表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/54

〜閑話〜 ムエルト・ヴァンオスクリタという少年

「この世界に、とある一匹の魔物が現れました。人間に憧れていたその魔物は、一人の人間に恋をしました。この童話の作者、イザベーラは、どのような心境だったでしょうか? リアム?」


 教卓の前で、スラスラと文章を読み上げる女教師。


 彼女の言葉を、子守唄のように聞いて、眠っている男子生徒。


「コラ! 起きなさい! リアム!」


 そう呼ばれた少年は、眠たそうに頭を上げる。


 リアムと呼ばれた、赤い瞳のその少年には、どうしても勝ちたい生徒がいた。


 『ムエルト・ヴァンオスクリタ』という、黒髪で青い瞳をした男子生徒。


 リアムは入学初日にその少年に試合で負けた。しかもたった一撃で。


 その時、叩き潰されたハエのように、壁にへばりついていることしかできなかった自分と、澄ました顔で立っていたムエルトという少年との、圧倒的実力差に屈辱を感じていた。


 なんとしても彼に勝ちたいと思ったリアムは、試験のテストで頭脳勝負をすることにした。


 リアムがその少年にそれを伝えると、「別に良いけど」と答えた。


 彼のその余裕さにリアムはまた腹が立った。だから、必死で勉強した。それは、リアムにとって生まれてはじめての努力だった。


 しかし、結果はリアムの敗北。


 その少年は、学年でトップの成績だった。


 またしても負けてしまったリアムは絶望した。


 リアムにとって最終奥義であるモテ度で勝負した時も、やはり惨敗であった。


 それからもリアムは、ムエルトに勝てるところを探した。


 毎日彼を尾行して、さらに二四時間監視した。


 彼の屋敷の強力な防犯システムを掻い潜るのは、とても骨が折れた。


 しかし、そこまでしても、その少年の弱点は見つからなかった。


 頭脳明晰、眉目秀麗、そして、人柄も良い。


 リアムは思った。


 素晴らしい! と。


 ここまで完璧な人間がいたとは! と。


 自分と比べて、その差に心が折れかけたリアム。


 その時、『もはや人間ではないかもしれない』そうだ。そういうことにしておこう。


 と、自分の心を守った。


 リアムは、ムエルトという少年が決して人間に格下げにならないように、これからも、記録をとっていく日々を送ることにした。


 そうすることで、リアムは『人間の中で一番強い』という妄想に浸ることができたからである。


「ムエルト! 今日もお前の居眠りの真似ができなかった!」


 リアムは、授業が終わってから、窓際の席に眠そうな顔をして座っている少年に話し掛けた。


「馬鹿にしてるの?」


 ムエルトと呼ばれた少年は、不機嫌そうにそう言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ