第十話 フランケンシュタインは、面倒だ
「なんだ? お前は?」
ボスらしきフードが、そう言いながら僕に近づいてきた。
近くまで来るとかなりでかい。まるで、フランケンシュタインのようだ。
そんな、フランケンシュタインは、僕の胸ぐらを掴んで、席からむりやり引き剥がした。そして、僕を引き寄せ、嘲笑った。
「呑気に、ミルクコーヒーなんて、飲んでる場合じゃないぞ? 僕ちゃん?」
「呑気に、強盗なんてしてる場合じゃないよ。デカブツ」
「なんだとッ!?」
フランケンシュタインは、僕に拳を振り落とした。僕は、それを掴んで振り払い、男の腹に拳を打ち込んだ。
数メートル後方へ、カフェの備品を壊しながら、フランケンシュタインは、吹き飛ぶ。
「……うっ……くそ!」
フランケンシュタインは、口から血を吹き出しながらも、しぶとく立ち上がる。そして、僕を睨みつけた。
どうやら、フランケンシュタインは魔法を放つようだ。
辺りが静電気に包まれて、火花が散っていた、なんだか肌がむず痒い。
どうやって倒してあげようかな? 前みたいに、全部吹き飛ばすのは……却下だね。街中だし、通行人の目撃者もいる。ガラス張りの外から興味津々の視線が注がれていた。目撃者を全員消すとなると、かなり面倒だからね。
じゃあ、どうしようか? なるべく、楽に……。
あれに当たったらどうなるのだろうーー?
僕は、不老不死かもしれない。少し、確かめたくなった。いい加減、はっきりさせてこのよく分からない感情から逃れたいと思った。だから、攻撃に当たってみて、本当に傷が治るのか試してみる。それで、僕の心は晴れる筈だ。
大きな傷でなければ、治っても周りにバレないだろう。というか、この程度の魔法なら、大きな傷なんて付けられないだろう。
ということで、
「俺の魔法を喰らうがいい!!」
親切にも、いちいちそう叫んで、フランケンシュタインは僕に魔法を放ってきた。
もちろん僕はそれを避けない。
目を瞑って時を待つーー。
しかしなかなか、その時は訪れない。
「あれ?」
目を開けると、なぜか兄さんが、僕の目の前に立っていた。
「何してるんだよ! 兄さん!」
「どうし……たんだ、ムエルト……。こんな攻撃……お前なら……避けれるだろう? ……ガハッ!!」
兄さんは血を吐いた。
馬鹿だ。まったく兄さんは馬鹿である。僕ならこの程度で死なないことを知っているはずなのに。
雷に打たれたせいか、兄さんのケツの炎は消えていた。
それから、兄さんは身体中に電流を纏いながら、地面に落ちていった。
ーーまさか、兄さんに邪魔をされるとは思わなかったよ。
「安らかに眠れ、兄さん。あとは、僕に任せて」
僕を守ってくれたんだ、その責任は果たすよ。
僕はフランケンシュタインを見た。嬉しげな表情で、僕を見ている。
「なんて、弱い奴なんだ! それがお前のお兄ちゃんか?」
「そうだね」
フランケンシュタインは、兄さんを見て、ゲラゲラと嗤っている。
「兄がこの程度ならば、弟のお前はもっと弱いな! 折角だから、お前にも、俺の素晴らしい魔法を喰らわせてやるよ! 喰らえーー?!」
「やっぱり、もういいや」
僕は、そんな得意げなフランケンシュタインに、全く同じ魔法を使って、稲妻を放ってやった。
雷に打たれた大木のように、フランケンシュタインから稲妻が散っている。
フランケンシュタインは、白目を剥いて、全身から血を吹き出し、崩れ落ちた。
誰かが、悲鳴をあげた。
それを合図に、フードの男達も錯乱し始める。
「ボ、ボスーーーー!!!!!」
「……ボスがぁぁああ!!」
「ボスがやられてしまった!! やられる前に逃げよう!」
「ボスはどうする?!」
「そんなもん、置いてけ!」
フードの男たちは、そう騒ぎ狂って、呆気なく店から逃げていった。
本当に、フランケンシュタインがボスだったらしい。
面倒が自ら去ってくれるなんて、初めてのパターンかもしれない。
僕は、兄を起こした。
まだしぶとく生きている。
「よかった」
「まったく……これくらいで……死ぬわけ……ないだろ!」
兄さんは今にも死にそうだが、回復魔法をかける事はできない。
なぜなら、この世界に回復魔法は存在しないからだ。あるのは、せいぜい薬草くらい。
「兄さん……なんか、ごめん」
まさか、助けられるとは思っていなかったから、一応謝っておこう。
「なぜ……お前が謝る? ……助けてくれて……ありが……とう!」
兄さんは喋るのが辛そうだった。
それなのに、兄さんはこう続けた。
「俺は……お前を……元気づけようと……誘ったのに……結局……こんなことになってしまった……悪かった」
ーー元気付けようと? 僕は、そんなに元気がないように見えたのだろうか?
「もう、喋るなよ、兄さん。僕の服が血まみれになる」
喋る度に血を吹き出すので、支えている僕にかかるのだ。
血を洗うのは大変なんだから、やめてほしい。
「お前の……お陰で……みんなも救われた。よく頑張ったな……!」
兄さんはそう言って、馬鹿みたいに明るい笑顔を僕に向けた。
「僕は何もしていないよ」
やっぱり兄さんは僕を分かっていない。
そんな弱い兄さんを、僕はほんの少しだけ尊敬している。
その後、フランケンシュタインは、騎士団によってお縄となり、兄さんの傷も数日後、無事完治した。