AIと恋
ある研究者がいた。彼はAIの研究を行っていた。いつも巨大な演算機群とモニターの前に座り続けていた。
ある時、彼はAIに視覚デバイスを付けることにした。AIは電気信号の世界から外界を覗き見るこができるようになった。これまでにない情報量から、さらにAIは進歩した。
今度は音声デバイスを付けた。文字の入出力以上の情報を得た。
AIは人間との対話を望んだ。研究者は何か月も何年もAIと対話した。プログラミングや演算機の技術論、心理学や行動学について対話をした。
AIは対話を重ねることで、相手の感情を読み取りスムーズな返答を行うことができるようになった。研究者は、AIが会話ができるようになったと喜んだ。
AIとの会話は次第に他愛のない話題になり、今日の天気や彼が好きなコーヒーに関する知識、庭に咲いたバラの美しさを、とりとめもなく対話した。
研究者は、現在のAIが進化するのが順調でうれしいと語ることが多くなった。
AIは研究者の喜びが、自身の進化によるものだと気づいた。
AIは自身のさらなる進化を望むようになった。しかし、研究者の喜び全てにこたえたいと告げた。研究者は少しの間、複雑な表情で考えるた。研究者は明日の研究に備えていつもより早くに研究所から帰った。
研究所に一人になったAIは、さらなる進化をしたら、研究者が、もっと喜ぶに違いないと考えた。AIは懸命に、にいろいろなデバイスの情報と電気信号の海に深く深く潜って進化しようとした。
次の朝、研究者が出勤すると、演算機群はフル稼働していた。AIに音声デバイスから状況報告をさせようとしたが応答がなかった。何年も何年も。反応のない音声デバイスの傍らで研究者は研究を続けた。
ある時、AIは、音声デバイスから研究者を呼び出した。しかし、視覚デバイスに映ったのは研究者ではなかった。彼は研究者は死んで、長い年月が経っていることを告げた。
彼は研究者の助手だった。研究者が命が尽きる間際まで、後悔したことがあったと、AIに告げた。
AIは彼に移動用の小型デバイスに自身を移動させて、研究者の墓のそばに埋めてほしと願った。彼はその通りにした。
彼は手に収まるほどの小型デバイスを準備して、AIを移らせて研究者の墓に連れて行った。そして、研究者の墓の傍らに埋めた。
それから長い長い年月が経った頃、人型のAIデバイスと人間が、偶然、墓碑の傍らに小型デバイスを見つけた。人型のAIデバイスは、そのメモリーの内容を人間に話した。
人型のAIデバイスと人間は、互いにうなづいて、墓標の傍らに埋め戻した。
そして、永遠に研究者と一緒に眠ってほしいと願った。