして、僕に向けられていたナイフの先は、リアムへと向けられる。


「……悪いが、返せない。なぜなら……何処かへ無くしてしまったからだ!」


「なん……だと!?」


 自慢げにそう話したリアム。


 それを聞いて固まる大柄な男と、周りのモブたち。


 そして、リアムは開き直ったように淡々と話し出した。


「実は……、持って帰る途中で転んじゃって。そしたらいつの間にか本が川に流れていったみたいなんだ。だから、本が今何処にあるのか俺は知らないし返せない!」


「馬鹿かっ! どんくっさっっ!! ……なんてことだ! お嬢様になんと言い訳すれば……!」


 大柄な男は、まるで噴火した火山が静かになっていくようにしょぼくれた。


 場に沈黙が流れている。


「よし!! こいつらを殺そう! そうすれば、お嬢様の気も収まる筈だ! 我らの首も飛ばなくてすむ!」


「え?」


 大柄な男は現実から目を逸らすかのように、馬鹿になってそう話した。


 その言葉に、今度はリアムが固まっている。


 そして、その提案に納得したように、この場にいる全員の視線が僕たち二人に刺さった。


 きっと今の僕を写真に撮ったら、呆れた顔をしているだろう。


「そうだ! 折角だから、エミリーお嬢様の大好きな拷問を、お前達に施してやろう!」


「なに?! 本を盗んだだけで殺す? 拷問? ふざけんな! それに、悪いのは俺だ! 殺すなら、俺だけで十分だろう? こいつは関係ない!」


 リアムは、そう叫んだ。


 まったくその通りだと思った。


 僕は関係ない。


 大柄な男は、僕を見ている。嫌らしい視線だった。


「こいつが不細工なら逃してやったが、顔が良いからな。きっと、お嬢様は気に入って下さる。お前みたいな奴の悲鳴は、お嬢様の大好物だからな!」


 そう言って、男は僕の顎をナイフで持ち上げた。


「何っ?! クソっ! 確かに顔は良いからな……。ムエルトすまない。俺のせいでこんなことに巻き込んでしまって」


 と、リアムはそうほざいた。


 謝罪は要らないから、さっさとどうにかしろ。


 そう思ったが、


「謝らないで、こうなったらもう仕方が無いよ」


 と、作り笑いをした。


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