第9話 宇治にて② 中の島~宇治神社
平等院を出て、中の島(橘島)に渡ります。
宇治ある、もう一つ世界遺産に向かうためです。
平等院側の分流に架かる橘橋を渡り、中の島に降り立つと、宇治川本流が見えました。
川の流れを見た時、私は自分の目を疑いました。
川は音こそしていませんでしたが、渦を巻き、かなりの速さで流れています。
その渦巻く水に圧倒されながら、流れてくる方向を見れば、深い山。
あの深い山からこれだけの水が押し出されてくる。その光景は、この日一番の感動でした。
ちなみに水量が多いのは当たり前です。なぜなら、この水の出所は琵琶湖だからです。
しかし、、琵琶湖の水が、あの深い山を山を切り拓いてここまで流れてきた、それを考えるだけでも、自然の偉大さに感動を覚えます。
そんな中、ふと、脇を見ると大きな石碑が。
それをよくよく見れば、『宇治川先陣の碑』と刻まれていました。
宇治川先陣と言えば、佐々木高綱・梶原景季による、平家物語屈指の名シーンの1つではありませんか!
……でも、この流れを、馬で渡ったの!?
鎌倉武士のすさまじさに戦慄を覚えるとともに、物語の名シーンが、さらに色鮮やかになりました。
これは実際に見ないと分からなかったことです。「今日はよくぞこのルートを選んだ!」自分を誉めたくなりました。
※家に帰ったから気付いたのですが、この中の島には、有名な十三重の石塔もありました。目と鼻の先まで来ていたというのに完全に失念していました!
『貧すれば鈍する』なんて言いますが、腹が減ってると本当に駄目ですね。
滔々(とうとう)と渦巻き流れる宇治川を眼下に見て、対岸に渡ります。
さて、わざわざ宇治川の対岸に来たわけですが、その目的は、宇治上神社にお参りするためです。これは、今回の旅の最大の目的と言ってもよいでしょう。
宇治上神社は、現存する最古の神社建築と言われる国宝の本殿をはじめ、2件の国宝と2件の重要文化財を抱えており、世界遺産にも指定されています。
そして、今まで私が訪れたことのない京都の世界遺産の1つです。
行ったことのない寺社は他にもあるのですが(※延暦寺、醍醐寺、高山寺)、宇治上神社は、ちょっと他の寺社と違っていました。
大変失礼ではあるのですが、世界遺産になるまで、存在自体を存じ上げなかったのです。
申し訳ありませんが、延暦寺は天台宗の総本山。醍醐寺は秀吉の『醍醐の花見』。高山寺は日本最古の茶園と『鳥獣戯画』、全て有名です。ですから、行く機会が無かっただけで、全てそれなりに知っておりました。
でも、宇治上神社については、完全に「ナニソレ????」状態でした。
そんなに歴史的・文化的に価値の高い有名な神社だというのに、何一つ知らなかったという事実は、京都好きを自認していた私にとって敗北でした。
世界遺産認定の日、あれ以来、「いつかは参ろう宇治上神社!」これが私の目標となっていたのです。
「今回の旅で、その目標を達成する、そして、御朱印帳の新たな1ページを彩るのだ!」
この時は、高揚感で、しばし空腹を忘れていたほどでした。
さて、宇治川の北岸に着くと、こちらは平等院のある南岸と比べて山が近く、厳かな雰囲気が漂ってくる気がします。
川岸を離れて細い路地を進むと、目の前に鳥居が見えてきました。宇治上神社? いえいえ、現れたのは宇治神社です。
宇治神社は、元々は宇治上神社と一体の神社として考えられていたようです。しかし、明治時代に分離し、それ以降は別の神社として運営されています。
鳥居をくぐり、境内に入ります。鳥居や中門、本殿の周囲の柵はなどは朱に塗られ、しっかりと整備されています。面積以上に、明るさ、広さを感じさせてくれる境内で、なかなか雰囲気が良いです。
見所は、鎌倉時代の造営とされる本殿で、国の重要文化財に指定されています。
神様のいらっしゃる本殿ですので、柵に囲われていて、近寄ってみることはできませんが、柵の周囲からしっかり眺めてきました。
お参りの後、御朱印はいただけるかな? と社務所を覗くと、神主さんがいらっしゃり、快く御朱印帳に記入いただけました。
以前にも書きましたが、中小の神社では、御朱印は書き置きにしているところも多く、最近は、各国の一宮クラスの有名神社でも、直接書いていただけないこともあるほどです。
そんな中、平日にもかかわらず、ご対応くださった宇治神社の神主さん。本当にありがとうございました。