〜閑話〜 ムエルトのエスポワール学園登校初日。
入学当日。
僕は、馬車でその学校とやらに向かった。憂鬱な気分を押し殺し、馬車から降りると、広大な森に囲まれている建物があった。その建物は、近未来感のある造りになっている。
そして、その建物も……まあ、凄く大きいってこと。その大きな建物に、僕は足を踏み入れた。
「エスポワール学園?」
門の入り口に、でかでかと書かれているそれを読みあげていたら、何やら視線を感じた。
「見て、あの人!」
「やめなよ、聞こえるじゃない」
僕の横を通り過ぎる女子達が、僕を見てそう言っている。
入学早々、悪口を言われている僕。
その後、定番イベントが行われて、その定番イベントをテキトーにクリアした僕は、広い空間の建物の中で、テキトーに先生の話しを聞いていた。
「次は、ムエルト対リアムの対決を行う。各自挨拶して!」
と、なぜか僕の名前が呼ばれた。
どうやら、一対一での魔法対決を行うらしい。
これに何の意味があるのか知らない。僕は話しを聞いていなかったからね。
対戦相手は、赤い目をした目つきの悪い男子生徒。
僕と彼は向き合って立っている。そして、僕らの周りを囲むようにして、生徒達が見物していた。
「ムエルト・ヴァンオスクリタです。どうぞよろしく」
僕がそう言うと、なぜか悲鳴が上がった。余程、変な名前だったらしい。
「戦闘開始!」
先生の開始の合図早々、彼は走って向かってきた。
そして、彼の右手には炎が宿っている。
それを、何か叫びながら放ってきた。
僕は普通に避ける。
「やるな!」
彼は、嬉しそうにニヤついていた。気持ち悪いなと思いながら、彼の攻撃を避け続ける。
しかも、彼はよく分からない技名をブツブツと呟きながら炎を放っているのだ。
なんか耳障りなので、魔法で思いっきり吹き飛ばしてやった。
「ーーーーグワッァ!!」
彼は、ハエ叩きで叩かれたハエのように壁にこべりついた。
それを見ていた、先生や生徒たちが口を開けて呆然としている。
静まり返るこの状況。どうやら、まずい事をしたらしい。と、思っていたら、歓声が湧き起こった。大丈夫だったみたい。
試合は僕の勝ち。
勝ててよかった。
それにしても、この国で有名な魔法学校に通っている生徒……の割には、弱かった。
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「私クロエっていうの! よろしく!」
教室へ戻り、自分の席に座っていると、そう話しかけられた。
見ると、水色の髪色をした、ロングヘアの女の子が僕を見て微笑んでいる。
自己紹介はさっき済ませたのに、なぜまた名前を名乗るんだろう? なんて思いながら、
「よろしくね」
僕は、できる限りの愛想を搾り出してそう言った。
ーーきっと僕は、何度言われても覚えないだろうけどね。
「ムエルトって、魔法の使い方が綺麗よね」
ーー僕の名前知ってるんだ? 記憶力がいいんだね。それに、馴れ馴れしいね。
と心の中で称賛した。
「そうかな?」
「うん! 女子たちが、さっき騒いでたよー」
「へぇー」
それで、睨まれていたらしい。どうやら、彼女たちは、僕の魔法の使い方が気に入らないようだ。
「クロエでいいよ!」
「え?」
「名前、クロエって呼んでよ!」
彼女は、笑顔でそう言っている。かなり、馴れ馴れしい人らしい。
そして、気まずくなっているとーー。
「お前の名前は覚えたぞ」
さっき戦った男子生徒が、話しかけてきた。復讐でもしに来たのかな? て感じの雰囲気。
彼の腕は骨折したらしく、首から包帯を下げていた。
ーーそんなに、強くしたつもりはなかったんだけど……。
「その怪我、大丈夫?」
「……」
彼は無視である。思ったよりもクールなやつらしい。
こうして、僕の憂鬱で面倒な学校生活が幕を開けた。